猫は知っていた~読書記録257~
著者は仁木悦子。
1957年に江戸川乱歩賞を受賞した作品だ。
時は昭和、植物学専攻の兄・雄太郎と、音大生の妹・悦子が引っ越した下宿先の医院で起こる連続殺人事件。
現場に出没するかわいい黒猫は、何を見た?
ひとクセある住人たちを相手に、推理マニアの凸凹兄妹探偵が、事件の真相に迫ることに----。
鮮やかな謎解きとユーモラスな語り口で、一大ミステリブームを巻き起こし、ベストセラーになった江戸川乱歩賞受賞作が、装いも新たに登場。
仁木悦子(にき・えつこ)
1928年東京都生まれ。4歳で胸椎カリエスと診断され、歩行不能の生活を送る。
20代半ばから執筆を始め、57年『猫は知っていた』で第3回江戸川乱歩賞を受賞。
81年『赤い猫』で第34回日本推理作家協会賞短編賞を受賞。
爽やかな読後感の作風で人気を博し、本格派女流推理作家の先駆けとなる。86年逝去。
大井三重子名義で童話も発表し、『水曜日のクルト』(偕成社文庫)などの著作がある。
物語を読んだ時の感慨は、歴史書以上に歴史を知ることが出来ることだ。
この作品も然り。
昭和の半ばの日本がどういう時代であったか、今の若者には想像もつくまい。
個人宅がそのまま入院もできるような病院になっていて、住み込みの看護婦がそこで洗濯をする。料理は奥様、など。栄養士はいないのかい!とツッコミたくもなるのだが、昔の個人病院って、調剤薬局なしに、看護婦さんが薬をくれたななどとも懐かしくなるのは、私が年寄りだからだろう。
今では通用しないトリックなどもある。例えば、テープレコーダーを使っての電話など。更に言うと、科学捜査も進んでいるので、ミステリー作家には大変な時代かもしれない。
優秀な探偵が活躍は物語としては面白いのだが、今では、警察組織が主体の作品の方が多い気もするのだ。
黒猫がお婆さんの亡くなった場所にいた、など、エドガー・アラン・ポーの「黒猫」を多少意識しているのではないだろうか。
又、推理冴える兄と記録係の妹。それは、シャーロック・ホームズとワトスン博士を意識していると思った。
シャーロック・ホームズとワトスン博士のコンビのような形は、有栖川有栖の日村英生シリーズもだ。それから、杉下右京さんのドラマ相棒もだ。
ということで、やはり、シャーロック・ホームズは素晴らしい。
それよりも、私が感動したのが、作者の仁木悦子氏がこの作品を書いた時は、病気の後遺症で寝たきり。車椅子にも乗れなかったのだ。今なら、ネットやテレビがあるから、家にいながら世の中の事がよくわかるが、テレビも普及していない当時、寝ながらにして、あそこまでリアルな描写をよく書けたなと感服するのみだ。
そして、今読んでも決して古く咲くない。ただ、表現が「誰」を「たれ」と書いていたり、読むのに苦労した箇所はいくつかあったが。
若い人がどんどん読んで欲しいと思うのだった。
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