ベトナム人労働者を撮影すること ① 初個展を振り返り。


『NEIGHBORS.』シリーズは2018年夏ごろから撮り始めたベトナム人労働者の生活の記録をまとめて、2021年に発表したものとなります。


「NEIGHBORS.」
 《 昨今なにかと話題になる、技能実習生という言葉。地方をはじめとした様々な職種で決して小さくない労働力を担いながら、ニュースで扱われる彼らの現状は見るに耐えないものが多いのではないだろうか。   そんな折、父の働く工場でもベトナム人技能実習生を雇うことになった。それから数年、彼らは共に働く父をはじめ、親身に接する母と身近な関係となっていく。一方私は、都内でベトナム人の支援活動をする日越ともいき支援会の取材を続けながら、全国各地から支援者の元に泣きながらかけこんでくる彼らの姿を目にしていた。 どうしてこんなにも違う運命を辿らなければならなかったのだろう。彼らと関わるとはどういうことなのか、そんなことを考えながらシャッターをきっている。》


 タイトルの『NEIGHBORS.』は隣人という意味の単語です。ベトナム人労働者を撮るきっかけは学校の課題でもあったのですが、キャプションにもある通り、私や私の両親にとって非常に近い関係の人々を撮影したところからシリーズがスタートしています。 そこから目にした私の両親を「お父さん、お母さん」と呼んで慕う彼らは、労働力としての技能実習生ではなく、隣人としての『人間』だという言葉が似合う関係なのです。

Vol.1にあたる『NEIGHBORS』の展示は2021年3月に四谷三丁目にあるギャラリーヨクトで行われました。 展示空間としてのコンセプトは「認識」と「拡張」でした。前述した父のもとで働くベトナム人をはじめとした静岡県富士市で出会った人たちと、東京や埼玉の支援団体への取材を通して出会った人たち。3年間見つめてきて見えてきた現実や違いはなんだったのかを「彼ら」を見ることによって考えるということを目標に空間を構成しました。

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入り口から入ってすぐの壁面には、静岡で出会ったベトナム人労働者の写真を中心に展示している。DMの写真は、等身大に近い大きさにプリントされ、壁面に直張り。木製フレームやパネル、貼りパネなど複数の額装方法で見えかたに差を作り、視覚的にその関係性を考えるような構成にしていました。

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正面の壁面には、東京を拠点に活動する日越ともいき支援会での取材を通じて知り合った人たちを展示している。彼らの言葉を共に額装して見せることで、ここに来るまでの背景や思いを感じさせる構成にしている。

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右側の壁面には、埼玉県にある大恩寺ベトナム寺院と日越ともいき支援会での写真を飾ってある。平面直張りの写真は、大恩寺の敷地内に保護されているベトナム人たち自身の手で作られたベトナムの伝統的な家が建っている。

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ある一人の元実習生のポートレートの上からパラフィンを乗せ固めた作品。彼らの存在は意外と近い場所にあるはずなのに、知らないというだけで認識することができないという自分自身の葛藤を表現した作品。


あえて同じ空間で、状況の異なるベトナム人労働者の写真を並べることによって彼らそれぞれの事実にフォーカスするのではなく、日本で働くベトナム人という大きな母体の中での差や変わらない部分に目をむけてほしいという思いを込めている。 

 それぞれに夢や目標をもって日本にやってくる。そこからの様々な状況を作り出しているのはどんな人々に出会ってきたかなのが重要なのではないだろうか。良い送り出し機関に恵まれ、良い会社に就職して、周りに手を差し伸べてくれる人たちがいたか。はたまた、生きるために無理をした結果、搾取の対象となったり、周りに相談できる相手がいなくて追い込まれてしまったか。

そんな彼らの状況を左右する「隣人」もまた「私」たちであることを「認識」し社会を見る視野を「拡張」させたいという思いを伝えたいということこそが、私が「ベトナム人労働者を撮影する」理由のひとつなのだと思っています。

初個展ということもあり、どこまで思いが伝わったかは正直微妙なところでした。セレクトした写真の枚数や見せ方、言葉の選び方まで反省することは多いのですが、それでも300人以上の方に見にきていただき、彼らの姿を知っていただくことができたのは意味のあるもなのだと思っています。


また、展示機関中に京都写真美術館さんや、朝日新聞(静岡県版)からのインタビューが記事となっていますので、両親の活動も含めて是非読んでいただきたいです。

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京都写真美術館さんの記事↑

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朝日新聞さんの記事↑ 

※タップすると記事のリンク先に飛べます。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回からは、7月の「NEIGHBORS. vol.2」の話をしていきたいと思っています。

よろしくお願いいたします。

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