魑魅魍魎の主


僕は"Monster"が好きなのだ。


もちろん、怪物のことではない。

エナジードリンクのあの"Monster"だ。


すごく好きなのだ。


ほぼ毎日飲んでいる。

年間300本以上は余裕で飲んでいる。

大好きなのだ。


単純に味が好きなのだ。

あの栄養ドリンク特有の癖のある味。

初めて飲んだのは、高校生の時だった。

最初は逆にすごく味が嫌いだった。

カフェインで目を覚ますというより、まずくてその不快感で目を覚ましていた。

が、いつしかビールのように急に美味しく感じるようになった。

目を覚ますためではなく、ただ味を楽しむために飲むようになった。


とはいえ、あまり飲み過ぎると身体に良くないので、1日1本までにしている。

さらに、必ず24時間の間隔をあけて飲むようにしている。

特に大事な何かがある時には、気合いを入れるためにその直前に飲むことが多い。

ただ24時間の間隔を取らなければならないので、直前に飲めるように逆算して数日前から調整する。

僕はだいたい3日先までスケジュールを考えながら、調整して毎日飲んでいるのだ。


ゆえに、急用が入ってしまうと、僕の"Monsterスケジュール”が狂ってしまうのだ。


急用が入った瞬間、予定をスマホのスケジュールに入れるよりその前に、僕の脳内では緊急取締役会が開かれる。

全取締役員が顔面蒼白でそれぞれ状況整理をし、現状を打破するのに最適な修正案を提示する。

中には、飲料本数の上限を改め、1日2本飲んでその場を乗り切るべきだと強固な姿勢を示す役員も現れる。

また、24時間規則を破るわけにもいかないため、何とかそのスケジュールを修正し、規則遵守を最優先にすべきだという保守派の役員もいる。

様々な案が飛び交い、白熱の議論がなされるものの、最終的には中野渡頭取の判断に委ねられる。


彼は決まってこう言う。

「現場の判断に委ねる。」

と。


それゆえ、僕は1年で365本Monsterを制覇することはできないのだ。



そんなMonster教信者の僕が許せないことがある。



レジで商品を雑に扱う店員さんだ。


僕にとって、Monsterを飲む時というのは至福の一時だ。

厳しい資本主義の社会を生き抜いていくために、僕にとって必要不可欠なありがたい飲み物なのだ。

もはや、神聖な飲み物とさえいえるMonster様は、炭酸飲料だ。


ゆえに、衝撃に弱い。


僕は購入する際、少しでも衝撃を抑えられるように陳列された商品棚からレジまで細心の注意を払いながらお運びするのだ。

決して傷つけることなど無いように護衛し、また脅威となり得る危険性のあるものは先に排除する。

とにかく、己の危険は省みず、心臓を捧げる覚悟を持って、Monster様をお守りすることに命を尽くす。


と、このような私の苦労を意にも返さず、平気でレジにてMonster様を横に倒してしまうような輩が存在する。


己の愚行を詫びることなく、罪を償い切腹するようなこともなく、何事も無かったように振る舞う不逞の輩。


まさに、憤慨案件である。


お釣りを貰って少しニコっと笑顔で会釈をしてその場を去るものの、内心でじははらわたが煮えくり返っている。


本来であれば、その輩がMonster様を倒してしまったその刹那に抜刀し、首を撥ねてやりたいくらいであるが、今はもう廃刀令の時代であるゆえに、己の拳を強く握るしか他はない。

私はもうMonster教信者となってから、歴が長く経験も豊富なため、このような仕打ちにももう慣れているが、まだ日が浅い若い世代にとっては許せないことであろう。

こういった小さな不満が少しずつ積み重なり、大きな不満へと変わってしまうのだ。

やがてその不満が爆発し、幕末以来の攘夷運動がおこる可能性だって否定できない。


私には先の攘夷戦争を生き残ってしまった者として、下の世代を支えていかなければならない義務と責任がある。

ただ、それが再び攘夷運動を興すことではない。

血を流し、争いを続けることで生まれる平和など、ただの虚像に過ぎない。


己の命を捧げる必要なんてもう必要ない。

尽くすべき忠義も、敵をひれ伏す武力も、そんなもの必要ない。

ただ己が愛する人々を守ろうとする勇気だけで十分なのだ。


私が果たすべき最後の使命は、古き思想・悪しき伝統を断ち、愛を貫く正義を伝えることなのだ。


そのためであれば、私は喜んで鬼にでも悪魔にでもなろう。

私が今尽くすべきは、”平和”に対する忠義なのだから。



願わくば、不逞の輩と人件費を削減する無人・セルフレジの完全普及な世の中へ。





と、まぁここまでくだらないMonsterへの愛を綴っていると、恐らく読者の中には、


「あなたにとって、"Monster"とは?」


という質問がしたくなった人がいるだろう。


これは何ら不思議なことではない。

生物としてごく当たり前な本能的なもので、何ら恥じることではない。

ある種の道を突き進むプロフェッショナルを相手を目の前にすると、人間というのはそのような問いを投げかけたくなるものである。


僕なんかでよろしいのであれば、そんな期待にお応えさせていただこう。



僕にとって"Monster"とは、




「ずばり、”絆”である。」




さっそく、弁明させていただこう。



”絆”とは、どういうことか。


まず、"Monster"というのは、エナジードリンクである。


つまり、簡単に言えば、元気になる飲み物なのである。

前述したように、特に「気合いを入れよう!」と考える時に飲むことが多いのである。

分かりやすいイメージで、テスト前に夜遅くまで勉強しようという時に飲むのだ。

で、たまにしか飲まない人にとっては感じないことかもしれないが、僕のように"Monster"を飲む機会が多くなると、


「いつもしんどい時に、ありがとな。」


と、感謝の念を抱くようになるのである。


辛い時・これから乗り越えようという時、彼は必ず僕の傍に居てくれるのである。

どんな状況であれ、急な呼び出しとなってしまう時であれ、彼はいつも黙ってそこに佇んでいるのである。

そして、いつも何も言わずに、そっと僕の背中を押してくれるのである。


辛い時ばかりではない。

何かをやり遂げた時、心の底から喜びが込み上げてきた時、

そんな瞬間も、彼は僕と一緒に時を共有してくれるのだ。


これまでの、多くの苦楽を共にしてきた存在。

これからも、多くの苦楽を共にしていく存在。


僕にとってそんな彼は、かけがえのない”絆”なのである。




みたいな内容を某飲料メーカーのエントリーシートに書いたら書類で落とされました。






カフェインの過剰摂取には気を付けてください。






水瀬


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