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子育てをしながら声優をすること

Twitterで「読みたいテーマ」のアンケートをとったら、
「子育てをしながら声優をすること」というテーマが一番投票が多かったので、
私の体験を振り返りながらお話をしていこうと思います。苦労話ばっかり書いちゃうと思う。
(投票をしてくださった方、ありがとうございました!)

まず、私の身の回りの環境はこんな感じでした。

*旦那さんはフルタイム会社員(時期によっては会社泊り込みあり定時退社不可)
*家から徒歩5分の場所に義母家族が住んでいる(義母はパートで働いている)
*私の母はATLという病気で常時生死を彷徨う状態

義母が近くに住んでいるというのは、子育てをしながら声優をするのに非常に助かった環境でした。義母には何から何まで頼りっぱなしだったので頭が上がらない……!

▼ジュニア(新人)期間に「子供は産めない」という暗黙の……

 声優業界には「ジュニア」という期間があり、新人として一定のギャラで3年間(現在は5年間)お仕事をする制度があります。役者としては「新人として頑張る期間」だったりします。当時の新人仲間(女性陣)でよく聞いた話が、

「ジュニアの期間中は子供産めないよね」という言葉。

「事務所から売り込んでもらえなくなるのでは……」
「ディレクターから仕事を呼んでもらえなくなるのでは……」
「ジュニアが終わってから子供は考えようかな」

スケジュールのNG(自分でお休みをもらうこと)すら憚られる新人期間。
10年前くらいの業界では確かにそんな雰囲気を肌で感じていました。

実際に私が妊娠中、とあるディレクターから、
「ジュニアなのに妊娠するなんてどういうつもり?」って直接言われました。
(今となっては立派なマタハラになるなぁと思っているのですが)
仕事を中心として考えると、その発言にもまぁまぁ納得がいきます。

声優という仕事は、会社員のようにお給料が毎月保証されているわけではないですし、お仕事をしなければギャラも入ってきません。
1つの仕事が次に繋がるかもしれないし、次がなくなるかもしれない。
まさに綱渡りの状態です(これが3年間、現在は5年間)

それから新人期間は特に「代わりはいくらでもいる」そんな世界です。

女性には妊娠、出産というライフイベントが入ってくることがありますが、
個人的には「ジュニアの期間、妊娠と出産の時期分だけ延長できたら良かったのになぁ」と思うことがあります。(一般会社員でいうところの産休、育児休暇みたいな感じ?) 現在もそういう措置を取ることができるとは聞いていないので、やはりジュニア期間中は、妊娠、出産する人は少ないのかもしれないですし、いたとしても淘汰されていくのが現実的にあるのかもしれません。(肌感覚なのであまり鵜呑みにしないでほしいところはあるのですが)

▼妊娠中と出産のこと

妊娠初期はつわりで食べられない、ということがあったものの(果物のビワしか食べられなかった)、その後は普通にお仕事を続けていました。出産予定がお正月だったので、その前の月の12月には産休を取ろうかと思ったところで収録が入ったりして結局、出産の2週間前までお仕事を続けていました。

妊娠37週(いつお産になってもおかしくない時期)ぐらいからは、いつでも病院に行けるように、入院のための荷造りをパッキングしたり、仕事に行くカバンの中に母子手帳、バスタオル2枚などを入れて収録へ行っていました。収録のスタジオではみなさん励ましの言葉をたくさんかけてくださってありがたかったです……!

私はジュニア1年目で妊娠をして、最初は正直悩みました。
だけど、最初に事務所に報告したときに、
「ママさん声優大歓迎だよー!」と事務所の荘真由美さんに言ってもらえたことが、本当に救いになりました。

それから、私は同時にこんなことを思いました。

「人間が自分のお腹の中で育つとかめっちゃ面白そう(無類の生物好き)」
「自分の母親がもうすぐ死ぬかもしれないのに、孫は見せないといけないんじゃない?」
「妊娠中でもギリギリまで仕事してた声優さんもいるし、早期復帰する人もいたしいけるやろ!(謎の自信)」
「出産後も仕事めっちゃするつもりですけど何か?(強気モード)」

個人的には母親がいつ死んでもおかしくないという状態と、妊娠が同時進行というのはずっとドーピングをして常時ブーストをかけている(気が全く抜けない)という感じだったので、精神的にもちょっと私がおかしかったのだと思います(笑)

8年経った今となっては「もう少しゆっくり復帰しても良かったかもしれないな」と思うこともあります。若さゆえにできたことなのかもしれません。

あ、あと仕事とはあまり関係ないですが、妊娠中に心理カウンセラーの資格を取りました。(これは子育てをする上で非常に役に立ちました。私のメンタルコントロールをするのにも。)

