オウンドメディアはもう終わり?
今月アタマの話ですが、こんな記事が掲載されていました。
「オウンドメディア」という言葉、聞き慣れない方もいらっしゃると思いますが、恐ろしくシンプルに言えば「企業の顧客向けブログ」です。
マーケティング業方面からは「わかってないなコイツは」とお叱りを受けそうですが、まあまあなにとぞひとつよしなに。
パンツ一丁で大の字に
企業サイトというと、偉い人のありがたいお言葉なんかがまとめられた「企業概要」とか、商品ごとにページが作られているものが一般的です。
しかしSNSのタイムラインに張り付いていれば欲しい情報を享受できる昨今、よほど製品に関心がない限り、ネット民がメーカーサイトに日参することはなくなりました。
未知の企業サイトを覗くなんて、それこそ不祥事があった時くらいじゃないでしょうか。
しかも行ってみたら「503 Service Unavailable」で真っ白、みたいな。
企業サイトを充実させて「さあご覧ください」とパンツ一丁で大の字に寝転がり、顧客の訪問を待ってる時代じゃないのです。
それでも企業の広報担当としては「自社の存在を忘れられること」は決してあってはならないことです。
だから日々、自社サービスに関心を持ち続けてほしいと願うわけですが、アドバイザーの提案を受けてFlash動画を入れてみたり、階層やメニュー構成、サイトデザインを何年かおきに変えてるうちに西暦はもう2020年です。
導線がなければアクセス数も大して伸びず、出銭は増える一方です。
そこで考え出されたのが、迅速かつシンプルに更新できる「オウンドメディア」の採用です。記事にフィットするサイトデザインとCMS(記事管理システム)さえ構築すれば、あとは専門知識のない担当者でも簡単に更新でき、なんとSNSにも更新情報が送信でき、訪問者にも日参させる要素を持たせられるわけです。これは画期的だ!
まあしかしですね、オウンドメディアを「お、何か新しいものだぞ」と思う前に、「それは単なるブログだろ」と指摘する方もいらっしゃるわけです。まあ、まったくその通りだと思います。
出費&出費で回収とは
上掲記事冒頭のトヨタ自動車『トヨタイムズ』みたいなケースはかなりレアで、オウンドメディアとWeb動画戦略とCM展開をグロスにできる企画力と、膨大な資金力に裏打ちされてのもの。
特に編集長役に香川照之さんを起用した時点で、キング・オブ・オウンドメディアとなるのは当然のことでしょう。
こうした成功例の裏に、各社で新しいネタを提供すべく、社内のあちこちで現場の雰囲気を撮影したり取材したりと、苦労を背負い込んでしまう広報担当さんも多いかと存じます。
ただいつでも更新できて都合がいいのは、送り手のハナシであって、ユーザー体験として有意義かは別の問題です。
例えば毎度「お買い上げはこちら!」と通販リンクが貼られ、訪問する気を失くしたり、明らかに同じようなエントリーを10日おきに掲載してみたり、とネタ枯渇が伺えるものも散見されます。
そんなのツイッターでやればいいじゃないかと思うわけです。
しかるに、企業広報は出費が宿命です。
売り上げ向上への期待感で始めるにしても、サイトデザインやCMS構築におそらく8桁近い費用がかかっています。
真面目に日々更新に努めてきた広報担当なら、そこに費用回収なんぞ求められたら心が折れようというものです。
アクセス数の低迷を委託業者に相談したら「デザインが飽きられたことに原因があります」とか「記事内容にお悩みならライターを派遣しましょう」なんて、更なる出費を提案されてしまい「じゃあ…やめますわ」と、閉鎖に向かう事例もあるんじゃないでしょうか。
「一定の役割を果たした」という説明の裏には、いろんな事情があるんだろうなぁと妄想が広がります。
心を鬼にしてしれっと
かくいう自分も、そうした広報担当の端くれとしてご苦労はよく理解できます。
自分も4年前にこの手の企業ブログメディアを立ち上げ、現在も編集を担当しているからです。
幸いなことに、自分の職場は各ブランド(番組)から毎日新商品を作っているようなものなので、ひとまず記事の話題には事欠きません。
これらは日夜ネタを考えていただいている出演者と、知恵を絞っているスタッフの努力の結晶でもあります。
また本記事アップと同時に提携ニュースメディアへのRSS配信も行っているので、自社サイトで日々炭を焼くよりは多くの方の目に留めていただいてます。
