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モノづくり、人づくり:モノづくりの日本の実践哲学(1)

ステパン・ロディン,歴史学博士、高等経済学部東洋古典研究所准教授
SCIENCE AND SOCIETY • 05/09/2021号より
「日本がロシアからどのように見られているか」この記事は興味深い.

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江戸時代(17~19世紀)の職人による技術の粋を集めた機械式からくり人形は,「モノづくり」の原点とも言われています.人形は,お盆にお茶やお酒のカップが置かれると,お客さんのところに「歩いて」きて,お客さんがお盆からカップを取ると止まってしまいます.お客さんが空のカップをお盆に戻すと,振り向いて去って行きます.

■世界では,Made in Japan(日本製)のラベルは,優れた品質を保証するものとして慣れ親しんでいます.しかし,モノづくりの裏には人間がいて,彼らの仕事ぶりや生産に対する姿勢について,ロシア人にはほとんど知られていません.彼らが作っている技術以上のことは知られていません.

かつて19世紀後半,日本は「和魂洋才」のスローガンのもと,猛烈な勢いで近代化を進めました.20世紀後半には,技術と「経済の奇跡」で世界を驚かせながら,大きな世界に戻っていきました.

モノの輸出だけでなく,アイデアの輸出にも取り組んでいる日本にとって,もう一つのコンセプトである「モノづくり」は非常に重要であり,それを分析することで,日本の労働に対する考え方や「モノ」に対する考え方を理解することができます.モノづくりの原理は,企業だけでなく、大学でも活用されており,もはやこれは日本だけではありません.

日本語の「モノづくり」は,非常に単純な単語の組み合わせですが,この単純さの背後には,労働の産物である「モノ」とその生産プロセスに特別な関係を意味する深い実践哲学があります.最も一般的な意味で,モノづくりとは,利益を上げることではなく,潜在的な買い手のニーズを満たすことを主な目的とする生産を指します.同時に,製造業者,技術者,開発者は,労働を創造性として認識し,社会的利益をもたらすことができる「芸術家」としての地位を与えられているため,生産製品からの疎外感を感じることはありません.

モノづくりは,発明・技術・生産・肉体労働の分野で使われることが多いですが,他の分野で使われることもあります.また,企業や組織が「モノづくり」を実践する上での方針や,適用される分野によって,さまざまな意味合いを持つことになります.

例えば東京工業大学の場合,モノづくりの理念は,学生を指導し,彼らの創造的な能力を開発し,それを職業生活に活かすというプロセスと表裏一体の関係にあります.教室での活動に加えて,ロボット工学,アビオニクス,ラジオエレクトロニクスのサークルを発展させるための条件を整え,学生の課外活動を支援しています.社会的に有用で,使う人に喜びをもたらす最高の品質のものを根気よく作り上げるという姿勢を講義で学ぶことで,学生は実践的な活動をより慎重に行い,技術的な失敗があっても,それは習得のためのプロセスの一部として受け止めるように調整します.

日本の一部の高等教育機関には,モノづくりの考え方に基づいた特殊教育センターがあります.例えば、東京大学では,技術や企業経営の分野での人材や開発に関心のある30以上の団体の代表者と,大学の学生や社員を結びつける「モノづくり研究会」があります.

崇城大学(熊本)では,「崇城大学モノづくりイノベーションセンター」(SUMIC,Sojo University Monozukuri Innovation Center)を運営し,学生の創造・発明を奨励・支援しています.センターには技術者に役立つ様々な機器が設置されており,安全教育を受けた崇城生ならばいつでもアクセスできます.写真↓

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モノづくりセンターは単なる実験の場ではなく,さまざまな社会的機能を持っています.敷地内での活動は常に自主的なものであるため,学生たちは強制されるのではなく,楽しみながら仕事や創作をするということに慣れていきます.一人では難しい,あるいは不可能なプロジェクトが多い中,モノづくりセンターでは,企業などで働く際に役立つ自己組織化能力やチームワークを養うことができます.

