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【SGDトーク】草木ノ駆け込み寺 100年続く 植物との暮らし方 (ゲスト:塩津 丈洋 氏)<アーカイブ動画のみ有料>

植物を売るお店はあるが、植物を診てくれる病院のような場所がない。そのような思いから「草木ノ駆け込み寺」は生まれました。手間がかかる仕事を率先して引き受けることが、みどりの持続可能な未来に繋がるのはなぜでしょうか?

今回のゲストは塩津植物研究所の塩津丈洋氏。「SGD×生産」のテーマでは3人目のゲストです。「草木ノ駆け込み寺 100年続く 植物との暮らし方」と題して、2022年2月3日(木)に開催されたSGDトークの模様をお届けします。

SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。
第1部 19:00-19:20 SGDイントロダクション「SOCIAL GREEN DESIGNとは」
第2部 19:20-20:20 塩津氏によるトーク「草木ノ駆け込み寺 ~100年続く 植物との暮らし方~」
第3部 20:20-21:30 モデレータとのディスカッション
塩津氏のトーク内容から振り返っていきます。


植物を診る病院をつくる

塩津さん:今、奈良県の橿原市で種木の生産をしています。大学ではスペースデザインを学びましたが、木を製材したり建てたりする建築の分野よりは、木そのものを育てる仕事に関心を持つようになりました。様々な仕事を見て回る中で、直感的に盆栽屋さんにピンときて弟子入りをしたんです。

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塩津さん:次第に植物を販売しているお店はたくさんある一方で、植物を診る病院のような場所がないことに気がつきました。そのような場所が必要とされていると思い、東京の世田谷で植物の治療を専門とした「塩津丈洋植物研究所」を作りました。しかし、治療だけだと最初は全然人が来てくれませんでした。そこで、結婚を機に奈良県橿原市に移転し「塩津植物研究所」に改名して、夫婦で植物の治療に加えて種木の生産・培養もはじめました。

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塩津さん:種木の生産・培養をはじめた理由は、若いうちに時間がかかる生産の分野に挑戦したかったのと、治療というメインの仕事に対して、植物の生態を詳しく学ぶことにもなると考えたからです。現在は生産、盆栽、治療、教室、空間、作庭という6つの領域の仕事をしています。

盆栽はどうやって作るの?

塩津さん:塩津植物研究所では、300坪の敷地の中で、200種3万本の草木を育てています。種子は購入するのではなく、秋に道端で拾って歩きます。種を拾う前に、綺麗に紅葉している木かどうか?などを確かめて、親の木の状態を見たいからです。種子をまいてから育つまで、3年間くらいはかかります。

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塩津さん:秋に種を蒔いたら翌年の春には芽が出てきます。芽が出てきたらこれに水を撒いて、太陽の光を浴びさせて育てていきます。

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塩津さん:ここで重要なのが、うちでは盆栽の素材である種木を作っているので、ある程度の大きさになったら蓋を被せる必要があります。

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塩津さん:それから一定期間置いてこの蓋を外すと、中の草木はグニャグニャに曲がっています。この曲がりが将来、盆栽の形になるのです。

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塩津さん:どこからが盆栽かという定義になるんですが、「鑑賞を目的とした鉢植え植物」のことを指します。どんな木でも盆栽を作れますが、マツやモミジなど形が作りやすい木を生産する方は多いです。ただ、うちは小規模の事業者で自由が利くので、わざと盆栽にしない珍しいクルミやクスノキなどを率先して撒いて作っています。

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塩津さん:また、うちは種から撒くか、挿し木をするかで盆栽を作ります。挿し木の方が早く種木が作れます。種では3年かかるものが、挿し木では2年でできるんです。挿し木で作ると親の能力をそのまま引き継ぐのが良いところで、実際、盆栽の世界では挿し木を使う場合が9割くらいを占めています。挿し木はクローンになる一方で、種から撒く場合は親とは違う形に進化すると考えるのが良いでしょう。

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人気がない木も生産する

塩津さん:なぜ、人気でない木も生産するのか?ということについてですが、私は木が好きでこの業界に入りました。木に良い悪いはないと考えています。まだ見たことのないような美しい木を作りたいという思いもあります。植物の名前を知らない人でも、「葉っぱの形がかわいいな」とか「お花が綺麗だな」などと、今まで盆栽にならなかった木でも興味を持ってくださいます。

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植物をケアして愛情を注ぐ

塩津さん:植物がないと社会は荒んでしまいますし、いろんな方が植物のことで悩みを持っています。だから、毎日のようにうちにもお問い合わせがきます。「このような場所は近くにないんです」と言って、北海道から飛行機で来てくれたお客さんもいました。これほどまでに、植物に愛情を感じてくれている方もいるのです。

