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宇宙人軍団、日本侵略!!

登場人物
松田鉄二:新東京都警視庁公安課所属。三十代後半。
坂東博己:災害、テロリズム、怪獣、宇宙人、スペクター、ショッカー、テンバイヤー、巨大精子、私人逮捕系ユーチューバーといった様々な日本国の緊急事態に対して警察権、自衛権を統括して指揮する危機管理情報局(CCI)局長にして内閣官房副長官。三十代後半。松田とは小中高の腐れ縁。
丹波虎徹:日本国総理大臣。
青木海斗:坂東の秘書。
ミスター:宇宙をまたにかけた代理人業務を行う宇宙人。
X:宇宙人。様々な個体が思念のみとなって一体化した存在。

1:オペレーション:ファイナル・ウォー

「先の巨大精子による蹂躙から七年が過ぎ、日本全土はようやく復興の兆しを見せております」
「とりわけ旧首都、東京都における復興は目覚ましいものがあり、こうしてまた世界の首脳をここ東京に招きG7サミットを開けることにつきましては我が国の安定と平和を具現化したものとして慶びに堪えません」

「せいぜいほざくがいいさ…丹波虎徹総理。いや人の皮をかぶった宇宙人どもめ」
「われわれ真の地球人が今まさに宇宙人どもから地球を取り戻そうとしているとは夢にも思うまい」
コンクリートが打ちっぱなしで光源は天井につけられた蛍光灯のみの薄暗い地下室、G7東京サミットを中継するモニターを見上げながらスーツの集団は口々に侮蔑の言葉をぶつける。壁一面に張られたG7東京サミットの新聞記事、一面に設けられた丹波虎徹総理の写真にはまがまがしい赤サインペンでバッテンがされている。
「エージェント・ボンド、準備はいいな?」
能面のような無表情をしたリーダー格と目される人物が、ポマードで髪をがっちり固めた長身の男に問いかけると「ボンド」はスーツの襟を正しながらニヒルに笑い答える。
「ええ、このバルサンでゴキブリどもを一網打尽にしてさしあげますよ」
「ボンド」が大量に敷き詰められた黄色と黒のドクロが躍るドラム缶を指して応えるとスーツの集団からはより一層大きなどよめきがあふれる。
「ついにこのときが…エージェント・マイア、これが最後の任務です。ついに我々は蜂起します」
ひときわ目立つスタイルの「マイア」が「リーダー」に対して恍惚の表情でつぶやく。それを見た「リーダー」は無表情を少し緩め思い掛けないであろう下衆な笑みがこぼれる。
「今日で最後の戦いだ。この星を野蛮な宇宙人どもから取り戻す。それが、オペレーション・ファイナルウォーズだ」

「そうか、じゃあ応援してるぜ」
ボンドと呼ばれた男がブレーカーを落とすと地下室は永遠に広がる暗闇に支配される。
「出入口がふさがれた!」
さっきまでの威勢のいいどよめきが一瞬で悲鳴に変わったかと思うと今度は耳をつんざく爆音が暴力的にそれに覆いかぶさった。
「まさか…宇宙人どもが…!?」
「宇宙人もこんな人間の皮をかぶった単細胞生物未満には侮られたくねえだろうよ」
「エージェント・ボンド…きっさまぁ…」
「恨むなら、俺じゃなくて神か悪魔をのろいな」
そうボンドが返すと何かのスイッチを押し、二回目の爆音が天井をマイナスにぶち抜き、まがまがしいドラム缶を押しつぶした。

「あーあーあーあーやってんなぁおい」
車内から双眼鏡で外をのぞく作業着の男がこぼす。首元にはワークマンのタグがそのままついている。  
「いいんですか…?運転席からもなんか煙が見えますが…。サミット中にこれはまずいんじゃ」
「これはまた揺さぶるネタができたかな」
「過激派グループ『素晴らしき地球市民の会』、潜入されてるのは松田さんですよね。あの、大丈夫なんですか」
「あいつは殺しても死なねえよ、それよりもここの管轄警察署の署長はだれだっけなあ」
「…坂東局長、失礼ですが今どちらを見ておられますか?」
「青木君、僕は最初からサミットだっていうのに警備にもあたらず奥さんと違う女と一緒にラブホテルから出てきた悪徳警察官のほうだけを見ていたが」
「阿保ですか、あなたは…」
「む、阿保といったな阿保と、秘書なのに」
「規制線が張られる前に松田さん迎えに行きますね」
青木がスピードを上げると坂東はカエルがへしゃげたような声を出しながら後頭部をバックシートにぶつけた。

