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中国知財 最高人民法院による「営業秘密侵害民事案件の法律適用の若干問題に関する規定」法釈[2020]7号

2022年4月に最高人民法院が不正競争に関する司法解釈を出していましたが、それに先立つ2020年9月には、営業秘密侵害民事事件に関する司法解釈が出ています。
日本では営業秘密関連の規定は不正競争防止法の中にまとめて記載されていますが、中国では営業秘密はどちらかというと企業が保有する知的財産に関係する、特許や著作権に近いものだと考えられているらしく、不正競争防止法の中から飛び出しつつあります(単独での営業秘密関連法の制定を検討しています)

今回たまたま営業秘密に関係して、勤務先事務所で文章校正を行う機会があったので、このタイミングで司法解釈の内容も(今更ですが)眺めてみました。事務所の同僚中国人弁護士の話では、この司法解釈によってこれまでよりは権利者サイドで訴訟しやすくなった、ということで興味深い条文をピックアップしてご紹介します。
第三条 権利者が保護を請求する情報が被疑侵害行為発生時に所属分野の関係者に普遍的に知られ容易に得られるものでない場合、人民法院は不正競争防止法第九条第四項にいう公衆に知られていないと認定しなければならない。

第四条 第二項 公衆に知られた情報に整理、改変、加工を行った後に形成された新情報については、本規定第三条の規定に適合する場合、該新情報が公衆に知られていないと認定しなければならない。

上記は「営業秘密」と認定されるための三要件の一つ、「非公知性」に関する条文です。簡単にまとめると非公知性を証明しやすくなった、ということです。
裁判官の裁量が大きい中国では、経験の少ない裁判官ほど及び腰になって、様々なことを証明するハードルを上げてくる、ということがあります(これは裁判実務に限らず、ビザ更新とか一般的な行政でもそうなので、中国での普遍的な暗黙のルールといえそうです)。上記は割と一般的なことを書いているようで、そういった及び腰を防ぐ足かせになるように思われます。

第九条 被疑侵害者が生産経営活動において営業秘密を直接使用し、又は営業秘密に対して修正、改変を行った後使用し、又は営業秘密に基づき関係する生産経営活動を調整、最適化、改変した場合、人民法院は不正競争防止法第九条にいう営業秘密の使用に該当すると認定しなければならない
第十条 当事者が法律規定又は契約約定に基づき負う秘密保持義務については、人民法院は、不正競争防止法第九条第一項にいう秘密保持義務に該当すると認定しなければならない。
このへんの条文も、当たり前っぽく思えますが、裁判官の大きな裁量という色眼鏡を通してみると、味わい深い条文です。当事者間で秘密保持契約したのに、法律で規定された秘密保持義務に該当しない、という判断のほうが不思議に思えますが、、、、従業員として採用されたいから契約にはサインしたけど、義務を負った覚えはないとか、被疑侵害者から言われるんでしょうか。

第十二条 人民法院が、従業員、前従業員が権利者の営業秘密を取得するルート又は機会を有するかどうか認定する際、それに関係する以下の要素を考慮できる:
(一)職務、職責、権限;
(二)責任を負う本務業務又は組織が割り当てる任務;
(三)営業秘密に関係する生産経営活動に関与する具体的状況;
(四)保管、使用、保存、複製、制御又はその他方式により営業秘密及びその媒体に接触、取得したかどうか;
(五)考慮されるべきその他の要素。
第十三条 被疑侵害情報が営業秘密と実質的区别が存在しない場合、人民法院は、被疑侵害情報が営業秘密と不正競争防止法第三十二条第二項にいう実質的に同一であると認定できる。
人民法院が前項にいう実質的に同一であるかどうか認定する際、以下の要素を考慮できる:
(一)被疑侵害情報が営業秘密と異なる程度;
(二)所属分野の関係者が被疑侵害行為発生時に被疑侵害情報と営業秘密の相違に容易に想到するかどうか;
(三)被疑侵害情報と営業秘密の用途、使用方式、目的、効果等が実質的な差異をか有するかどうか;
(四)パブリックドメインにおける営業秘密と関係する情報の状況;
(五)考慮すべきその他要素。

割と実務で効いてきそうな条文がこちらです。営業秘密侵害はその秘密という特徴からとにかく訴訟時に侵害を立証するのが困難です。第12条は、「侵害者が営業秘密を取得した」ことを立証するのに関連する条文で、裁判所で「実際に取得した」ことまで証明することを要求されると、権利者は相当厳しいわけですが、第12条によって、被疑侵害者がそれなりの職位にあって、任務を有していて、関与もしていた、、、ということを詰めていけば、営業秘密に接触した蓋然性が高い、と判断してもらえることが期待されます。
同様に第13条も、「権利者が有する営業秘密と、被疑侵害者が有する情報が一致する」ことを立証するのに関連する条文で、こちらも裁判で「厳格な一致」まで証明することを要求されると、権利者は相当苦しいわけですが、第13条によって、相違の程度や相違の容易想到性、用途等からの実質的な差異の有無を考慮できるとされ、厳格な一致でなくても同一だ、と判断してもらうことが期待されます。

権利者に優しい司法解釈ということができそうですが、裏を返すとそれだけ中国国内でも営業秘密漏えいが問題になっているのだと思います。中国の関連法律法規、過去の判例に従って、しっかりとした対策を行っておく必要があるように思います。


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