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#06 背部兪穴のおはなし その2 / 臨床の周辺

六銭堂鍼灸院 藤原典往

『積聚会通信』No.56 2008年1月号 掲載

昔々、中国の王様の大切な仕事に、各季節に行う儀式がありました。この行事は《五行》的に構成されていて、万が一に季節を間違えてしまい、春の儀式を夏に行ったりすると、飢饉や洪水などの天変地異が起こるとさえ信じられていたようです。人々を治めるのを政(まつりごと)と言いますが、本当に祭りだったのです。
 
その儀式の1つに生き物の臓器を供物として奉げるというのが有ります。春には脾を、夏には肺を、長夏には心を、秋には肝を、冬には腎を奉げ物としていました。なぜこのような組み合わせになるかというと、唐の大儒学者である孔穎達はその根拠として「肺祭在前而當夏也。腎最在後而當冬也。從冬稍前而當春、從腎稍前而當脾、故春位當脾。從肺稍後而當心。故中央主心。從心稍後而當肝、故秋位主肝。」(肺を祭るのは前に在るからで、夏にあたる。腎は最も後ろに在るので冬にあたる。冬の次の季節は春である。だから腎より少し前にある脾にあたる。肺より少し後ろに在るのは心である。だから中央は心を主る。心よりやや後ろに在るのは肝である。だから秋の位は肝を主る)と説明しています。この配当は現在の《五蔵》配当とずいぶん違うのですが、石田秀実氏は『気・流れる身体』の中で生贄の生き物の頭を南向きにして、背開きにすると、臓器の位置がそれぞれ東西南北に当たると指摘しています。この文章のもう1つ面白いところは、「肺祭在前・・・腎最在後・・・從腎稍前而當脾・・・從肺稍後而當心・・・從心稍後而當肝・・・」とあるところです。この事は、《五行》に配当される以前にすでに《五蔵》が認識されていて、独立した概念を持っていること。更にそれには縦並びの序列が有ったことが分かります。これを整合性があるように並べてみると、前から《肺・心・肝・脾・腎》になりますが、この順番に何か気付かないでしょうか?そうです。《五蔵》を《五行》に入れ替えると《金・火・木・土・水》となり、積聚治療で使っている背部領域の並びになるのです。これらから分かるように、背部領域の順番は《五行》よりも、《五蔵》固有の並び方であると言えます。だからツボも〈肺兪・心兪・肝兪・脾兪・
腎兪〉になっているのです。


肺:肺は前(頭が南向き)にあり、一番の陽の場所であるから夏にあたる。
心:肺より少し後ろに在るのは心である。だから中央は心を主る。
肝:こころよりやや後ろに在るのは肝である。だから秋の位は肝を主る。
脾:冬の次の季節は春である。だから腎よりも少し前にある脾にあたる。
腎:腎は後ろ(北)にあり、一番の陰の場所であるから冬にあたる。


五行配当は時代や文化によって、様々なものがあります。場合によっては同じものであっても、分類の仕方によっては所属が違うなども起こります。《五行》も《陰陽》と共に固定的に考えず、状況に応じて変化して行くことで実用価値が出てくるのではないでしょうか。また、この意味でも五蔵の病証と直接結びつけず《五行》や《五蔵》を記号として扱うことは意味のあることだと言えるのです。