素晴らしき地球市民の会は出入口をふさがれた地下室にコンクリートのアリジゴク状態で閉じ込められている。
「まあ、こんなもんだろう」
アジトからは煙が吹き出ており、あとは近隣住民の通報によって駆けつけた消防と警察が一味と武器類を発見。それで今回の一件はかたがつくというのがボンドーーー公安の松田鉄二らがCCIの坂東博己と描いたシナリオだった。最後の仕事は気取られないように何食わぬ顔で現場を離れる。現場からお家に帰るまでが公安の仕事、ただそれだけだった。
「すげーなジェームズ・ボンド、実在するんだ」
背後から明らかに一般人とも素晴らしき地球市民の会一味とも違う声に松田の緊張感が一気に揺り戻される。
「この国のジェームズ・ボンドは随分と無愛想だな。女王陛下が悲しむぜ」
まるで自らが人類全体に対する上位種であるかのような明らかに人を、いや人類全体に対する舐めた態度を漂わせながら金髪オールバックの男は松田に対し軽薄に語りかける。
得体のしれない存在に対する恐怖か、不信感か、ポーカーフェイスな松田の顔が僅かに歪む。
「そんな怖い顔をしないでくれよ、今回も情報提供をしたのは俺の雇い主さまなんだぜ」
「…すごいのは雇い主さまとやらだけか、きっとお前さんはたいしたことない宇宙人なんだな」
「まぁーまぁー、これからもこの星の平和を守っていこうぜ。なあ、公安さんよ」


2:The Living Daylights

「この星は…この国は宇宙人たちに狙われている。縺医☆縺医?縺阪e繝シとして教授してあげよう」
「我々は宇宙難民、地球の方々には苦しいお願いではありますが人道的立場から我々の移民を受けいていただけないだろうか」
「命、わからない。命とは何か」
「わたしにたった一言、地球を上げますと言ってくれればそれでいい」
「地球人など、我々から見れば昆虫のようなものだ」

「度重なる宇宙人犯罪に対抗するべく、日本政府は元来より緊急時における災害対応、警察権、自衛権、テロ対策などをまとめたCCIの危機管理に加え宇宙人犯罪対策を新たに加え、これに対処する所存であります」

「お宅の警察官、サミットだというのにご家族じゃない方とラブホテルに入られてたんですね。やっぱり息抜きは必要ですもんね。いつもご苦労様です」
「とんでもございません。坂東先生。署長であるわたくしの管理不行き届きでございます」
「いえいえ、別に今日はその話がしたいわけじゃないんですよ。この前の素晴らしき地球市民の会の世間話がしたくてですね。あの爆発、僕は事故だと思うんですよね」

「ツイッターがXになってからスパムまみれ、人間のふりをしたモドキが増えたな」
「坂東お前、内閣官房副長官になってまで裏アカウントでXはやめろ、いつ足がつくがわからんぞ」
「俺は見る専ナの」
「たまには現実を見てみろ。お前さんたちの悪政のせいで国民の声は不満一色だ。今日も新国会前ではデモ行進が行われたそうじゃないか、東京の復興財源を地方にも回すべきだの、移民問題だの格差の是正だの、一理あるとは思わんかね」
「耳が痛いね。松田君が派手にやったのをただの爆発事故にしてあげたんだから、今は許してよ」

「まさか本当に宇宙人どもが、よりによってこの日本に現れるようになるとは」
「丹波総理、会談のお時間です」

「本日は日本国の首脳と会談の機会を設けていただき、大変感謝しております。精一杯そちらの文化に合わせたつもりではあるが失礼があれば先にお詫び申し上げたいと思う」
「いえ、星と星を超えた国賓ですから。こちらも丁重にもてなしますよ」

「まず先に私は、雇い主さまのエージェントにすぎません」
金髪オールバックの男はあくまでも穏和な態度で総理に語りかける。
「そう、仮に彼らを「X」と呼称しましょうか、Xは肉体を持ちません。この星でいう所謂円盤で思念として宇宙をさまよっているのです」
「Xは思念として永遠に宇宙を生きているなかでこの星を知り、無償で協力をすることにしたのです。そこでコンタクトのために選ばれたのが私、「ミスター」です」
「協力とは具体的にいうと、この星の安寧、秩序の維持、そして恒久平和の実現であります」
「正直に申し上げますと、この星の一致団結の象徴であるG7サミット、これを妨害しようとする不埒な輩がいるのです」

