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狂気という隣人―精神科医の現場報告~読書記録279~

元都立松沢病院医師の岩波明先生が2004年に書かれた。
この本では、「分裂病」という語が出て来るが、現在は「統合失調症」である。

人口の約1%が統合失調症という事実。しかし、それが我々に実感されることがないのはなぜか。殺人、傷害にかかわりながら、警察から逮捕もろくな保護もされず、病院さえたらい回しにされる触法精神障害者。治癒して退院したはずなのに、再び病院へ戻ってくる精神病患者。疲弊する医療関係者。社会の目から遮蔽されてきた精神医療の世界を現役の医師がその問題点とともに報告する。(本の紹介より)

岩波明
神奈川県横浜市生まれ。神奈川県立湘南高等学校、東京大学医学部卒業。1993年「覚醒剤精神病の事象関連電位」で東大医学博士。東京都立松沢病院などで臨床経験を積む。ドイツ、ユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク精神科で学ぶ。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学精神医学教室准教授、昭和大学医学部精神医学教室准教授、2012年から主任教授。2015年より付属烏山病院長を兼務。ADHD外来を担当している。

従来の事件における被告人に対する刑事責任能力(心神耗弱・喪失)の鑑定について、十分な検証がないまま発達障害(ASD、ADHD)の認定が採用されてきたことに、警鐘を鳴らしている。


日垣隆氏の著書を読んでからのものである為、それぞれの立場というものを知ることが出来たのは大きい。
日本における問題点も現場で働く人ならではの話だった。

問題点をあげるとするならば、まず第一に、日本では司法精神医学がまったく育っていないことでしょう。欧米では司法精神医学は一般の精神科から独立しており、独自の組織とスタッフを持っています。そこでは専門的な施設があり触法精神障害の治療、研究を行っています。日本には、マスコミ好き・テレビ好きで犯罪マニアのための「鑑定屋」をしている精神科医は何人かいますが、彼らは殆ど現場での治療経験がなく、実際の役に立つとは思えません。(本書より)
これは、日垣隆氏による「そして殺人者は野に放たれる」に出て来る犯罪心理学偉い方とも一致かな?とも思うのであった。

そんな事はともかく、日垣隆氏の著書は、犯罪被害者とその遺族の立場から書かれたものであった。1つの事実があったとする。そして、それに対する様々な見方もある事を知るのだ。
テレビによく出る先生は、目立ちたがりなだけだろう。
岩波明先生は、現場での状況を克明に記してくれていた。
刑法39条に於ける日本の司法の問題点は、犯罪被害者の側からも嘆かれるが、受け入れざるを得ない精神病院の大変さが思うのだった。
これは、法整備をしようとしない国会議員の怠慢ではないのか?と又思って
しまう。
報道機関は、犯人が精神疾患を持つ人間ならば、実名を報道しないことが原則のようであるが、岩波明先生は、実名報道すべきであるとしている。

警察官は、犯行現場にいた人間が精神科患者であると判断すると、それ以降は病院に任せてしまうのだ。精神科患者絡みの事件は、大体は不起訴となり、自分の得点にならないからだ。
だが、訓練を受けた警察官と違い、医師、看護師らが、特に体格がいいとか屈強ではなく、暴れていたりすると大変なのだ。押さえつけて、静脈注射で眠らせ、と。
本当に、よくこの病院を皆さん、選択されたなと思う。
バブル崩壊後には、言葉の通じない外国人患者も保護されて入院となることも多かったようだ。お金の面でも苦心するのだ。不法労働者であることも多いようだ。

著者の岩波明先生が勤務されていた都立松沢病院の有様がよくわかる書でもあった。
松沢病院は歴史があり、年配の方の方がよくご存じのような気がする。

大正時代に作られ、精神疾患患者の為の病院である。

刑法39条により、無罪となった人間が措置入院となったあとは、法務省から厚生労働省にと管轄が移る。その日本の体制を議員の方々は、見直して欲しいなと思うのであった。


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