CDJ-3000の給電性能に関する備忘録

■前書き(22/08/23 21:50追記)
本記事が割とTwitter上で拡散され、リプライは少ないもののありがたいことにいろいろ言及していただいた。
が、記事内での記載内容にいくつか誤記・誤植があったため訂正しておく。文中での修正も行うが、すでに記事を読んでいただいた方向けに大まかな修正内容を先に記載する。

・Z!€mαさんの使用しているSSDの仕様について
×  USB3.2 Gen2x2 type-C
〇 USB3.2 Gen2 type-C
→単純にデータシートを見間違えていました

・Wikipedia出典のUSBの仕様表画像
× USB Power Delivery対応のUSB Type-Cは 1.5Aまたは3A
〇 USB Type-C Current対応のUSb Type-Cは1.5Aまたは3A
→出典 : USB-IF USB Type-C® Cable and Connector Specification Release 2.1 のP37 
https://www.usb.org/document-library/usb-type-cr-cable-and-connector-specification-release-21

Type-C CurrentはType-Cのコネクタが供給電流を制御するための標準的な方式のことと思われる。
USB Power Deliveryの場合は、別の規格によって定められている。

また、上記のリンク先PDFにはレガシーケーブルとの接続にも言及があった。

P80より

「Rp56kΩでプルアップせよ、それ以外の抵抗値ではオーバーロードを引き起こす」と記載があるのだが、変換コネクタ使用時にここら辺がちゃんと機能するのだろうか?

・CDJ-2000nexusの電流が高いことに関する記述
× CDJ-2000 nexus~nxs2は(中略)USB3.2 Gen2x2の機器を動かすことができていた
〇 CDJ-2000 nexus~nxs2は(中略)Type-Cコネクタを持つ機器に1.0A以上電流を供給することができていた
→上で書いていた内容との矛盾


・CDJ-3000の定格電流が下がった理由について
△ USB Power Deliveryに対応したtype-Cコネクタは1.5Aや3Aを流すことができる
〇 Type-C CurrentやUSB Power Deliveryに対応したtype-Cコネクタ間は1.5Aや3Aなどを流すことができるが、未対応のtype-Cコネクタに対しては1.0A程度までしか流すことはない。type-Aコネクタに対しては不明。
→Type-C CurrentはType-C同士の接続だが、片側Type-Aなどの場合はよくわからなかった。
USB Power Deliveryは事前にネゴをするためこういったことは起こらない。

また、原因は供給電力ではなく下のような意見も見受けられた。
・Type-Cとはいえ0.9A以上流れるのは限定的なので通信のほうが問題ではないか
・USB2.0と比べてUSB3.0はノイズ問題が発生しやすく、その影響ではないか
・USBのコントローラーや内部の構成が既存機種から大きく変わったためその影響を受けているのではないか
・ソフト的な対応が甘いだけではないか
・SSD個別の問題ではないか

どの意見も一概に違うとは言いにくい。
特に1~2つ目は、USB Type-CはUSB type-Aと比較してノイズに強い(EMI的にもEMS的にも)が、変換コネクタを使用している以上、そのノイズの影響をUSB3.0が拾いうまく通信できなかったなどもあるのかもしれない。

人の見解を掬い取って書くのは技術力の低い自分には限界があるので、どなたかがこの流れでnoteなどにまとめていただけることに期待しております。


最後に、下記の文章を読んでいただいた方に伝わっていたかは微妙だが、あくまで記事最終段の所感とその前項が書きたかったのが本noteを作成した目的である
Twitter上で「SSDが動かない問題はなぜか」はある程度見解を述べていたし、その点をこれ以上掘り下げることは私には難しいと感じているので、集約等はしません。
下記の文章があくまで引き続き私の見解・推察である旨をご了承のうえご覧いただければ幸いです。


============== ここから本文 ===============


今日ふとTLを眺めてみるとこんなツイートが流れてきた。

電気機器メーカー勤務としては「1.0Aしか流せないと書いてるんだからそういう仕様だと理解するしかない」と流してしまいそうだったのだが、たまに書くnoteのTipsには良いかと思い少し調べたりしたのでメモ程度に書いてみることに。

■結論だけ知りたい人へ


・SSD側のコネクタがUSB type-Aの機器:OK
SSD側のコネクタがUSB type-Cの機器:NGの場合もある
・SSDだからNG、USBメモリだからOKという切り分けではない。あくまで機器側のコネクタ形状で判断するのが楽。

