#110 カスピ海は海か?湖か?

世界最大の湖とされているカスピ海。その大きさは約37万㎢で、日本の領土と同じくらいの面積である。塩分濃度も平均1.2%(海水は約3.4%)で、淡水の湖とは異なる。かつては地中海・黒海とつながっていたものの、大陸移動によって現在の地形になった。周囲は陸に囲まれ、外海と接していないことから、現代では地形的には海というより湖である。

カスピ海は2018年に湖から海となった。
カスピ海にはキャビアなどの水産物や石油などの埋蔵資源が豊富にあり、かつては、カスピ海に接するイランとソ連の2か国で共同管理されていた。湖の沿岸国には湖から得られる資源を均等に分配するというのが慣習だからである。
しかし、ソ連の崩壊によってロシア、カザフスタン、トルクメニスタン、イラン、アゼルバイジャンの5ヵ国がカスピ海に接することになった。カスピ海が湖だとすると、カスピ海の資源は5か国で均等に配分することになる。
しかし、カスピ海を海だとした場合、国際海洋法条約が適用されるため、領海と排他的経済水域(EEZ)を設定することで、海岸線の長さに応じて資源を分配することができる。
そこで、海岸線が長く北部に偏った埋蔵資源を採掘できるロシア、カザフスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンの4か国はカスピ海を海だと主張し、海岸線が短いイランは湖だと主張して資源の平等な分配を求めた。

議論は平行線だったが、アメリカがイランに経済制裁を加えたことで、周辺諸国との関係強化を図ったイランが譲歩したため、2018年に5か国の利害が一致する形となり、カスピ海は法律上「海」として定義され、各国は領海を設定した。

カスピ海は地形としては湖であるものの、法律上は「海」となった。沿岸国の政治的・経済的な利害関係が湖を海に変えたのである。

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【参考】


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