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むかしむかしのその昔⑥           異なる世界の割れ目

昨日、私はいつもとはちがう世界にいた。
最近の私はパソコンに向かうことが多い。インターネット環境が整うと、
なまものではなくバーチャルなものが増えた。特にコロナ禍になると、毎日のように顔を合わせていた人たちともネット通信での会話となった。
だから、久しぶりの外出は私にとって別世界のようだった。

さて、今日は昔読んだ本の一説を紹介する。

1956年、C・S・ルイスは、"Till We Have Faces "を発表した。
その話には、グロームの女王オールアルとその妹のプシュケが登場する。

オールアルとプシュケ

妹のプシュケは山の神の生贄となって山へ捨てられた。
そのプシュケをオールアルは悲痛な思いで探し回った。
すると、血色もよく、輝く瞳で現れたプシュケは、
自分の身に起こったことを話し始めた。
それを聞いてオールアルはいった。
「おまえは夢を見ていたのよ」
プシュケは言い返す。
「もしも夢だとしたら、どうやって私、ここに来られたと思う?
 これ以前のことのほうがよっぽど夢みたいだわ」
オールアルは、「ちょっと待ってちょうだい」といった。
「その話が本当だとすると、今までずっと真実というものを勘違いしていた 
 ことになるじゃない」

そして、オールアルはプシュケに宮殿を見せてくれと頼んだ。
「どういうこと?」プシュケはがたがたと震えだす。
オールアルは彼女自身、わけのわからぬ恐怖にとりつかれていう。
「だから、宮殿はどこなのよ。」
プシュケは金切り声を上げ、真っ青な顔をして姉の目を見据えながらいう。
「だけどここがそうなのよ、姉さん。ここなの。
 姉さんはおおいなる門をくぐったところにある階段に今立っているのよ」

 二人のそれぞれのリアリティが、割れ目をはさんで向かい合った。
 プシュケには見えても、オールアルには見えないのだ。

『呪術師カスタネダ』(絶版)第四章、P165より

 私はこれを読んだとき、ただぞっとしたのだった。


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