■使えるSSD、使えないSSDについて


どうもCDJ-2000nexus, nxs2ではUSB2.0にも関わらず、2.1A給電できる少し特殊なコネクタになっていたらしい。
Z!€mαさんはどうもこれらの環境でSSDを接続し動作していたSSDがCDJ-3000で使用できなかったとのこと。

私はバッファローのスティック型SSD(USB  type-A)を普段から使っていて、CDJ-3000でも使用できたため、SSDが一律ダメってことはなさそうだなと思っていた。

ありがたいことにZ!€mαさんが使用している品番をご教授いただいた。
某社製SSD(USB3.2 gen2x2 type-C)(USB3.2 Gen2 type-C)がNGだったとのこと。(品番の記述は差し控える)
CDJ-3000への接続はSSD→Type-C to Type-Cケーブル→Type-C to Type-Aコネクタで接続していたらしい。

なんとなくこの時点で大元の理由までは勘づいていて、USB 3.2かつtype-Cのコネクタはかなり電流量が多いことが原因だろうと思っていた。
のでZ!€mαさんへの返信として次のようにリプライを飛ばした。

このツイートの時点で自分は「USB3.2だからダメ」と記載していたのだが、どうもUSBにまつわる名称はかなりややこしいことになっているようだった。

出展:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%B9

この図の「USB Power Delivery対応」は「USB Type-C Current対応」が正しいと思われる 

USB 3.0 = USB 3.1 Gen1 = USB 3.2 Gen1 !?!?!?
ややこしいなと思ってたけどここまでとは… 仕様策定した方々は一回怒られてほしい

そしてメーカーの記載もあいまいなものがあり、Gen 2x2仕様にも関わらずGen2と記載していたりUSB 3.2Gen 2なのにGenの表記がなかったりとかなり不親切な記載が見受けられた。


しかしながら、はっきりとCDJ-3000で使用できるかどうかの判断ができる指標がある。
それが「SSDがUSB type-Cコネクタであるかどうか」である。

USB type-Cのコネクタの場合、Genがいかなる数字であっても1.5Aや3Aの電流をもらおうとすることが起こりうる。
この場合はCDJ-3000での使用がNGとなる。

「ならUSB type-Cコネクタかつ電流量が低いものを探せば良くない?」と思うが、メーカーが定格電流値を書くことはあまり多くない。
それにわざわざメーカーが高価なtype-Cコネクタを採用しているということはtype-Aコネクタでは実現できなかった機能があるということで、type-Cでしか設定できない定格値にしている可能性が高い。(通信速度やサイズ上の都合という可能性もありうるが)

一方、USB type-Aコネクタ品ならば必ず1.0A以下しか電流を流さないように設計されている。
USBの後の数字がなんであろうが電流が足りなくて動かないということは無くなるのである。

ちなみにZ!€mαさんのSSDの付属品であったUSB type-C→type-Aの変換コネクタは、type-Cの規格上絶対に行ってはいけない変換を行なっている。
理由は多々あるものの、そんなものを当たり前にメーカーが付属していたり、家電量販店で販売してはいけないのであるが…
※1 type-C → type-Aの変換コネクタはNGですが、変換ケーブルはOK
※2 type-C → type-Aの変換ケーブルを使っても電流量が自動で調整されるということは保証されない。よって、CDJ-3000で使用できるようにはならない。


■CDJ-2000nexus~nxs2のほうが変?

上のやり取りなどはTwitterでもそこそこリアクションがあった内容なんだけれども、その後のやりとりの中でむしろCDJ-2000nxs2等はなぜ2.1A対応だったのか?というところで疑問があった。

ニコルさんがあげてくださったように、CDJ-2000nxs2のサポートページを見ると、
・本機の定格=5V/2.1A以下のUSBデバイスを使用してください
・USB2.0の規格範囲内(定格500mA)であれば使用可能です。
という矛盾した二つの文章が…

USB接続のポータブルHDDだけなぜ特別扱い?

どうもこのあたりが気になり、次に2.1A定格がいつごろから対応したかを調べた。

CDJ-2000 (2009年発売):未記載(おそらく0.5A)
CDJ-2000 nexus (2012年発売):2.1A
CDJ-2000 nxs2(2016年発売):2.1A
CDJ-3000(2020年発売):1.0A

どうやらnexusか否かが大きな境界になるらしい。

次に、CDJ-2000nexusのプレスリリースを見ると、面白い記載があった。

出展:https://jpn.pioneer/ja/corp/news/press/2012/0906-2.html

何となく2.1Aの理由が見えてきた。
5V/2.1AというのはiPhone等Apple製品の充電規格でよく使用される値だからである。
おそらくCDJ-2000 nexusはスマートフォン接続を念頭に置いて2.1Aという仕様にしていたのだと思われる。

