燃ゆ、美
部屋が片付き始めて、ようやく部屋でお香を焚けるくらいの落ち着きを手に入れた。
なんとなくお洒落やんお香好きだし、といったミーハー心が始まりではあったけど、それくらいの軽さで始めた方が案外良かったりする。
百均で買った受け皿と簡易香立を使って、ライターでお香に火をつける。思っていたよりも“煙”って感じの匂いがした。でも、不思議と心は落ち着いた。
イライラもやもやしたらお香を焚くっていいかもしれない。何よりライターで火をつける瞬間がいい。ライターなんて普段使う機会があまりないから、それだけで正直ちょっと楽しい。燃える炎、案外好きかもしれない。
また、もやもやムカムカした。
急いでお香を取り出した。少し気持ちが安らいだ。でも、なんだか物足りなかった。
ふと、なにか別のものを燃やしたくなった。
揺らめく炎が、紙を燃え尽くしてしまうさまが、どうしても見たくて見たくて堪らなくなった。
近くにあった小さいメモ帳を1枚、ちぎる。
こんなんじゃ火事にならないよね大丈夫だよね、とドキドキしながら、メモの端っこに火をつけた。
やっすいライターが点けた小さな火はメモの形状に合わせてどんどん広がって、白と黄色とで模様づけられた紙を少しずつ着実に黒く崩していった。
対角線上の端っこを持っていた手を離して受け皿に置くと、紙はそのままめらめらと炎に吸い込まれていって、そのうちくるんと丸まった。
炎は紙の中心に集まるように小さくなっていき、最後に灰色の塊と小さな灯り、それを縁取る黒い炭が見えて、きらり、と輝いて消えた。
残ったのは薄いグレーのぱきぱきに燃え尽きたメモ帳だったなにかと、思っていたよりも焦げ臭い匂いだった。あ、これ結構やばいかも、ちゃんとなにかが燃えてしまった匂いがするな。誤魔化すために慌ててもう一本のお香に火をつける。つけた火を消したくなかったから一瞬だけ眺めてみたけど、それだとお香の意味が無いので仕方なく振り消す。安心できる香りが漂った。
なにかが燃え尽きていくさまを、初めて間近でじっくりと観察した。
炎と共に形を変え消えていく紙を、わたしは、すごく美しいと思った。
ちょっと癖になりそう。
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