そもそも出産予定日がお正月だったので、お仕事にはまったく影響がありませんでした…!(破水がまさかの元旦だったりしましたが)

出産後に大変だなぁと思ったことは、身体がベストな状態に戻るまで半年ほどかかったことです。また声の状態もゼロから作り直すような感じでした。産後の骨盤はほぼ複雑骨折のような状態なので、歩く時に痛みを感じたりという時期が長かったです。

出生届を役所に出しに行ったのも私で、今となってはなんで私、体がボロボロの状態で一人で動いたんだろうって後悔してます。(旦那さんはもちろん「仕事で行けない」の一点張りでした。) 私、この状態でもしんどかったのに、シングルマザーの皆さん凄くないですか……。尊敬します。

▼子育て中のこと

産後1ヶ月で仕事に復帰しました。制作会社さんがたくさん配慮してくださって、産休中のレギュラー番組は何本かまとめて収録させてもらったりと大変助かりました…!!

その後は通常通りにお仕事をしていたのですが、長尺のお仕事(朝10時から夜10時までみたいな現場)も普通にあるのですが、その時は義母に息子をお任せして行っていました。母乳とミルク混合で育てていたので、収録中に胸がどんどん張ってきて痛くなってくるわけです。休憩中にトイレに駆け込んでは搾乳機使っては捨てて…みたいなことを繰り返していました。

残念ながら(?)私は仕事大好き女なので、子育て一番!みたいな感覚になることはできませんでした。それは私が妊娠をする前もそう思っていたので。私の母親からは口酸っぱく「母親の愛情とは」と言われていましたが、そんな風にそもそも私を育ててこなかったアンタに言われてもナみたいな状態。

ちなみに離乳食を作る暇があれば台本読みたい自分第一主義を貫き通しておりましたので、食事の半分(いやそれ以上)は市販のベビーフードでした。和光堂さんの離乳食にどれだけお世話になっただろうか…!!

冒頭にも書いてある通り、旦那さんはフルタイム出勤&定時退社不可で、仕事が忙しい時は終電で帰宅したりという生活でしたので、日中の子育ては義母に頼りつつ、私がワンオペのことが多かったです。ワンオペの日は「私はいつ台本チェックをしたらいいんだろう…」と途方に暮れました。

▼認可保育園にはまず入れない

出産後しばらくして保育園の入園を考え始めました。当時、私が住んでいる地域は「待機児童ワースト3」に入るほど待機児童が多く、認可保育園に入れるのはわずか一握り。

義母は「私が見るよ〜」と言ってくれたものの、高齢だし、パートで働いているし、今までずっと働いてきた彼女を私の都合でいきなり子育て任せるって、嫁としてどうなのよという気持ちにもなり……。
また義母のパートのシフトと重なった場合は、無認可保育園の一時預かりを利用したり。でも、仕事をしたとしてもギャラの半分以上は保育料で消えたりとかザラでした。(働いた意味よ……と悲しくなりますね。)もちろん新人なので「子育てがあるから抜き収録にしてください」とか言えるわけがなく。(ベテランさんでもない限り言えないのではないだろうか?)

基本的には「両親が会社で週5フルタイムで働かないと認可保育園には入れない」が原則。

もちろん私の稼働時間では保育園に入れるはずもなく……。
そもそも自営業っていうだけで選考漏れする。
(長尺の仕事が毎日入るわけじゃないじゃないですしね。)

かろうじて家庭福祉員が子供を見てくれるベビールームに入所できることになりました。(ベビールームは時短や、パートさんのママが預けられるような感じです。)

しかしベビールームでの保育は長くて2歳までの保育。その後の私の仕事を見据えてもどうにかして保育園に入れておかねばならないと、考えに考えた末、

保育園に入るために一定期間、会社でフルタイムで働く。

という結論になり、私は声優の仕事の傍らフルタイムで働くことにしました。

その後、ありがたいことに、認可保育園に入ることができるようになりました。
息子が1歳の時の働き方は今思えば異常だったと思うし、ここまでしないと保育園には入れない現実に、「そりゃぁ子供産む人減るわ……」と思いました。

尚、私の住んでいる地域では、あまりにも待機児童が多くなりすぎて、
翌年、新設の認可保育園が8つもできました。(遅いよ! でもありがとう!)

