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助産と鍼灸(5)

風の子堂鍼灸院 中谷 哲

『積聚会通信』No.6 1998年5月号 掲載

最近連日のように母乳の中にダイオキシンが含まれていると報道している。このためか母乳育児に対してまたも、逆風が吹き始めている。過去にも何度も母乳育児は危機にあってきた。それにもまして現在、世界中で母乳育児が推進されているのは、他の何ものにもかえられない大きなメリットがあるからだ。栄養はもちろん、免疫、そして精神的な安定と実に多くの働きがある。
 
以前ドイツでは母乳中のダイオキンンを気にするあまり、授乳期間の制限を国として行ったことがある。離乳時期を生後4か月にするなどの措置をした結果、多くの問題が発生してしまい、現在では、国として誤りであったことを認めている。科学的調査が進むにあたり、母乳中よりも、牛乳のほうが多く含まれていることや、現在よりも過去のほうが含まれているダイオキシン量が多かったことなどが分かった。日本国内でもダイオキシンの母乳に含まれる濃度が最も高かったのは、1970年代で、現在の倍以上の濃度であったと厚生省は発表している。
 
厚生省は関係ないと否定をしているが、1970年頃からアトピーなどのアレルギー疾患が増えいることと、ダイオキンンとの関係を指摘する研究者もたくさんいる。
 
ともあれ、ダイオキンン量も以前より、減っている現在、そのことを気にして母乳をやめてしまうのはあまりにももったいないと思うのだが。
 
今、不安もあるだろうが母乳で頑張っている母親は多い。しかし、回りがそれを邪魔している例が多いのが気になっている。TVなどの恐怖心をあおるだけの報道を見て、母乳をあげるのをやめさせる祖父母がいたりするようだ。自然育児を目指す人にとって一番問題になるのは何かというと、やはり、祖父母などの本人たちの回りにいる人間である、と食事指導に積極的なある小児科医は言っていた。
 
しかしながら、楽観できない状況があるのも事実だ。今年の初めに埼玉県の市民団体が調査した、ゴミ焼却炉と乳幼児の死亡率の関係は、驚くべき内容であった。この調査で死亡率の一番高かった吉田町は、出生数千人に対して、およそ5人の新生児死亡があるということになる。この町は、 1960年頃から家庭用の簡易ゴミ焼却炉に補助金を出してきた。その結果、町のいたるところに焼却炉があり、その焼却灰が山積みになっている。現在の日本では、出生数千人に対して、およそ1人の新生児死亡がある。埼玉県の平均は、およそ2人となっているので、吉田町の異常さはずば抜けていることが分かるだろう。 この調査で上位を占めたのは、吉田町のような簡易焼却炉を推進している小さな町や、産業廃棄物処理場を多く抱える自治体であった。
 
厚生省が言うには牛乳にダイオキンンが含まれている事実に、含有量の多いところと少ないところとプレンドしているから、薄まっていてだいじょうぶ、だそうだ。ちなみに、欧米では出荷停止になる含有量である。家庭用簡易ゴミ焼却炉に対しても、今禁止したら、自治体が収集するゴミが増えてしまうので禁止できないそうだ。ゴミは人の命よりも重い。国会の答弁でそう宣言したのも同然であった。この問題は今の私たちの生活様式を問う重要な問題である。
 
私の鍼灸院の隣の薬局では、裏で毎日焼却炉からもうもうと煙を出して、何か燃やしている。鍼灸院でそんなことをしているところがないことを祈る。