愛の咆哮


恋愛バラエティー番組。


数年前から日本で大流行している新たなジャンルのバラエティー番組。

恋愛リアリティショーというカテゴリ名称もあるらしいが、そんなことはどっちだっていい。


僕はこの類の番組を一切見ない。


理由は単純明快で、他人の恋愛の行く末に興味を持てるほど自分の恋愛に余裕が無いからである。



恋愛バラエティーブームの火付け役となった“テラスハウス”が大流行した頃にも一切見ず、周りの会話にはついていけなかった。


少しブームが過ぎ去っているのかもしれないが、今でも色々な形態に派生した番組が有料動画サービスでやっている。


複数の男女が一つ屋根の下でシェアハウスを行う“テラスハウス”から始まり、一人の男性を複数の女性が奪い合う“バチェラー・ジャパン”、一人の嘘つきを含めた複数の男女の恋愛模様を繰り広げる“オオカミくんには騙されない“など様々なスタイルのものがある。




ん?


一人の嘘つきがいる?



なんでそんなことすんの。



恋愛リアリティショーちゃうんかい。



調べてみると、出演者の中に絶対に恋をしない“嘘つき”(オオカミくん/オオカミちゃん)がいて、その“嘘つき”見極めながら、また自分がその“嘘つき”でないことを相手に信じてもらいながら、恋愛をするとのことだ。



いや、



だから、なんでそんなことすんの。




両想いだと思っていた相手が嘘つきの可能性もあり、また自分が本気で好きにもかかわらず相手に嘘つきだと思われて恋が実らない場合もあるということだろうか。



なかなかに酷な番組である。



ま、僕個人的には道理に反することなく人を楽しませられているのであれば、1つのエンターテインメント作品として良いと思うが、よくこのご時世で炎上して番組終了にならなかったなと思う。




だがよく考えてみれば、番組とか関係なく、男女の恋愛そのものが現実世界で残酷なものであるから、一人くらい“嘘つき”がいることなんて大したことではないのかと思った。





おっと、ついソクラテスも腰を抜かすほどのギリシア哲学的な発言をしてしまった。



小さなことから新たな知を追い求めようとする己のフィロソフィア精神は感服ものである。




ま、そんなくだらないメタ認知はさておき、とにもかくにも僕は全く恋愛バラエティー番組に興味を持てない。





2年ほど前に、テラスハウスが題材の漫才を書きたくなり、参考にするために見てみたのだが、1話が限界で見るのをやめた。



もちろんネタも書けなかった。



さらに1年ほど前に、友達からテラスハウスの面白さを必死に説かれ、「騙されたと思って見てみ?」と教科書通りの決まり文句をかまされたので、別シーズンのものを見てみた。



何とか頑張って2話くらいまで見たが、やはり興味が持てず断念した。





あいつはオオカミくんに違いない。




前述したように、己の恋愛に余裕もない僕には、どうしても他人の色恋の顛末になど興味は持てない。




とはいえ、友達と恋バナや恋愛相談などは全然する。


むしろ、好きである。



定期的に恋愛事情の共有をするし、“恋愛コンサルタント”の資格を活かしたプランニングにも従事してきた。



自分に対して関わりがあるか/ないかがポイントなのだ。





となれば、答えは簡単である。





僕が恋愛バラエティー番組に出演すれば良いだけである。




というわけで、僕がバチェラー・ジャパンに出演するという恋愛シミュレーションショーを始めよう。





容姿端麗で社会的地位を確立している才色兼備の独身男性(僕)の下に集まってくれた25名の独身女性が、バチェラー(僕)の心を勝ち取るために熾烈な争いが繰り広げられる。



当然ながら、バチェラーたる条件には「独身男性」という項目しか満たせていないが、そんな小さなことを言っていては25名の子猫ちゃんたちに失礼だ。




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車を降りると、そこはどでかいゴージャスなパーティー会場だった。


あまりの壮大さに委縮していることを悟られないように、震える膝をムチを打ち、司会者のような男がいるところへレッドカーペットを歩いた。


男から意気揚々と全く意味の分からない握手を求められ、僕は首を傾げながらそれに応えると、豪華すぎてもはや下品にも思えるソファーに案内された。


司会者のような男が企画への意気込みなどを矢継ぎ早に聞いてくるが、過度な緊張でそれどころではない。




「今、25名の女性が、あなたに合うためにここへ向かってます。どうですか?」




25人!?選手11人×2チーム+監督1人×2チーム+審判1人で正式なサッカーチャンピオンズリーグの決勝戦が行えるではないか!



そんな女子受けしない例えツッコミを僕は何とか飲み込んで無言で頷いた。



結局、この男との会話は「はい。」と「そうっすね~。」というこの2種のカウンターで何とか乗り切った。




ディレクターの顔が明らかに曇っていた。




痺れを切らした司会者のような男は半ば強引に次の展開に進めた。


ほぼ脳がフリーズ状態のまま、気づけばドレスを着た一人の女性がリムジンから降りてきた。




こちらに向かってくる。




高校時代のデートの時と変わらない「いや、別にこっち向かってること気づいていませんよ?」という雰囲気を醸し出しながら明後日の方向を見て彼女の到着を待つ。





「長谷川 沙希です。よろしくお願いします!」





彼女は輝く煌びやかな笑顔で僕に深々とお辞儀をした。






「うっす。」






一切目を合わせることなく、僕は彼女の足元を見ながら軽く首を下げた。







「わー!身長高いんですね!身体も筋肉質でカッコいい!」





彼女は美しいドレスとは対照的で、可愛らしくはしゃぐ様子で少し拍手をしながらそう言った。







「あざっす。」






視線を一切変えず、僕は口元がほころぶのを必死で抑えながら、複数回軽く首を下げた。






視界の脇で何人かの番組スタッフが険しい表情で話し合ってるのが分かった。







その後も、一人一人女性がリムジンから降りて自己紹介を繰り広げる中、色んな高さのヒールが存在することを発見しながら、僕は首を少し下げ続けた。








女性がリムジンから降りてこなくなった。







ディレクターから収録日が別日になることを告げられた。







その後、番組スタッフと音信が途絶えた。








騙された。





出演したら25人もの女性を選びたい放題だと聞いたのに。





女性25名だけでなく、さらに何十人もの番組スタッフという大所帯で僕の恋愛をサポートしてくれると聞いていたのに。







僕はもう騙されない。







他人とは群れずに、自分の力だけでこの先の人生を乗り越えていく。








孤高の一匹狼として。





Q.E.D


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いや、無理。彼女募集してまーーーーす!








水瀬

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