高等教育機関に多くのクラブや研究室が作られる目的の一つは,将来何をしたいかを知っている専門家を育成することです.理想的には,モノづくりの考え方に基づいた生産のアイデアを,工学部の学生が3年生の時に導入することです.例えば,ロボットクラブに入学することで,生徒は趣味と教育を組み合わせ,創造的な環境に入り,先輩の仕事を観察して学ぶだけでなく,自分のプロジェクトを実行し,彼らと一緒にあらゆる競争やコンテストに参加することができます.現在の日本の有名な技術者や発明家の多くは,このようなサークルで技術や頭脳を磨いたり,学生コンテストに参加したりしています.

サークルのチューターや潜在的な雇用者に対して,学生の技術的なスキルだけでなく,プロセスに対する姿勢を評価する機会となります.
例えば,全国的なロボットの祭典「ロボコン」を生んだ伝説の発明家・哲学者・理論家である森雅弘氏は,モノを作り,それを使って競技を行うことは,人が行動に移す「遊び」のプロセスに似ていると述べています.これは,発明者や技術者の気持ちを盛り上げると同時に,観察者にも開放することになります.

モノづくりの原理は,日本の大企業の膨大な数の生産現場で使われています.生産現場と企業経営の両面で「モノづくり」を実践している日産にとって,その適用範囲は工場の現場や経営者のオフィスだけではありません.「モノづくりキャラバン」と呼ばれる教育イベントを通じて,1)国内外の学校での技術マスタークラスの実施による社会的使命の遂行,2)自社の知名度の向上,3)ソフトパワーや文化外交に欠かせない日本文化や「伝統的な価値観」の普及,を同時に実現しています.例えば,2013年には「モノづくりキャラバン」がイギリスの学校に届きました,日本企業のエンジニアの熱心な指導のもと,自分の手で自動車の部品を作る機会を得ただけでなく,英国の小学生たちは,日本の文化,労働倫理,「継続的改善」の哲学である「カイゼン」,そしてもちろん「モノづくり」についての基本的な知識を得ました.

同様のことは,企業理念であるTPS(トヨタ生産方式)が多くの企業に研究され,模倣されているトヨタでも行われています.TPSの特徴は,下流の責任を高めて管理プロセスを合理化し,生産サイクルを効率化することで,生産の無駄,過剰な倉庫コスト,生産ダウンタイムなどの要因を排除することにあります."しかし,「最適化」といっても,労働力や人材の削減が理想ではありません.TPSの目的は,労働によって最適に発揮される労働者の資質を引き出すことです.TPSは,「ものづくり」の考え方と,継続的な改善のための「カイゼン」の考え方を組み合わせたものです.実際には,マネージャーと労働者の間のフィードバックの設定などで表現されていました.後者は,企業全体と自分の労働条件の両方を改善するために,率先して定期的に提案することが求められました.成功したアイデアは実行され,提案した社員にはボーナスが支給されます.他の企業と同様に,トヨタは労働の心理的側面と労働者のモチベーションのサポートに大きな注意を払っています.

この言葉の解釈は様々ですが,それらを統一しているのは,「モノづくり」の哲学が日本の「伝統」と結びついていることを強調していることです.自分の過去への関心や,「国民性」や「国民文化」を「独自のもの」として意識することは,1960年代後半から日本社会で特に顕著に見られるようになりました.強力な経済成長を遂げ,ハイテクと資源集約型の生産により,日本が世界市場を徐々に獲得していった時代です.第二次世界大戦の敗戦の影響を克服し,新たな基盤で大きな世界に復帰しようとしていました.以前は,日本人が世界の中で自分たちを理解するのを「手助け」したのは,政治家や軍人でしたが,今では,民族学者,心理学者,哲学者,広報担当者が,新しい想像上の共同体とその理想を創造するプロセスの中で,その立場を占めています.彼らは,日本のすべてのものについて,優越性ではなく,独自性の観点から語りました(詳細は,A. N. Mescheryakov, Staying Japanese: Yanagita Kunio and His Team, Moscow, 2020を参照).

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