「ミスター、協力を感謝します。おかげで平穏無事に国家主席たちを迎えることができました」
「いえ、力あるものとして当然のことをしたまでです」

3:DIVIDE

#丹波政治を許さない
#絶許
青木の運転する車両で坂東が松田に語りかける。
「今日もTwitterは正義の味方が活躍されていりますなあ。結構結構」
坂東のタイムラインでは思想の左右上下を問わず政治から芸能ニュースまで過激な内容のツイートが踊っていた。なかには素晴らしき地球市民の会のものもあった。
「坂東、もうTwitterはイーロンマスクが買収してXになったんだ。いい加減現実を見ろ」
「たまにはTwitterごしに現実を見たいときだってあるのさ。マキャベリストに踊らされて飯の種にされてるとも知らずにな。現場にいもしないでガタガタいいやがって。それよりいつぞやの宇宙移民、あれはどうなったんだ?Xに我々の星も滅ぼされた、気を付けろとか言ってた。残党がミスターに切りかかっただろ」
「そいつなら人道的立場から保護施設に避難させたよ。結局地球の環境じゃ適応できなかったみたいだがな。そういや、ミスターも普通に切れば血もでるんだな」
「丹波総理がミスターの内偵を以来してたぜ。どうするんだ」
「尾行して場所は割れてるんだ。あとは強硬突破だな」


摩天楼に佇む円盤は透明で姿は外からは見えない。坂東らは虚空を見つめながら溢す。

「じゃ、あとは任せたぜ」
「ああ、もしもの時はよろしく頼むぜ」
屋上につけたバイクで松田が颯爽と虚空へと去っていく。それを松田と青木は二人見送る。
「松田さんは真面目ですね、なんで坂東先生なんかと付き合ってるんですか」
「しりたいか?それはあいつが小学生の頃、用意周到なあいつが消しゴムを忘れたのさ。それを俺が」
「あ、もういいです」

「わかりませんなあ、SNS等で実態のないインフルエンサーに煽動させテロリストを作り上げ、それをわざわざ地球人どもに排除させながら侵略する。こんな回りくどいことをしなくてもこの星なら武力ですぐ支配出来るでしょう」
「力に頼るものはそれより強い力によって排除される。覚えておきたまえ」
透明な円盤は復興した東京都をまるで神のように見下ろしている。その下の地球人たちを掌で転がすように。

4:体外離脱



「しらばっくれるな。それがお前たちの正体だろう。いい加減お前も正体を見せたらどうだ」
「ネズミが一匹紛れていたか。あいにく俺はこの顔が気に入っていてね。家畜にしては悪くない」
金髪のミスターは不敵に松田に応える。
「…いけすかねえ。宇宙人も意外と防犯対策はざるのようだな」
「しられてしまったら仕方ない。お前は俺が始末させてもらう」
ミスターが不敵に笑いながら空間からチェーンソーを取り出す。静寂の空間に緊張感が沸騰している。
「Xさま、ここは私が。次の仕事もよろしくどうぞ。…もげろよ!人間!」
チェーンソーが怪獣の咆哮のような駆動音をあげる。ミスターはそれを軽々と振り回しながら松田に切りかかった。
「笑わせらあ」
間一髪で松田がチェーンソーをかわすと今度は松田が右手で内ポケットから拳銃を取り出し発砲する。弾はミスターの後ろの空白を打ち抜き虚空に消える。
「公安のくせに楽しそうなおもちゃを持っているんだな。俺の知ってる公安はみんな丸腰だったが」
「あいにく俺は不良公安でね。公安の虎と呼ばれた丹波総理直属の汚れ部隊、唯一の生き残りさ。殺しのライセンスだってあるんだぜ」
「公安のくせに、よくしゃべる!」
東京の摩天楼に照らされた透明な円盤がチェーンソーで激しく振動する。リーチでまさるミスターがじりじりと距離を詰めていく。松田が紙一重でいなすが途切れないラッシュにペースは握れない。
「どおりで調べても経歴がぼんやりしてるはずだ、あの総理。ただの虎ではなかったか。まずはお前を処してからあいつも消す」
ミスターが大きく振りかぶったチェーンソーがついに松田の拳銃に直撃する。まるでプレス機のように粉々に砕けた松田の拳銃は破片となって顔をかすめた。凄まじい振動に松田の腕がしびれ一瞬意識が腕に持っていかれる。そのすきをミスターは見逃さなかった。チェーンソーの柄の部分を使い渾身の威力で松田の脳天に振り下ろし昏倒させる。
「下等生物ごときがなめくさりやがって、無様に泣いて命乞いするまで痛めつけてやる。生まれてきたことを後悔しろよ劣等生物が」
ミスターがチェーンソーの駆動をいったん止めると燃え滾る怒りのサッカーボールキックを昏倒した松田の腹に直撃させる。まるで中身の入ってないぬいぐるみのように吹っ飛んだ松田はぐるぐると回転し仰向けに倒れる。
「…気つけをありがとう。続けようか」
「あんだぁ?ステゴロでもしようってか?」
意識を取り戻し立ち上がろうとした松田に一瞬でかけより今度はチェーンソー部分をスーツの右袖に突き刺す。
「まずはその右手からばらばらにしてやる。てめえがかに座ならまた生えてくるかもな」

「よく聞け若造、てめえの知らないことが地球上で二つある」
唐突に松田が余裕綽々の表情でミスターに語り掛ける。ミスターの視線が不意に松田の顔に誘導される。
「一つは俺が両利きだということ。もう一つは」
刹那、松田の左手から強烈な発砲音が今度はミスターの脳天を打ち抜いた。
「ハジキは一つだけじゃないってことだ」

5:世界の終わり?

