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層の対称群★

皆様,2次元平面に裏表があると思いますか,ないと思いますか?
2次元とは厚み方向の次元のない世界ですから,表面だけがその実体です.従って,2次元は表面や裏面の区別のない世界,片側面だけ(単面)の平面と考えてください.この2次元平面を私たちの住む3次元世界に置いたとすると,表側面と裏側面の区別が生じます.

無限に広がる周期的な2次元平面(=2次元結晶平面)とは,面内に2つの独立な並進ベクトル$${a, b}$$があり,この2つのベクトルで挟まれる平行4辺形を単位胞(単位タイル)として,平面を隙間なく張り詰めた構造です.周期的な2次元平面の対称性(平面群)は17種類でありました.いわゆる17種類の壁紙模様のことで,単面の2次元結晶世界で考えたものです.

我々の3次元の世界の中で,2次元の平面を見たときに,表面と裏面の区別が生じますので,この双面をもつ2次元平面を「層」と呼びます.

層というのは,3次元の世界に置かれた2次元平面で,層には表面と裏面があります.

層の2次元周期的模様(表側と裏側のある面)の対称性(空間群)は,80種類あります.もちろん,80種類のうちに片側のみの面の対称群17種類は含まれます.

片側のみの面の対称群17種類から,どのようにして80種類の空間群が導けるのでしょうか.

第1の方法は,層の内部(層に含まれるような)に,対称心,鏡映面(あるいは,映進面),2回軸(あるいは,2回らせん軸),などの,位数2の対称操作を導入し,片面の世界を他の面の世界に写像することです.つまり,
片面のみの壁紙模様の17種類の平面群と,層の内部に置いた位数2の対称群との直積で「層の空間群」を生成する方法です.

第2の方法は,2次元(片面)平面群の生成元の一部を,表面と裏面との間を
変換するものに[回軸対称軸を位数2のらせん軸に,鏡映面を映進面に]変える方法です.

こうして,17種類の平面群から,80種類の層の空間群を導くことができます.
層の対称性(空間群)をすべて導くことは,1930年までにドイツの科学者;Hermann,Weber,Alexanderらによって完了しています.

層に対する空間群など,何に応用できるのかと思う方もおられることでしょう.層の対称性(空間群)は,表面や界面の記述に用いることができます.結晶学では液晶構造,ドメイン界面,双晶,エピタキシャル接合の研究に,物理化学では単分子層や薄膜の研究に,生物学では膜構造やその他の生体組織の研究に応用できます.また,建築芸術においても, 透かし彫りの格子構造,覆い,フェンス,看板などのデザインに応用できます.

それにもましてこの概念が重要なのは,層の空間群は,それを含む3次元空間群の内部構造を理解することになり,群の拡大理論に直結し,反対称などの新たな概念を導入した群の構築の基礎になることです.



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