▼乳幼児期とジュニア3年目が重なったときの精神状態

「ジュニア(新人)期間中は産めないよね」の本当の意味を知ることになる。新人期間の最終年(3年目)が信じられないほど仕事が多くなりました。子供がいない状態でも割とハードなスケジュールになってしまいました。子育てで台本チェック、リハーサルチェックができない、物理的に時間がない。息子が寝てからチェックやるかと思っても夜中に泣き出す……そんな毎日を繰り返していました。

旦那さんの協力があればまだ良かったのですが、「自分の出勤のルーティンが崩れるから嫌」と保育園に息子を連れて行くことは一度もありませんでした。世の中にいるお父さんでフルタイムで働いているから子育てしなくていいなんて考えがあるなら即刻考えを改めていただきたい。

あまりにも、な期間が続いてしまい、とうとうマネージャーに「ちょっともう、無理かも!!」と泣きながらヘルプを出したこともあります。独身ならできたであろう仕事の分量も子育てしながらはさすがに無理!!! 個人的にはこんなことでマネージャーにヘルプを出すなんて情けなくてすごく恥ずかしかったです。

この時期に「抜き録り(自分のセリフだけ個別で収録すること)」ができたらなー、と思ったことが何度もありました。まぁ、無理だったよね。

▼収録中に保育園から呼び出しを食らうと詰む

乳幼児期はとにかく発熱する。ましてや、息子は小児喘息も持っていて、とにかく保育園から呼び出しを食らった。

これを収録中にやられると精神的に大ダメージを食らうわけです。MPがMAXだったのに瀕死状態になるみたいな。そんな時はほぼ義母にお迎えに行ってもらっていました。(義母いなかったらどうなっていただろうと今でも思ったりする。)

そして、収録が終わったらダッシュで帰宅して息子を引き取り看病する……看病している傍には未チェックの台本が数冊……。義母宅で息子を泊らせられたら幾分か楽だったのだろうけど、残念ながら息子が嫌がって嫌がってそれはできなかった。未チェックの台本に早く取り掛かりたいのに、できない恐怖。でも残念ながら現場に入ったらそんなの関係ないわけで。

この時に私が常々イライラしていたことは、「なぜ父親が迎えに行けないのか」っていうところ。仕事なのはわかるけど、ふざけんな会社員。有給使えよ、会社員。私も仕事なんだよ。

▼コロナ禍での収録は子育てには向いている

息子が小学校に進学して、コロナ禍になった。ここから、声優の収録事情は大きく変わった。感染防止対策のために、スタジオに入れる人数が3人or4人になり、個別で収録するスタイルに変わった。2年経った今も、少し規制が緩くなったとはいえ変わっていない。個別で収録するスタイルは役者側としては拘束時間が今までよりも大幅に少なくなった。

長尺作品は拘束時間が「10時から21時」みたいなこともあったのに、コロナ禍になって概ね2時間以内になっていたりしている。(もちろんこのスタイルはスタッフさんたちに、より負担がかかります。スタッフさんの拘束時間や録音後の処理がめちゃくちゃ増えるので。)

ただこのスタイルは「子育てをしている」というパパママ声優にとってはとても助かるのです。ベビーシッター を頼むのにも拘束時間+移動時間くらいでOKなので。金銭的、精神的負担が軽くて済みます。拘束時間が減れば、そのぶん自分の時間が少しでも増えて台本、リハーサルチェックができる。

「掛け合いで芝居をすることが大事」という考えも根強い。芝居は一人芝居でもない限り、相手がいるから当然のこと。

でも国を飛び出してみたら? なぜアメリカ、ヨーロッパはずっと1人ずつで収録してるの? 

なぜそれでお芝居が成立してるの? 

いろんなところから学ぶことは必要だと思うんだけどな。

人間は「習慣が変わること」を嫌がる生き物だと思っているので、「昔の方が良かった」なんて発言がよく出るのだと思っています。とはいえ、時代に柔軟に変化できないと生き残れないのも生き物の定めだとも思っています。(和もある程度大事にしないと生きにくい国だとも思っている、難しいよね)

日本は日本のスタイルがあるから、と言えばそれまでなのだけど、「子育て」という視点から考えると以前の収録スタイルはやっぱり負担が大きすぎると思う。この負担が子育て中の声優の「仕事への諦め」に繋がってしまうともったいないなと思ったり。

子育ては、人間の成長過程を赤子からずっと見ることができる。これは役者の勉強をする上でとても勉強になるし、より深く人間を知る絶好の機会でもある。人間の本質も見ることができる。それが役者の仕事でアウトプットできたら最高だよな、と個人的には思います。

私の場合は、近くに義母がいることで助けられた部分がかなりありますし、義母のいろんな時間、精神的なものを犠牲にしていることで、私が心痛むこともあります。これはあくまで私個人の話。

親御さんが遠方にしかいない方も多いでしょうし、そういう方々はもっと負担がかかっていると思います。少しの時間だけ、精神的にも金銭的にも負担が少なく、子供を預けられるサービスがあったりするといいのになと思います。(ベビーシッターとか、公的なサービスは充実してきたなとは思いますけどね。)

最後までお読みいただきありがとうございました。

ミルノ純




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