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CT(原理編)

■CT装置

CT(computed tomography)は,病院で診断に使われていますので,ご存じの方も多いことでしょう.1968年に英国EMI社のハンスフィールドHounsfieldによって発明されました(1979年,ハンスフィールド,コーマックがノーベル賞受賞しました).英国EMI社が実用化(1970年)しました.
レントゲン写真撮影は,点光源から出たX線が,被測定物の人間を透過し,人間の後ろに置いたフィルム上に影(吸収像)を作ります.CT測定では,被測定物の人間のまわりで,点光源とフィルムのシステムを一周(半周)させるのです.こうして得たさまざまな方向からの透過像を収集し,計算で再構成し,断面の画像を得ることができる非破壊検査です.例えば,木を切らずに年輪を見れれば,木材伐採や文化財の調査に役立ちます(尾上守夫TreeCTプロジェクトに私も参加しました).

病院のCT装置の初期のものは,1つの断面の測定が済むと,ベッドが少し動いて次の断面を測定するというような仕組みで,測定に時間がかかりました.ベッドは動かさず点光源とフィルムのセットをらせん状に連続的に動かす「ヘリカルスキャン」を東芝が開発し高速化が実現しました.東芝メディカルシステムズ(現在はキャノンに買収)は,この装置の普及で1998年の市村産業省功績賞を受賞しています.

■CTの原理

原理1

モデル物体(ファントム)の断面の密度分布をf(x,y)とします.物体は動かない(x-y座標系は物体に固定していて動かない)が,光源とフィルムを載せた座標系X-Yは回転します.X線はY方向から照射し,ファントムを通過し投影像(X線吸収像)p(X,θ)を記録します.Xは投影像に固定している座標,θは回転角を表すパラメータです.ファントム中に穴があるすると穴の部分を通過するX線はあまり吸収されずに通りますから,吸収量のグラフはp(X,θ)のようになります.(赤で着色したのは吸収量の方です)

原理2

吸収量の投影像をファントムの方に延長して色を塗ります.2方向から吸収量の分布を重ね合わせると,ひし形ではありますが,内部に密度の低いところがあるのが見えてきます.周囲からこの操作をやると,ファントムが正確に再現され,内部の穴が丸く見えてきます.

結局,(X,θ)を変数とする投影データp(X,θ)を,(X,Y)の座標に変換し,さらに回転を考えて(x,y)の座標系で見たデータに変換しています.この座標変換はラドン変換と呼ばれますが,θを0≦θ≦180°回転させて得たデータp(X,θ)を重畳すれば断面の形f(x,y)が得られます.下の手順のブロック図で,Fourier space(周波数空間)を経由して計算する手法も示しましたが,投影データを周波数空間に変換し,フィルター(Shepp-Loganフィルタなど)をかけて再度逆変換する方法で良い結果が得られます.

原理3

■実際の実験結果は,別の機会に述べますが,例えば,カバー写真は,孟宗竹のμCTの例です.吸収が竹組織には様々なサイズの組織があり,また炭素原子が主体の生体物ですから,興味深いファントムになります.用いるX線の波長はC原子でも吸収が起こる波長で,単色光でなく白色光を用いた方がよい結果になります.







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