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中国知財 推薦性業界標準の標準必須特許侵害で300万元の賠償命令

(トップの写真は事務所からの風景で、投稿内容とは関係ありません)立秋を過ぎて、猛暑が続いていた北京でもようやく朝晩が少し涼しくなってきました。過ぎてしまえば暑さを忘れる、、、のかもしれませんが、恐らく地球温暖化により、これからの夏はずっとこれ以上の暑さが続くのかも。雲南あたりへの移住を考えないといけないかなあ。

さて、8月11日付現地の知財メディアで、「標準必須」に関する判例が紹介されていたので、判例DBを検索して、判決文を読んでみました。
徐斌、宁波路宝科技实业集团有限公司与河北易德利橡胶制品有限责任公司、河北冀通路桥建设有限公司侵害发明专利权纠纷案
判決は2022年6月ということで割と最近です。

事件の概要は、ざっくり言うと
橋梁の伸縮装置に関する推薦性の業界標準に絡む標準必須特許について、被告1の装置製造メーカーと被告2の橋梁施行業者が特許侵害で訴えられ、一審では差止めなしの損害賠償10万元、二審(最高人民法院)では原審取消、被告1の装置製造メーカーの製造、販売の差止めが認められ、一方被告2の施行業者は合法出所の抗弁により、装置を使用する行為に対しては差止めが認められず、損害賠償では300万元が認められた、という案件です。

私が読んだところでは、本訴訟の面白いポイントは2つです。
1)政府の入札で、推薦性標準に従うことが要求されていた
2)標準必須特許を巡る権利者と実施者の交渉過程において、権利者が独占許諾をしていたことが、一審ではFRAND違反と認められた(二審で覆った)

それぞれ、もう少し解説します。
1)政府の入札で、推薦性標準に従うことが要求されていた
原告のcは専利権者であり、同じ原告の路宝公司の法定代表人です。
じつはこの方、今回の訴訟で出てくる推薦性業界標準の執筆者であり、しかも、その業界標準の序文には、
「本標準の発表機構は、以下の事実に注意し、本標準に合致するとき、<徐斌の専利番号>を使用できることを声明する」
「専利権者は、本標準の発表機構に以下を保証する:
如何なる申請者とも、合理的及び非差別の条項及び条件で、ライセンス使用許諾証について交渉を行う。」
と書かれています。ようするに「この推薦性標準に準拠したら、私の持っている特許使いますよ。FRANDで実施許諾しますよ」ということです。これだけなら問題なさそうですが、判決書を読むと、
河北省政府の道路工事の入札において、その工程の中に記載された構造図面の中で、この推薦性標準に従うことが要求されていた、のです。
これって、、、判決書の中ではわざわざ、推薦性標準であり、国家強制標準ではないと記載しているものの、実質的には、、、、強制ですよね。

業界標準に特許を入れ込む→政府入札で実質的に当該業界標準に準拠することを要求する→権利者にライセンス料が入る→そのお金の一部は、、、となかなか闇を感じます(考えすぎ?)。

2)標準必須特許を巡る権利者と実施者の交渉過程において、権利者が独占許諾をしていたことが、一審ではFRAND違反と認められた(二審で覆った)
こちら、権利者である原告の徐斌氏が、同じく原告である自分の会社路宝公司にライセンス料0元で独占許諾していたことが、一審ではFRAND違反と判断されました。
ただ、こちらはちょっと不思議な判断ですよね。実際、二審では、権利者と利害関係にある者との契約と、権利者と標準必須特許のライセンスを受けるその他大多数の会社との契約は、同じではない、と判断されて、FRAND違反ではないと判断されています。
損害賠償額に関しては、原告権利者が他社に対して行った契約の具体的な金額が判決文の中に記載されており、「入札総額の20%」という記載もありました。これって相当、相当高い額のように思えます。。。

最近、中国経済の減速がニュースになっていますが、お金に困った地方政府が、「標準」を駆使して、実質的な強制標準でお金を巻き上げる手法が横行したら嫌だなあ、と思ってしまいます。


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