冷えきった街~読書記録284~
日本のアガサ・クリスティーと言われる仁木悦子氏による長編小説。
竪岡清太郎一家は続発する怪事件にまき込まれ、恐慌を来していた。長男・清嗣は睡眠中にガス栓を抜かれ、次男・冬樹は暴漢に襲われ、末娘・このみを誘拐するという脅迫状までが舞い込んだ。事件解明の依頼を受けた探偵・三影潤が謎に挑むが、やがて第一の殺人が起こり悲劇の幕があく。呪われた一家を待ち受ける運命は……。江戸川乱歩賞作家による傑作長編ミステリー。(本書紹介より)
仁木悦子さんと言えば、仁木雄太郎・悦子の兄妹探偵が浮かぶが、この作品の主人公は、ちょっと陰のある探偵・三影だ。
日本人の好きな探偵にチャンドラーが生み出したフィリップ・マーロウ探偵がいる。
「タフでなければ生きていけない・・・」の名セリフで、ハードボイルドの私立探偵だ。
相棒に出て来る私立探偵は、マーロウ探偵を意識しているのだ。
で、この仁木悦子作品の三影潤だが、やはりチャンドラーのマーロウ探偵を意識しているのかな?とも思うのだ。
しかし、僕に言わせれば、この世の中に絶対的な真理などというものはないんだ。正義も、道徳も、大部分はその時代その社会の中でだけ通用す便宜上のものなんだ。(本書より)
ネタバレは避けたいので、誰が犯人かは書かない。
ラストは、本当に悲しいものだった。犯人の悲しい動機があった。
だが、それでも三影探偵は「どういう理由があろうと、無条件で許すことはできない」と独白している。
この作品を通しても、仁木悦子さんの生きざまが感じられるのだった。