でもまさか、こんなところでRSSと再会するとはなぁと感慨もひとしおでしたが。
職場は名古屋ですが、日々の番組でエリア内のことばかり話題にしているわけでもありませんし、法律問題やら政治やら、新しいWebサービスやら世界で人気のサブカルチャーについて触れることの方が圧倒的に多いわけです。
またリスナーも、夫婦関係や身体の悩みや金銭問題など、どこにでもある話題を投稿してくることがほとんどで、全国の誰が読んだとしても、楽しんでもらえる内容になっているとは思います。
おかげさまで毎月何百万というページビューを稼げていることもあり、関係各位から問い合わせもいただくんですけど、「よほど気合い入れないと、維持は難しいと思います」と馬鹿正直に返事しています。
決して「みんなでトゥゲザーしようぜ」などと、ルー大柴的にレコメンドできないわけです。
やっぱり労力が必要なのは記事の管理です。
パーソナリティの発言にはある程度裏採りが必要なものもあり、心を鬼にしてしれっと訂正することもあります。
ニュースメディアとの契約もあり、ちょっと体調が優れなかったり、他の業務で深夜まで拘束された時でも、翌朝には更新させないといけません。
思いつきや右に倣えでは持続不可能で、担当者がやり続けられる環境を並行して用意しなければ、絶対に挫折します。
これは僕がこの4年で痛感していることでもあります。
廃れるのは名前だけ
それでもやり続けているのは、当然理由があるわけです。
こうしたメディアを作ろうと思ったのは、radikoでタイムフリーが始まったことです。
シェアのためにURLが吐き出される仕様となったのです。radikoに求めていた番組音声への直リンが、ようやくオフィシャルとなったわけです。
とりわけローカル局なんて名前も知られてないので、なんとか知名度を高めたいと考えていました。
番組音声を日々YouTubeに上げたりポッドキャストにするのも手ですが、そちらでアクセス数を稼いだところでオンエアに直結する可能性はありません。番組プロデューサーとしてはそれでも構わないのですが、広報の立場からすると、特定の番組だけ他メディアで人気があっても意味がないわけです。
それならタイムフリーのリンクURLを付けられる媒体、ということでテキスト化サイトを考えていたところ、たまたま偉い人から知見のある外部協力者を紹介され、一気にサイト立ち上げがスタートしました。
ただし、予算の関係から「2ヶ月以内に作れ」とのご無体な条件を申し渡されたのでCMSは到底間に合わず、当初の1年はなんとかWordPressで凌ぎましたが…
一方で複数のニュースメディアと提携について交渉しました。
サンプル記事を見て「これはニュースじゃなくてコラムですね」と断られたこともありましたが、なんとか立ち上げ時には2社の提携が決まりました(現在は4社5媒体)。
それが叶わなければ、サイトはすぐにやめていたと思います。
こうしたメディアではたまにトップ記事に入ることもあります。ノンリスナーの目にも留まるメリットは計り知れません。ひとつの記事が数十万のPV数を稼いだりするとテンションは上がります。
それでまたワーカホリックに邁進してしまうわけですけども、ええ。
オウンドメディアからの撤退が記事で取り上げられるようになった昨今ですが、仕方のないハナシとは思いつつ、まだ多少でも余力があるのなら続けてもいいんじゃないか、いや続けるべきだろうと思うのであります。
ひと括りに「コロナ禍」とは言いますが、9月あたりからワラワラと人が繁華街を出歩くようになったかと思えば、ここ1週間のように最悪の感染者数を更新してしまうような有り様です。
今後もきっとワラワラと最悪を繰り返す中で、リアルに売買したりPRする機会はますます失われていきます。
そんな状況で、事業を畳むことが決まってるならともかく、自社の存在をアピールし続けることは必要だろうと思います。
繰り返しますが、企業はコンシューマーに存在を忘れられたらおしまいなんです。
せっかくお金をかけて始めているのですから、手段がまだあるのなら、なんとか努力して残す方向を模索してはいかがでしょう。
Webベースなら、カスタマーが在宅でも何かしらのアピールは有効なはずですから。
たとえブームが終わろうと、僕はひたすらに「企業ブログ」を続けようと考えています。
ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。