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クウガ24周年で思い出すトラウマ回

昨日になりますけど、『仮面ライダークウガ』が放送を開始して24年になったそうです。
今もニチアサと言えば、プリキュア・戦隊・ライダーですが、『クウガ』はその始祖になる作品です。

リアルな設定

平成ライダーの原点である『クウガ』は単独ヒーローということも含め、シリーズでも唯一無二の作品です。

後年の『シン・ゴジラ』にも共通しますが、舞台は「怪人」という概念のない制作時点におけるリアルな日本。
序盤は古代遺跡の発掘調査で学生たちのチームが全員消息不明となり、初動に赴くのは現地の長野県警です。

のちにグロンギ(本作品における怪人)の活動範囲が都内に移り、県警警備課で事件を担当していた刑事・一条薫(演:葛山信吾)が警視庁に出向しますが、次作『アギト』のような専門チームや人類側の超兵器はほぼ登場しません。

一条が赴任する「未確認生命体関連事件合同特別捜査本部」に所属するのはスーツ姿の刑事と制服の警官たち。容疑者が古代から復活した生物である以外は、現実の事件捜査と変わりません。
時折クウガをサポートする薬品や兵器類の開発で科研が登場するのが、唯一の空想科学的な描写です。

また演出面でもシーンごとに場所と時刻の表示が徹底され、ご都合主義な時系列を避けるよう配慮されています。これにより視聴者はひたすら「事件の流れ」を追って観ることになります。

侵食される主人公

主人公の五代雄介(演:オダギリジョー)は従来の主役のようなマッチョでも熱血漢でもなく、誰にでも明るく接し、戦闘を好まない優しい人間として描かれています。
ただし、敵のグロンギが強大になるのに合わせ、五代がクウガに変身するたびに、アークル(変身ベルト)に収められた霊石「アマダム」が身体を侵食していくのです。

従来のライダーたちが外的な施術によって「改造人間」と呼称されたのとは一線を画す描写で、体内に吸収されたアマダムに神経を支配されていくのは、病気の進行とも捉えられる設定です。

左から松崎しげる化の進むクウガ

クウガは基本的には赤いフォームですが、相手に応じて装甲強化や移動速度の向上などの能力を持つ色違いのフォームに、自身の意思で変化します。
中盤、五代が瀕死の重傷を負った際に受けた電気ショックの影響で各能力が強化されますが、それに伴いアマダムの侵食も進み、その果てに、人間体を超えた漆黒のアルティメット・フォームへと変貌することになります。

身体の激しい変貌に、優しい五代自身の心がどう変化してしまうのか、というヒーロー物としては重すぎる展開が『仮面ライダークウガ』終盤におけるテーマです。

シリーズ最悪の殺戮

五代の心の変化が明示されたのが、34話「戦慄」と35話「愛憎」の連続する2話で、特に35話はファンから「トラウマ回」と称されるほどの物議を醸しています。

グロンギたちは「ゲゲル」と称した人間たちの殺戮を、ルールに基づいたゲームとして競い合っています。

最上位集団のひとり、ゴ・ジャラジ・ダ(以下ジャラジ)が行ったゲゲルの設定は、緑川学園二年生の男子生徒たち90人を12日間で殺害するというもの。

手口は針のように細くした装飾品を生徒の脳に仕込み、4日後に元の形に復元させるというあまりにも残虐な手法。
しかもジャラジはストリートファッションを着た人間体となって、その生徒にわざわざ予告して死の恐怖を味わせるという極悪非道ぶり。

五代が事件に協力する頃には、すでに89人の生徒が犠牲となっていました。
テレビ画面に並んだ犠牲者の顔写真や葬儀に接し、五代はジャラジへの静かな怒りを募らせていきます。

90人目となった生徒は家族と避難しますが、ジャラジは避難先で姿をちらつかせ、一家に恐怖感を植えつけます。

クウガが駆けつけジャラジのゲゲルはいったん中断しますが、警察の手によって生徒が保護された病院では、警官たちを次々と殺戮。
病室で眠っている生徒に近づきゲゲル達成目前という瞬間、五代が飛び込みます。

