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2023年に読んでよかった本

2023年は50冊の本を読みました。その中でも特に良かった10冊をまとめてみます。


深い河 / 遠藤 周作

これまでに読んだ小説の中で1番面白かったんじゃないか。誇張なしに、そう思えるほど圧倒的な物語だった。生きていくうえで誰しもが抱える「業」や「性」、拭うことのできない過去や、過ちと共に生きることの苦味が、ガンジス川という聖河を舞台に、登場人物それぞれの物語として紡がれていく。山から湧き出た小さな流れがやがて集まり大河になるように、一人ひとりの小さな日常が集まって「個」を超える、大きな物語となっていく構成も素晴らしく、ただただ胸を打たれる読書体験だった。

時の余白に(正・続・続々) / 芥川 喜好

「目が覚めた」という表現では足りない。自分の中の蒙に光があたり、それを「面白い」と呼ぶということを実際に体感できるほど、新たな眼差しを得ることのできる本だった。しばらくはこの本を案内書として、日本の近代が置き去りにしてきた美術の中に、本来は自分自身と地続きのはずの美意識の在り方を探していこうと思う。「続々」が2023年に新刊。

取材・執筆・推敲 書く人の教科書 / 古賀 史健

熱い本だった。最後のページまで全力で駆けるように書かれていて、ぐいぐいと引っ張られるように読み進めることができる。本書の中で何度も言及される「読み手としての自分を鍛える」ことの大切さは、文章だけでなく、生きていくこと全てに通じると思う。実践的な内容も素晴らしい本だけど、何よりも魂のこもった熱い文章そのものに打たれる一冊。

書きあぐねている人のための小説入門 / 保坂 和志

小説に限らず「何かを表現するとはそもそもどういうことだろうか?」「世の中には読みきれない、見きれないほど無数の作品があるのに、なぜ自分が何かを創作するのだろうか?」という、大きな問いに対して、どのように向き合っていくか。という思考過程が一冊の本になっている。「Ⅴ章 風景を書く - 文体の誕生」は特に素晴らしく、「文体」という言葉が意味することをくっきりと更新してくれた。来年は保坂和志の文章をもっと読んでいきたい。

反音楽史 / 石井 宏

小学校の音楽室に飾られている肖像画 - バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス… なぜ二百年から三百年も前のドイツ人の作曲家だけが「楽聖」として讃えられているのか。まるで、ほかの国には優れた作曲家はいなかったかのようではないか。こうした偏向極まる音楽観を打ち出したのは一体誰のどういった仕業なのか。という疑問を、数々の文献資料などを論拠に暴きだし、事実を曝け出し、問答無用に一刀両断していくという、切れ味が尖すぎている痛快な一冊。

吉里吉里人(上・中・下) / 井上 ひさし

今後どこかで誰かに「好きな本は?」と聞かれたら、真っ先にこの「吉里吉里人」と答えようと思う。全編を貫くユーモアとアイロニーと社会風刺。深い問題提起を含みながら、常に笑いとエロとナンセンスで軽やかに包み、どこを切り取っても甘さと、苦さが同居しているような味わいの小説だった。井上ひさしの名言「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」を完璧に体現している。1981年刊行なので、刊行後40年以上が経過しているけど、いまなお新しい。時代を超えたタイムレスな傑作。

告白 / 町田 康

850ページの超長編。非常に長いが目を離せない展開にページを繰るのを止めることが出来ず、一気に読めてしまう。町田康独特の凄みの効いた文体に、主人公たちの話す河内弁が加わることで、渦を巻いて燃え上がるような勢いとなって話が進んでいく。1893年に実際に起きた「河内十人斬り」という殺人事件がモチーフとなっているため、小説の後半も事件同様の殺人のシーンとなる。その残酷な事件描写にも関わらず、作品が余りの高みへ達していることに感動して思わず涙がでた。朝日新聞による「平成の30冊」という企画で、村上春樹の「1Q84」、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」に次いで第3位が本書とのこと。納得。

音、沈黙と測りあえるほどに / 武満 徹

武満徹の試みは「音を音楽から解放すること」にある。武満自身の言葉では「音にたいする意味づけということは、音を原始的な裸形の存在の単位へ還すことによってはじめておこなわれることなのだ。」と言う。ちょっと、、これ、、かっこよすぎませんか。さらに「音楽は、音か沈黙か、そのどちらかである。私は生きる限りにおいて、沈黙に抗議するものとしての<音>を選ぶだろう」と言う。やっぱり、かっこいい。「音」と「生きること」を分かち得ないほど厳しく美を追求した武満徹の音楽、来年は演奏会で聞いてみたい。

デザイン、学びのしくみ ニューヨークの美大講師が考える創造力の伸ばし方 / 遠藤 大輔

幾度も試行錯誤し、失敗と改善を繰り返してきたであろう手触りがありありと刻まれた「学びのしくみ」の本だった。僕も来年度に大学で授業を受け持つためシラバス作成にあたり教科書のように何度も読み返し、参考にさせていただいた。創造性を育むことの先に、未来への希望がある。そうした信念を深めてくれる名著。

死ぬまで生きる日記 / 土門 蘭

「本当のことを書きたい、といつも思っている。」という宣言から始まる本書は「事実と感情を、できるだけ素直に差し出し続けた二年間の記録。」であると言う。冒頭では、そのような勇気のある告白がさらっと書いてあるけど、読み進めて、あまりの純度の高さに唖然とした。「できるだけ素直に」差し出されたゆえに、読み手である自分自身の深いところにも素直に入ってきたのだと思う。著者の土門さんと共に泣き、共に喜べるような、貴重な読書体験だった。

その他、2023年に読んだ本

特によかったものに○をしてます。

わたしが・棄てた・女 / 遠藤 周作
海と毒薬 / 遠藤 周作
◯侍 / 遠藤 周作
雪国 / 川端 康成
もの食う人びと / 辺見 庸
美の考古学 / 松木 武彦
旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記 / 松木 武彦
見立て日本 / 松岡 正剛
調香師の手帖 香りの世界をさぐる / 中村 祥二
街とその不確かな壁 / 村上 春樹
「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。 / 藤吉 豊、 小川 真理子
◯個人的な体験 / 大江 健三郎
ダダダダ菜園記 / 伊藤 礼
◯こぐこぐ自転車/ 伊藤 礼
福岡伸一、西田哲学を読む / 福岡 伸一、池田 善昭
◯今を生きるための現代詩 / 渡邊 十絲子
口語 古事記 / 町田 康
円 / 劉 慈欣
能力の生きづらさをほぐす / 勅使河原 真衣
◯歌わないキビタキ 山庭の自然誌 / 梨木 香歩
それをお金で買いますか / マイケル・サンデル
観光客の哲学 / 東 浩紀
逆ソクラテス / 伊坂 幸太郎
◯科学の考え方・学び方 / 池内 了
日本でわたしも考えた / パーラヴィ・アイヤール
ゼロからトースターを作ってみた結果 / トーマス・トウェイツ
村の家・おじさんの話・歌のわかれ / 中野 重治
パニック・裸の王様 / 開高 健
海辺の光景 / 安岡 章太郎
ハレルヤ / 保坂 和志
最後の喫煙者 / 筒井 康隆
アメリカンスクール / 小島 信夫
◯コンセプトの教科書 / 細田 高大
多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。 / Jam
短歌という爆弾 / 穂村 弘
◯短歌ください / 穂村 弘
認知バイアス辞典 / 情報文化研究所
銀行とデザイン / 金澤 洋
向田邦子ベストエッセイ / 向田 邦子
インテグレーティブ・シンキング / ロジャー・マーティン

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