上からしっかり読み込んでもらえていると気づいている人もいそうだが、本来USB type-A接続において1.0A以上電流を流してはいけない。
が、充電用に電気を流すためという理由でスマホメーカー各社やモバイルバッテリー会社は高電流を流せるようにしてきた背景があり、ここに対応したのだろう。

(なんならiPhoneなどはこの辺りをうまくコントロールしていて、給電のみ動作時は2.1A流すが、通信時は1.0Aまでしか流さないような使用だったのかもしれない。)

よって、CDJ-2000 nexus~nxs2は、規格外であるものの2.1A対応したUSBコネクタを所持しており、その副産物としてUSB Type-Cコネクタの機器を動かすことができていた、ということである。

ここまでが、本来動かせないはずのUSB3.2 Gen2x2のSSDをCDJ-2000 nexusなどが動かせていた理由になる。

では、なぜCDJ-3000では電流量を下げたのだろうか?


■CDJ-3000が定格電流を下げた理由についての推察

先ほどのCDJ発売時期のリストを少し組み替えたうえで、USB関連の規格の更新を記載してみる。

2009年:CDJ-2000 発売
2012年:CDJ-2000 nexus発売
2014年:USB type-Cコネクタ普及し始める
2016年:CDJ-2000 nxs2発売 / USB Power Deliveryがtype-Cコネクタ対応
2020年:CDJ-3000発売

おそらく上に挙げたUSB Power Deliveryの対応が大きい。
規格の図にもあるが、USB Power Deliveryに対応したtype-Cコネクタは1.5Aや3Aを流すことができる。
昨今はtype-Cコネクタを持ったUSBメモリ、SSDが増えてきており、USB Type-C Currentにより大電流を引くことができるようになった。

これを言い換えると、2016年以前はUSB type-CコネクタのUSB Power Delivery対応しておらず、CDJ-2000 nxs2開発時点では大多数のSSDやUSBメモリは1.0A以下の電流量で動くように設計されていた。
iPhoneのような例外を除きUSB type-Aコネクタに1.0A以上電流が流れることはなかったと思われる。(多分)

そのため、当時は2.1Aのような値を定格の値としても大きな問題にはならなかった。

しかし、2016年以後は1.0A以上の電流を必要とする周辺機器が増えた。その一例が今回のUSB type-C接続のSSDである。

変換ケーブルや変換コネクタを用いることで、メーカーも把握できない機器の組み合わせにおいて、規格上の定格を超えた電流が流れてしまう可能性が生まれた。
これを危惧し、定格電流を2.1A→1.0Aに下げたのではないかと考えられる。

■電気機器メーカーの人間としての所感

最後の方の推察はかなり都合がいい気もするが、自分が設計者であればこういった思考にたどり着く可能性は大いにあると思った。

特にグローバル展開する機器に置いては取り巻く(基準的な)環境も刻一刻と変化しており、高い信頼性を要求されるDJ機器がゆえに…という感じだった。

特にやり玉に挙がったSSDは規格適合外の変換コネクタを使用しているため、そんなものにまで対応してくれというのは到底難しい話なのである。
あくまでCDJ-3000は誠実な設計をしているので、あまり悪口は言わないで上げてほしい。

その一方で、ユーザー目線からみると前つながった機器がつながらなくなるといったトラブルが想定されていないのはどうかと思うし、明日は我が身だなと思った。
特にPioneer DJという機器のファンのシェアを圧倒的に持っているがこそ。


■追記:記事公開後の反応を見て(22/08/23 07:40)

結構反応がある中で、抜けてる視点があるなと思ったため追記する。
現時点で最終的にtype-Aのものを選ぶと問題ないという結論は変わらないので補足程度に。

  1. そもそも給電問題とは限らない
    最初に給電の話をされていたのでそこから議論を進めてしまっていたのだが、通信形態もGen2までとGen2x2以降少し違う。

    また、給電関連でもっとも電流が流れるのは挿した瞬間のインラッシュなので、認識してある程度曲をロードできてから不良が起こるのは給電要因ではなく通信要因かもしれない。

    原因を探ろうとすると実機がないと厳しく、ノイズ周りなのか、後方互換性への対応がうまくいっていないのかは判断できない。

  2. エマージェンシーループの仕様の違い
    CDJ-3000からエマージェンシーループやUSBを抜いた時の挙動が変わったことを思い出した。
    これまでは曲を逐次USBからロードしていたのが、いったんメモリ内にデータを置くようになったのかな?

    1. で述べた通信の問題である場合、この辺りもかかわっているかも。


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