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おそろおそろ尋ね歩道

横断歩道を渡る。
「いや、情景描写がおおいな。そのくせ肝心の情景なんかこれっぽっちも浮かばないというのに。」
ただこればかりは仕方がない。
見たものの話なので。

二人組が先に渡っていく。
NIKEのカバンが目に入ってきた。もこもこの生地でモノトーン。黒地に白のマークでビッグロゴ。ひとりはポシェットがおしりのところでぱたぱたしていて、もうひとりはハンドバッグで肘にかけて安定していた。
「おそろいで観光か。いいじゃないか。」
と興味を失いかけるとアウターのファーのフリースもボトムスのサルエルパンツもおそろいだったことに気がつく。色が地味なのと、切り返しが多くてコラージュ状に生地が集まっているせいで、かたちは同じなのにおそろいだと気が付かなかった。
「なるほど。よく見ないと分からないステルスおそろコーデか。やっと見つけたソウルメイトと心のより深いところで繋がり合いたいというのは少なからず共感できる。」

朝から暖かいきもちになりながら二人組を追い越す。長年の癖で歩く時の視線は下を向きがちだ。
横断歩道の白黒の上を歩く彼らの足元が視界に入ると、彼らは全く違う靴を履いていた。

ぴかぴかだったので新調したのだろう。ソウルメイトでも譲れないところがあるのだろうか。わぁー!これもこれもかわいいね!今度の旅行おそろにしよーょ!!と盛り上がっていた舌先三寸乾かぬうちに、靴は高めだし比較的長く使うし。ね。と言ってそこだけ急に冷静になったのだろうか。
別に関係性をとやかく言いたいわけではない。気持ちを伝え合えずにほんのり違和を感じながら色違いの靴を履くよりもよっぽど良好な関係だ。期待はおそろの誰かに向けるより行きたい先に向けよう。見たい景色が似ていれば自然と一緒に歩ける時間も増えるだろうし、迷ったとしてもたどり着いた先でまた会えるだろう。さてどうだろうか。
横断歩道を渡るわずかな時間。靴が違うのはどういうわけなのか、おそるおそる聞いてみたいと思いながらほんとに聞いたりはしないで通り過ぎて、二人はどこかに行ってしまった。

カフカエクス
エクスペリエンス
浴室しゃべんのおもしれー

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