#05 背部兪穴のおはなし その1 / 臨床の周辺
六銭堂鍼灸院 藤原典往
『積聚会通信』No.55 2007年9月号 掲載
積聚治療では背部兪穴の治療をする時、背部を5つに区分してそれぞれを五行に振り分け、治療方針によって刺鍼する順番を変えることをします。この領域は上から〈金・火・木・土・水〉となっていますが、兪穴の並びが肺兪・心兪・肝兪・脾兪・腎兪になっていることに由来します。
従来の《五行》だと〈木・火・土・金・水〉の順番で書かれますが、ではなぜこの順番になっているのか疑問に思ったことはないですか?これは実は古典的な解釈から考えるとかなり複雑なことになります。
《五行》は古く五材と呼ばれており、生活に必要な5つの要素であったと考えられています。煮炊きをする火と水、工業製品の材料となる鉱石と木材、生活に欠かせない土地、これらに対する畏敬の念から大切に扱ったことがうかがわれます。
また古代中国は天人合一説からも分かるように天体に大変興味を持っており、天文学がとても発達していて惑星の木星、火星、土星、金星、水星の影響もあったようです。これらの考え方が秦の始皇帝の統一国家成立以後、現在伝わっている形に近いものにまとまったと言われています。
《五行》の特長には、①様々な現象や物などを5つに分類する、②それぞれが抑制し合う、③それぞれが助け合う、④循環するという事が挙げられるでしょう。ここで問題になるのが①の分類であり、私たちが色体表として盛んに使いますが、この分類が時代背景によって随分違うのです。
例えば皮膚は〈金〉に配当されますが、資料によっては〈土〉に配当されます。
何故かというと身体全体が土地でその表面にあるからという解釈です。では骨は何に当たると思いますか?土の中に埋まっていて硬いもの……〈金〉に配当されます。脈は〈水〉、皮膚に表れる色は〈火〉、毛や髪は〈木〉となります。
このように解釈によっては全然違うものを無理矢理に現在の解釈によりまとめたものが、学生の頃に四苦八苦した色体表なのです。
《五行》はそれぞれのイメージの展開によって配当されていますが、ほぼ確定しているものと時代背景などで解釈の違うものとがあります。前者は五方位、五色、五季で、それ以外は後者にあたります。《五蔵》も例外にもれず、『黄帝内経』の中を分析してみると五神は〈脾→智→火、腎→志→水、肝→魂→木、肺→魄→金、心→神→土〉となり、五主は〈肌肉→脾→木、皮→肺→火、筋→肝→金、骨→腎→水、脈→心→土〉となる可能性があります。
秦の始皇帝が行った焚書の後、口伝えを書き取った当時の文字で書かれた書物「今文(きんぶん)」と、民家の壁や地中から発見された古い文字で書かれた書物「古文(こぶん)」が存在していました。この2系統の書物は同じ書名であっても、文字だけでなくそこに書かれている内容も違うものでした。
この混乱を整理するため後漢の頃に白虎観という所で議論をしたそうです。当然、五行に関する事もこれらに含まれていた訳で、色々な書物を探せば現在伝わっている配当以外のものが有っても不思議ではないと言うことです。