見え方

使いかけのスケッチブックを見つけた。姉のもの。小さい頃から姉妹で私だけ絵が下手だったんだよな。夏休みの人権ポスターなんかは泣きながら描いた記憶がある。だけどスケッチブックの紙の分厚さや表面の凹凸がなんとなく気に入って、その上に柔らかい鉛筆で何か描きたくなった。

適当なマグカップを持ってきて、デッサンしてみる。これが本当に難しい。ずっとマグカップだけ見つめていたら、どこまでマグカップがあってどこからマグカップが無くなるのか分からなくなる。とても不思議な感覚だった。目に見えるものはそこに存在していると信じて疑わない。けれど本当にずっと見ていたら、モノとモノ以外の境目が分からなくなった。そうして最後はもう世界には何にもないんじゃないかと思った。なるほど芸術と哲学は結びつきが強い(と、なんとなく思っている)のはそういうことなのかと妙に納得してしまった。

マグカップはこんな風に見えている。そうして見たまま描いてみる。どれだけ正確に見ようとしても、脳内で補正されてしまうし、補正されたものですら正しく描き写せない。本当(私の中で)はもう少し背が高いし、掴みはもっと丸い。

これはマグカップやデッサンに限ったことではない。

私だけのことでもない。

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