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ジェフ・ゴールドブラムが『シン・ウルトラマン』に出演しない理由

公開中の『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』を観てきました。
『ジュラシック・パーク』『ジュラシック・ワールド』6エピソードの完結編ということで、シリーズファンにとっては必見の作品なのでしょう。

実を言うと、僕は第1作を偶然テレビで、それも途中から観ただけです。
それでも、どういうわけか妻と娘が「夏休みだから」と誘ってきたのと、50歳超えの夫婦なら安く観られるというだけの理由で行くことになったのです。

ネタバレはしませんが、感想は思ってたより面白かった、というところ。
過去5作のディテールはさておき、世界観や登場人物の役割が早い段階でわかったので、置いてけぼりを喰らうことはありませんでした。

後でウィキペディアで調べてみたら、登場人物(特に女性陣)のキャラが作品ごとに変わるようなので、そういう意味では初見に優しいと言えます。
シリーズとしてそれでいいのか、という気もしますが。

妻と娘に強引に連行されたとは言え、別にイヤイヤ観たわけではありません。
それは作品にマルコム博士を演じるジェフ・ゴールドブラムが出演していたからです。

出演作品を追いかけるほどではありませんが、『ザ・フライ』では実験でハエ男(グロ注意)に変貌する科学者、『インデペンデンス・デイ』では風邪をひいてエイリアン退治のきっかけとなる技術マンとして印象に残っています。

この『ジュラシック』シリーズでも数学者を演じており、総じてインテリ役が多い「アメリカ版平田昭彦」と言えそうな俳優です。

ただしこのジェフ、メガネをかけるといかにも理知的に見えるんですけど、動くサマは190センチを超える長身を持て余すかのように、フワフワしてるんですよね。
「すごいことになっちゃったけど、僕どうしよっかなあ」「僕はここにいなくてもいいのかなあ」みたいな。

この傾向は『インデペンデンス・デイ』でも見られるんですけど、20年後の同作続編『リサージェンス』ではその佇まいに拍車がかかっています。

今回の『新たなる支配者』でも、集団で恐竜から逃げ回るシーンがあるんですが、なまじそのフワフワ感が目についちゃう。
挙げ句、ひとりだけ別の場所で恐竜をやり過ごすんですが、決して険しい表情を見せるわけでもなく、大きな目をキョロキョロさせて常に様子見の姿勢。
そこがなんともジェフらしい。

つか、役作りとしては『リサージェンス』とほとんど同じなんですね。

たいしてロードショーものを観ない僕ですが、『パシフィック・リム』におけるハーマン(こちらも数学者)みたいに、目の前の悲劇に対して真に迫った感のないキャラを配置できるのが、思いきりアメリカンだと思うわけですね。

さて一方で、日本の特撮にジェフ的な誰かがいるのかというと、実はここまで所在なげにしてるキャラはさほどいません。
先ほど名を挙げた平田昭彦さん演ずる学者にしても、ここまでフワフワした感じはなかったのです。

特に日本特撮の主流派をもぎ取った『シン・ゴジラ』以降、全員が目の前の惨事に真摯に向き合うキャラ、すなわち現実に我々が対処するであろう振る舞いをする登場人物だらけになりました。
それは主な観客である日本国民の僕たちが、そうした人々のリアルな姿を見てしまったからです。

『シン・ゴジラ』の作品世界の背景には、東日本大震災の影響があります。
困難を目の前にした政府、官僚、民間企業が事態の収拾に向かっていく姿をストイックに描き、空想の産物であるVFXはその困難を忠実に構築していくわけです。

同じチームで制作された『シン・ウルトラマン』は、その困難に外星人というファンタジーを加えつつ、やはりストイックな群像ドラマとして描かれています。

ここへジェフのようなフワフワした登場人物を入れたらどうなるか。
浮きまくるか、モブ扱いになってしまうのではないかと思うわけです。

平成ゴジラに顕著ですが、かつて日本の特撮作品はハリウッド大作にヒントを求め、スパイアクション、アドベンチャー、カーチェイス、恋愛、家族愛といった要素が入った時期があります。
『VSビオランテ』や『ファイナルウォーズ』辺りなら、ジェフのようなキャラが大活躍できたことでしょう。

しかしシンゴジ以降の日本の特撮には、客ウケを狙った余分なドラマ性はまるで必要とされなりました。
もちろん、テレビシリーズの延長で作られる映画は別ですが、それでも世界観に脱ハリウッドのドメスティックな傾向は見られます。

幸か不幸か単発で作られる特撮作品は、今のところ完全に庵野ワールドが独占しています。
その悪影響のひとつが、今年公開された『大怪獣のあとしまつ』に対する酷評の嵐でした。

対極に挑んだ意欲作とも、登場人物が弛緩しまくりの超駄作とも言え、以前なら『映画秘宝』あたりで底抜け超大作のひとつに挙げられ酒の肴にでもなったであろうに、かなり本気の、洒落にならない批判に晒されました。
その基のひとつに、昨今の庵野作品の影響があったのは間違いないでしょう。

また時間が経てば、ポップコーンとコーラが捗るハリウッド風味の空想作品が日本でも作られるのかもしれませんが、ジェフ・ゴールドブラムの安定した演技を見ながら、まだまだ時期尚早かな、と思った次第でございます。

特にオチはないよ。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。