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Roland SYSTEM-1のハナシ

2014年3月、RolandのAIRAシリーズが発表されました。
もう10年経つんだなあ。

当時の状況としては、日本3大メーカーの一角KORGが、5千円程度で買えるモノフォニック・アナログシンセmonotron(2010年)を皮切りに、リズム音源+シーケンサー搭載のアナログ・グルーヴボックスmonotribe(2011年)を発表、さらにMS-20をミニサイズで完全復刻させ(2013年)、話題を独占していました。

さらにソフトウェアシンセで知られていたArturiaがアナログシンセMiniBrute(2012年)を発売。2013年秋にはミニ鍵盤でMicroBruteが登場します。
特にMINIBLUTEは価格帯、カラーリング、アルペジエイター搭載など、RolandのSH-101(1982年)と共通点が多く、何かと比較されました。

こうしたアナログシンセ復権の嵐の中、TRシリーズ、TBシリーズが中古市場で高騰地獄にあったRolandにはアナログ復刻がとりわけ待望されていたのです。

かくしてAIRAシリーズには、新しい音源ACBが採用されることが発表されました。
メーカーページではこのように説明されています。

● ACB(Analog Circuit Behavior)

アナログ時代の電子楽器を正確に再現するため、アナログ回路の振る舞いを、ひとつひとつのパーツから回路構成のレベルまでモデリングする、まったく新しい技術「ACB (Analog Circuit Behavior)」を開発。従来のモデリング手法とは大きく異なり、オリジナル製品の設計図からアナログ・パーツの特性を丁寧に再現しています。解析作業には、30年前にオリジナル製品の設計開発に携わったエンジニアも参加。解析したパーツをオリジナル製品の電子回路と同様に組み合わせることで、オリジナル機の詳細な個性を余すところなく再現。アナログ時代の電子楽器を最高の状態で蘇らせています。さらに、ACBテクノロジーは、アナログ固有の特性を精密にエミュレートするだけでなく、膨大な演算パワーを誇る最新DSPにより、30年前の電子楽器では物理的に不可能だった次世代のパフォーマンス性能も実現。当時のエンジニアが夢見た高次元のサウンド表現が可能になりました。

引用元:【 用語集 】ローランド製品で使われる用語について教えてください。

僕みたいに「なんぞこれ。面白え」と思った人もいれば、失望したアナログ原理主義の皆さんも多数おり、2ちゃんねる(当時)は大荒れだった記憶があります。

しかし、いま思えばこの英断がZen-Core音源やRoland Cloudというサービスに繋がるわけですから、ホントにRolandには先見の明がありました。

そんなAIRAで一番気になっていたのが、4音ポリシンセSYSTEM-1でした。

元ネタがハッキリしたTR-8やTB-3に対し、これに関しては明確なモチーフがわかりませんでした。
70〜80年代に発売されたSYSTEMシリーズ(100/100M/700)とは見た目も構成も明らかに違います。
シリーズで唯一6月発売と遅かったことも、期待が高まる一因でした。

そして8月のある日、新宿の思い出横丁で知人と昼間からしこたま呑み、その勢いで西武新宿PePeのS村楽器に凸入、試奏で一気に物欲が高まり衝動買いに至りました。

グリーンのイルミネーションに目を奪われますが、パネルレイアウトは往年の同社シンセに近く、「音の3要素」を知っていればすぐ触れます。

オシレーターにはJP-8000(1996)以降の定番・SuperSawの他、今までなかったのが不思議なSuperSquare、SuperTriangleといった新波形を装備した2OSC仕様。
SYNC、リングモジュレーター、クロスモジュレーターなど、高級機ではおなじみのパラメーターもしっかり押さえられています。

ミキサー部ではサブオシレーターとノイズ(ホワイト/ピンク)、計4波形をミックスできます。
これ、SH-101ユーザーならすぐに取っつける仕様ですね。

フィルター部はADSRとHPF付きの仕様。
オシレーターをすべてオフにすれば自己発振によるサイン波も出せます。
過去のモデリング機にはなかった、見逃せない仕様です。

そして肝心のサウンドは、これまたSH-101の正統進化と言うべき、前にぐいぐい出る音です。
特にアンプ部のCRUSHERパラメータはその名のごときビットクラッシャーで、強烈な倍音が発生します。

一方でカットオフもSH-101のように劇的に変化するため、セッティング次第では温かいパッドサウンドも鳴らすことができます。
つまりオールマイティな4音ポリシンセ、という風情です。

そして第1期AIRA共通のSCATTERですが、SYSTEM-1ではアルペジエイターに紐づけられました。
パネル左下のジョグダイアルで10段階のバリエーションを付けられるものの、個人的には好みが限られ、さほど使わなかった印象はあります。

また、このジョグダイアルはベンダーの役割も担いましたが、ホイールやジョイスティックに比べると使いにくいものでした。

UIに若干欠点はあるものの、サウンドは大満足で、さらに往年のモノシンセ(SH-101/SH-2/Promars/SYSTEM-101・102)から1台ハードに共存させられるPLUG OUTは他に類のない機能でした。

SH-101は購入特典でしたが、その後はついつい課金して買い揃え、ついにはソフト版のSYSTEM-1にまで手を出してしまいました。
特におすすめはPromarsで、プリセットから逆引きしても、どういう設定にしたらこんなサウンドが鳴るのかわからないほど奥深いシンセです。

リアから見るとかなり薄型

さらにSYSTEM-1のすごいところは、ファームアップ1.20によって波形が倍(6→12)、音色メモリ数が8倍(8→64)になったこと。

増えた波形にはベース向きのノイジーなノコギリ波、FM、TR-808のカウベル(!)も含まれており、一気にサウンドのバリエーションが多彩になりました。

SYSTEM-8は大傑作

上位機種のSYSTEM-8(2016)にはこれら12波形が引き継がれ、またPLUG OUTもJUPITERシリーズ、JUNOシリーズ、JXシリーズなどのポリフォニックシンセにも対応。

内蔵シンセもSYSTEM-1とは異なり、フィルターも複数タイプから選べるようになりました。
この辺りは後のJUPITER-X/XmにおけるR/M/Sのビンテージフィルターのヒントになったのではないかと思います。

ACB音源はこの後Roland Boutiqueシリーズに搭載され、最近はAIRA COMPACTとしてガジェット展開が始まっています。

これとは別に、Roland CloudではJUPITER-4やJUNO-60などもソフトウエア化され、2019年に登場したZen-Core音源と並び、今もラインナップが続いています。

もともとのスペックが高くてオールラウンダーなZen-Coreと、特定機種に特化したエクスパートACBとは、その用途から今後も共存していくものと思います。

そして僕のSYSTEM-1は今でもGALAXIASのコントローラーとして登板しています。
これで鳴らすSYSTEM-8、なかなかいいです。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。