「…二人目からは楽になるな」
そう吐き捨て動かなくなったミスターを横目に松田はぼろぼろのスーツを正しながら立ち上がる。
「さて、いるんだろ?Xさんよ?」
「所詮、ミスターは役に立たなかったか。相手の感情の読めない生物はこれだから下等なのだ」
「見えないのに声が聞こえるというのはやはり不思議な感じだ」
「当然でしょう。我々は思念のみの存在。肉体などに縛られた存在とは違う高位の存在なのです」
「改めて知りたい。Xさんってのはこの星をどうするつもりだったんだ?」
「いかなる星の中等度知的生命体においても正義が、正しさが欠如している。我々はそれを啓蒙し、導いているだけだ。その結果いくつもの星が正しく眠っていった」
「眠ったというのは要は滅びたんだな。そうか、だからSNSやミスターとかを介して正義の名のもとに人々を扇動、暴走させて争いをひき起こしていたのか」
「その言い方は正確ではありませんね。それは単なる我々の啓蒙により人類が文明が進歩した結果、生じた自浄作用にすぎません」
「やはりお前さんたちは危険だ、排除せざるを得ない」
「無駄です。あなたの考えていることなど意識を通してすべてわかります。あなたのはったりも、そのサラシの下にある自爆装置もです。全部この中にいる限り私たちの思うがままなのです」
松田が胸のスイッチを押すも何も反応は起きない。無用の長物になったスイッチを投げ捨てる。
「のようだな。そうか、じゃああとは神か悪魔に祈るだけだな」
「陳腐な。そのような存在がいるとしたら我々こそが神だ」
「そうとも限らないぜ。なんたってこの国は八百万のなんたらだからな」
そう松田がXに言い返すと地震のような振動と轟音が円盤を襲った。

「言質はとった!CCI局長権限だ!ありったけのミサイルとバルカン砲を叩き込め!あの人間どもをなめ腐った円盤を木っ端みじんにしろ!それが、オペレーション・ファイナルウォーズだ!」
「坂東先生、いくらなんでもふざけすぎじゃないですかね」
「いいんだよ青木君、丹波総理も容認している。ということは責任は全部総理が負ってくれるさ。もしなにかありゃ事後承諾だ」
「知りませんよ…というか松田さんはどうするんですか」
自衛隊ヘリからの銃撃が円盤を撃ち抜くとあっさりと透明だった円盤は火を吹きその姿を露にする。

円盤が激しく揺れて壁に穴が開く。猛烈な空気圧が内部の松田も揺さぶっていた。
「どうやら運は俺の方に来たようだぜ、Xさんよ」
「小賢しい、このまま貴様も宇宙を漂ってもらう」
「それはごめんだぜ、俺も未来に向かって脱出させてもらう」
そう松田は呟くと突入に使ったバイクに乗り込みエンジンをかける。僅かに見える外からは未だ巨大精子に対抗するため発射された熱核攻撃により骨組みとなったままのスカイツリーが見えた。いつの間にこんな上空までいたらしい。
「アバヨ、神様気取りのパラノイアめ。地獄でも二度と俺に姿を見せるな」
そう吐き捨て松田はバイクで外へと勢いをつけて摩天楼への決死のスカイダイビングを敢行した。

「よう、天国から地上へ降りた気分はどうだい」
坂東がパラシュート降下した松田に問いかける。
「端的に最悪でサア。…それよりお前、いつの間に俺にこんなものつけてたんだ」
「おかげで中でどんな話してるのか、場所もわかったよ。お疲れッさん」
「…Xはどうなった?」
「大気圏突破を試みて爆発したよ。流石に宇宙人といえども物理法則には敵わんかったみたいだな。もしくは永遠に宇宙の漂流者か」
「全く、今回は骨の折れる宇宙人だったぜ。おかげで休日返上だ。この分じゃ死ぬまで休暇はとれなさそうだ」
「死に逃げなんて俺が許さねえさ。まだお前が小学生の時に貸した消しゴムを返してもらってねえんだ」
「…この分じゃ地獄まで取り立てに来そうだな。全く」

fin.




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