刑事たちも怯えるクウガ

ここまでの展開も相当にキツいのですが、本当のトラウマはここから。

五代は飛び込むなり変身し、ジャラジともども病室の窓から飛び出して駐車場に落下。

ジャラジに馬乗りとなったクウガは、その顔面に執拗なまでのパンチと蹴りを浴びせ続けます。
ジャラジの口からは、クウガが返り血を浴びるほどの鮮血が飛び散ります(スーツアクターがリアルに出血したという話も)。

ふらふら立ち上がって逃げるジャラジを捕まえ、さらに殴打を続けるクウガ。
とうに30発は超えていますが、この間セリフはまったくなく、クウガの叫びとジャラジの荒い息のみ。

アッパーでジャラジを転倒させたところでバイクに跨るクウガ。
再び立ち上がるジャラジに突進して両脚を破壊、そのままバイクの前方に乗せたまま爆走します。

バイクから降りられず、かぎ針で抵抗を試みるジャラジに対し、すかさず装甲仕様のタイタンフォームに変化するクウガ。
海岸までバイクを走らせたところで急ブレーキをかけ、ジャラジを海中へ放り出します。

アルティメットの幻

クウガはバイクを降りてゆっくりとジャラジに接近します。
脚もろくに動かず、必死にかぎ針を投げて抵抗するジャラジですが、装甲ですべて弾かれます。

ジャラジに迫りながら強化版ライジングタイタンにフォームチェンジするクウガ。
テレビで観た犠牲者たちの顔写真や葬儀の模様がフラッシュバックされ、五代の怒りが増幅していきます。

ジャラジに対峙したクウガは、手に持ったタイタンソード(剣)でX字に3度斬りつけ、倒れたところを胸から下腹部に向かって真っすぐに切り裂きます。
ここでもクウガはセリフを発さず、ただ「うおぉりゃああああ!」と叫ぶのみ。

ちなみにグロンギの急所はクウガ同様、ベルトの中にある霊石です。
通常はクウガの打撃により身体のどこかに紋章を焼きつけられ、そこから霊石へ向かって神経が破壊されていきます。

ところがジャラジの場合、急所を直接刃物で切り裂かれるという、当人にしてみたら最悪に屈辱的な形で破壊されたのですから、クウガの制裁がいかに異常かがわかります。

フィギュアーツでなんとなく再現

クウガを巻き込んで起こる大爆炎に、初登場となるクウガのアルティメットフォームの姿がオーバーラップ。
怒りが制御できないほど、五代がアマダムに侵食されていることが示唆されます。

病院での尋常ではない様子に不安を感じて駆けつけた一条。
その前に、爆煙の中を無言で立ち尽くす五代の姿がありました。

トラウマの理由

映像ではクウガ=五代雄介の怒りが前面に伝わるため、怪人史上最も悲惨な最期を遂げたジャラジに同情の余地はありません。
なにせ89人プラス警官らを殺戮したわけですから、仕打ちを受けてザマァとなるはずですが、クウガの勝利に微塵のカタルシスは皆無です。

先にも書いたように、クウガに変身してからの五代は、ラストまでひたすら叫ぶだけで言葉らしい言葉を発しません。

アルティメット・フォームの幻影については、後の回でクウガの最終形態らしいと語られます。
さらにその形態になったとして、目の色が赤なら五代の意志が残っており、黒なら完全に侵食されて心身ともに人間ではなくなることも付け加えられます。

カタルシスどころかクウガの成れの果てが見えてしまうという、五代雄介の転機でもあります。

そしてこの回、五代の妹が務める幼稚園を舞台とした、もうひとつのストーリーがあるのです。

番長格のこどもも気弱なこども、ふたりの男子園児が仲良くなっていくという微笑ましいものです。
が、最後にふたりが手を繋ぐカットが、ジャラジを殴打するクウガの拳とカットバックされるのです。

これを「人間同士はわかり合えるけど、人間とグロンギは絶対わかり合えない」という解釈も成り立ちます。
となると、もしアルティメット・フォームと化した五代の目が黒くなっていたらどうなるのか。

もし最上位集団の残党をすべて倒したとしても、人類にはクウガという最大の敵が残るかもしれません。

グロンギなき後、人間は握手を交わせるのか、それとも殴り合うことになるのか。
この回以降のクウガは、その絶望的な展開を描いていくことになるのです。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。