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塩津さん:盆栽を剪定するために、車でお家を回らせてもらうこともあります。また、植物の預かりもしていて「転勤のため植物を3年間預かってください」という方や、「職人さんに預かってほしい」とずっと預けてくれてパーティーの時だけ持っていかれる方もいます。

世の中が求めてきたことを仕事に

塩津さん:うちは「草木ノ駆け込み寺」を目指しています。草木の相談はなんでもOKです。「あそこに行けば、植物の悩みが解決される」という場所が、世の中に1軒くらいあっても良いという思いが強くあります。だからどんどん仕事が増えていきます。世の中が求めてきたことを仕事にしているので、メインは治療や生産・培養ですが、何者か?と聞かれると難しいです。だから「草木ノ駆け込み寺をしています」と答えることにしています。

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塩津さん:消費されない愛されるものを作りたいです。僕らが作っているものはあくまでも鑑賞物なので、一歩間違えれば本当に無駄なものとして消費されてしまう危機感があります。捨てたいと思うものにならないように植物と向き合っているのです。

レクチャーを受けて、ディスカッション

塩津さんのお話の後、エクステリアがご専門の小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)とランドスケープデザイナーの三島由樹さん(株式会社 フォルク)を交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。お2人はSOCIAL GREEN DESIGN 協会の理事でもあります。

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小松さん:恥ずかしながら盆栽ビジネスの構造や成り立ちを知らず、こういうシステムや考え方があるのかと驚きました。植物をメンテナンスする動機が純粋で素敵だなと思いました。草木の治療というのは、手間暇がかかるし技術が必要だと思うのですが、ビジネスとしては成り立つものなのでしょうか?

塩津さん:ビジネスの話だけで言えば、(治療をせず)植物が枯れたらまた買いに来てくれた方が儲かります。ただ、売上は別として、未来に期待しているところが大きいです。盆栽は本来100年も生きるのですが、何度も枯らしてしまったら、「自分は植物を育てることに向いてない」と思ってしまう人が増えてしまいます。だから、新しい盆栽をたくさん売るよりも、少ない数を大切に育てメンテナンスを大事にする方がファンが増えると思うんです。

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三島さん:昨年の6月に塩津植物研究所に伺った時、クスノキを分けていただいたのですが、商品でも作品でもない塩津さんの家族を預かったような感覚を得たのが新鮮でした。塩津さんが目指しておられる愛されるものを作るというのは同業者もそうしたいと考えていることかと思うのですが、なかなかできている人はいません。どのようにしてそれを実現されているのでしょうか?なぜ木が好きになったのでしょうか?

塩津さん:業界全体を変えるのは難しいことですが、うちは小さな事業者なので、挑戦できることはあります。あと僕は和歌山の田舎で育ったので、周りが森だらけで木がある暮らしが当たり前でした。そのような環境で、木が好きになりました。これが仕事になるなら幸せだなと思って、この業界に入ったんです。

小松さん:町では(街路樹、公園などの)木が大事にされていないと実感しますが、どうしたらもっと大事にされるでしょうか?

塩津さん:木を育てる仕事って、木を枯らす仕事でもあるんです。私も3万本育てていると、虫に食われたり病気をしたり倒れてしまったりと、様々な要因で木を枯らしてしまうことがあります。でも、町では木があることで遠近感がわかり、交通事故が減るという話もありますし、木が人の命を守ってくれているんです。塩津植物研究所を作ったのは、免罪符のような感覚もあって、好きだからこそ人間のエゴを考えねばなりません。ただ作って売るだけでなく、最後のはけ口である駆け込み寺を作ることで、この仕事を長く続けられています。木を全部守ることができない一方で、それによって社会が成り立っているので、植物に甘える部分も出てきてしまいます。そのような中で木を少しでも守れたらと感じています。

小松さん:なるほど、ビジネスがありつつもそのシステムをケアしていくことで、すぐに儲けにならなかったとしても、全体を補完していくような考え方やり方があるんだなと思いました。

【SGD×生産 共通の質問】①そのみどり、何のためにつくっているのですか?

塩津さん:生産した植物はどこに行き着くのだろう?という疑問があります。植物が枯れるのは悲しいですが、それを全部止めることはできません。ただ、作りっぱなしにしないで、作ったものの面倒を見ることは大事です。もし日本中の2万店の花屋さんが売った植物をメンテナンスするようになったら、素晴らしい世の中になると思います。

視聴者からの質問例

今回も、視聴者の皆様から本当にたくさんの質問をいただきました。質疑応答の一部をここでご紹介させていただきます!

視聴者①:盆栽をはじめ、商品としての植物や野菜などもそうだと思いますが、かかる時間と手間の割に値段が安すぎると感じることがあります。盆栽は時間と手間の部分を価格として定量化するのが難しいのではないかと想像しますが、塩津さんは盆栽の価格をどのように決めていますか?

塩津さん:盆栽の生産をメインでやっている所は減っていて、業界では3年育てて1つ500〜800円の価格帯が普通なので、手間に対するお金が合いません。でも、原材料である種や挿し木を調達するのにお金はほとんどかかってないですし、僕はこれが将来への投資だと思ってやっています。売って終わりというサイクルではなくて、2000〜3000円の鉢植えに植え替えてくれるかもしれないし、手入れのために足を運んでくれるかもしれません。

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視聴者②:植物を取り扱っている他の業種として切り花屋さんがありますが、塩津さんとは真逆のかなり「消費」に近いところにあると思います。塩津さんが思う、理想の切り花の店はどんなものになるのでしょうか?

塩津さん:切り花は盆栽とは別物で1つの文化としてあり、その時を楽しむという醍醐味があります。あと切り花はとても大切に作られており、今年の収穫分を切り取っても来年また出てくるというサイクルもあるので、決して消費とはいいきれません。切っても切らなくても一年で枯れてしまうお花もあるので、一番いいときに切ってあげて、それがお花屋さんに並び家庭に行くことを考えると、お花屋さんというのは必要な存在です。やはり旬のお花を丁寧に最善の状態で並べてくれるお花屋さんが人を幸せにすると思います。

【SGD×生産 共通の質問】②これからの時代に求められるみどりとは?

塩津さん:「いつもの草木が未来をつくる」と考えています。あまり大きなことは言えないのですが、あなたのそばの1鉢が実はこれからの未来に求められるみどりなのだということを伝えたいです。

単に植物を育てることをビジネスとして考えるにとどまらず、業界全体をケアしていくような塩津さんのお話は、持続可能な植物との関わり方を考える素晴らしいお話でした。この度はお話を聞かせてくださり、ありがとうございました!

【SGDトーク】SGD×生産 #03 まとめ

・植物を販売しているお店はあるが、植物を診てくれる病院のような場所がない。
・塩津植物研究所は「草木ノ駆け込み寺」を目指しており、植物の悩みが解決される場所を作っている。
・ビジネスの話だけで言えば、植物が枯れたらまた買いに来てくれた方が儲かる。しかし、少ない数を大切に育ててメンテナンスを大事にする方がファンは増える。
・ビジネスがありつつも、システムをケアしていくことですぐにはビジネスにならなくても、全体を補完していくような考え方やり方がある。
・植物のことだったら任せろと言えるような人でありたい。

【SGDトーク】 SGD×生産 #03プロフィール

ゲスト
塩津 丈洋(しおづ たけひろ)
塩津植物研究所
1984年 和歌山県生まれ
名古屋芸術大学 デザイン学部卒業
東京都内 盆栽職人の元にて修業後
2010年 塩津植物研究所を設立
実生 挿木 取木 様々な園芸技法を用い
生産と日本各地より集め育てた種木から
盆栽への仕上げまでを一貫して行う
草木の生産や培養 治療を主に
誰しもの「草木ノ駆け込み寺」となれるよう
人と植物のよりよい暮らしを研究している
名古屋芸術大学 講師
著書[ 身近に植物のある暮らし ]自由国民社 http://syokubutsukenkyujo.com

モデレータ

小松 正幸(こまつ まさゆき)

株式会社ユニマットリック 代表取締役社長 / (一社)犬と住まいる協会理事長 / NPO法人ガーデンを考える会理事 / NPO法人 渋谷・青山景観整備機構理事 / (公社)日本エクステリア建設業協会顧問 / 
E&Gアカデミー(エクステリアデザイナー育成の専門校)代表 / 1級造園施工管理技士
RIKミッション『人にみどりを、まちに彩りを』の実現と「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデン業界における課題解決を目指している。

モデレータ

三島 由樹(みしま よしき)

株式会社フォルク 代表取締役 / ランドスケープ・デザイナー 
1979年 東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院デザインスクール・ランドスケープアーキテクチャー学科修了(MLA)。マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教の職を経て、2015年 株式会社フォルクを設立。 これまで、慶應義塾大学、芝浦工業大学、千葉大学、東京大学、日本女子大学、早稲田大学で非常勤講師を務める。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)


(執筆:稲村 行真)

アーカイブ動画について
▼今回のSGDトークの全ての内容は、以下のYoutube動画にてご覧いただけます。ご希望の方は以下よりご購入ください。

https://form.run/@SocialGreenDesign-archive

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