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【SGDトーク】西川教授の悩みと情熱 みどりの教育現場の苦境と未来(ゲスト:西川真水氏)

みどりの教育にこれから必要なことは何でしょうか?多様な働き方が増え、一方で大学教育の場が減少する中で、教育現場の視点からみどりのこれからを考えます。

今回のゲストは西日本短大緑地環境学科 教授の西川 真水(にしかわ まさみ)氏。2024年1月24日に、九州の造園・環境分野における熱き教育のプロと、みどりの教育現場について考えたSGDトークの模様をお届けします。

SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。

17:00-17:15 イントロ(15min.)
– ソーシャルグリーンデザインとは?

17:15-17:45 ゲスト紹介(30min.)
– 西川先生活動内容ご紹介

~休憩5分~

17:50-18:45  モデレーターとの ディスカッション(55min.)
– これからのみどり業界で活躍する人材育成とは?

18:45-19:15 Q&A(30min.) 

19:15-19:30 クロージング(15min.)
– 今日のまとめ

西川先生の自己紹介

まずは西川さんの自己紹介、大学教授としての活動、そして学外との連携などについて、お話いただきました。

西川さんは東京農業大学で造園の教育を受け、緑地計画やランドスケープについて学びました。卒業後は大学に残ることになり、1年だけ就職しました。その後は京都の小林造園で有名な日本庭園の管理から庭づくりまで現場に関わる喜びを知りました。

その後実家の園芸会社に帰りましたが、2ヶ月後に倒産…。それからは図面を引いて不動産屋に売り込む日々が続きました。2003年に「拾う神様」がいて嶋田学園福岡国土建設専門学校の教員として、教育の道に進むことになったそうです。

それから6年後、西日本短期大学緑地環境学科に移りました。
これが今働いておられる職場です。

西日本短期大学緑地環境学科の取り組み

西川さんの職場である西日本短期大学緑地環境学科は、自然が豊かな二丈(にじょう)キャンパスにあります。

西川さん:この短期大学の2年間で、4年間の大学教育と同じくらい自信が持てる専門家を出したいです。現状は登録ランドスケープアーキテクトは減っていて、養成学校もどんどん減っています。でも2年制大学で学科長をしており、私なりにできることをしていきたいと考えています。

西川さん:2年生の現場教育でどうカリキュラムを組んでいくのか。4年制大学は計画、設計、施工整備、管理運営という順に進んでいきます。でも西日本短期大学は2年制で卒業後はほとんど現場仕事に出て行く人が多いので、施工整備、管理運営をまず取り組むことが大事だと考えています。とにかく現場体験から入って、それから核論に展開していくという(4年制大学とは学びの順序を反転させた)カリキュラムを展開しています。

この授業カリキュラムだけではなく、放課後活動も盛んなようです。

西川さん:勉強が嫌いな学生は多いです。学びは自分で作るものだという話を学生にしています。クラブを作ると学校から学生に年間5万円くらいの資金が出るという仕組みもあって、放課後に学ぶ「ランドスケープデザイン部」ができました。植物の根巻きを職人を呼んで学ぶなど、放課後活動が活発になりました。

学んだことを総合化して実際に作ってみるという実践的な学びにもつながっているようです。キャンパスの中に「くつろげる場所を作ろう」ということで、お茶を楽しむ場を作ることになったのだとか。最初は模型を何度も作り、小さい模型だけでなくスケール感を確認しながら、1/1の模型も作り…。こういう作業は西川さん曰く「徹底的にやる」のだそうです。

植物も自分たちで植えていき、その地道な取り組みの先に、最終的には素晴らしい「くつろぎの場」が完成したそうです!

学外活動へと裾野を広げる

西川さんは授業や放課後だけでなく、学外活動としてキャンパスの外に出て、社会や地域と繋がることで学びを深めることも大事だと考えています。

西川さん:学生と国体道路での花壇修景プロジェクトも行いました。「国道で花を植えてほしい」という依頼があり、部活の学生を集めて、NPO法人はかた夢松原の会や国土交通省福岡国道事務所と一緒に行いました。これは地域のフィールド調査をしていて、違法駐輪やゴミのポイ捨てが多いからどうしたら解決できるかということで、花壇にしようという解決方法になったんです。

西川さん:この花壇づくりでは、住民との交流を進めるために、「湯飲みケーション」という食事会も大事にしていました。このように食事を囲んで交流するということも大事にしています。

それ以外にも、大きな花時計を作って花の植え替えなどを地域住民と行う「東光まちにわプロジェクト」や山口、熊本、仙台などで開催された「全国都市緑化フェアでの花壇づくり」など、学生とみどり業界の協働の場が生まれてきたのだとか。学生にとっては本当に幅広いみどりの世界を知ることに繋がっていますね!

西川さん:官民学といろんな人・団体がいて、これを日常的に繋ぐことが必要だと考えています。大学に業界の人をたくさん招いて、研修会を実施することもあります。いわばたくさんの星の中に囲まれていることを知ることが大事です。学生との交流も大事にしていて、食事をすることも大事にしています。コロナ禍でも学生とはオンラインお料理ゼミを何度も行いました。

西川さんは単なる学びの場を作るだけでなく、食事を通して学生同士や地域と学生を繋げることを大事にされており、西川さん自身も学生たちとの素晴らしい関係性が築けているようです!

ディスカッション

西川さんのお話の後、モデレーターの小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)、三島由樹さん(株式会社 フォルク)、石川由佳子さん(一般社団法人 for Cities)を交えた様々なディスカッションが行われたので、その一部をご紹介します。

三島さん:学業以外のことをこれだけの密度で行なっているのが素晴らしいと思いました。学生と教授との人間関係を長期的に築いていくことも大事ですね。

小松さん:素晴らしい人づくりをされていますね。短期大学が減っている中で、東京農大や恵泉女学園が園芸分野の学生募集を停止しました。造園の学校、園芸はどういう風になっていくのか、という点はどうお考えでしょうか。

西川さん:アメリカのハーバード大学が全世界で一番最初にできた造園の大学でした。日本では日比谷公園を設計した本多静六さん以降に造園業が発展しましたね。本多さんは東京駅を設計した辰野金吾さんに日比谷公園の設計を押し付けられたという回顧録がありますが、押し付けられなかったら今この業界の教育はどうなっていたんだろうかと考えます。もしかすると、造園が農学部ではなく、工学部の方にあったかもしれません。これは造園において「自然との関わりは大事だよね」というメッセージだと思いました。今業界人が減っていく中で、教育分野での造園はどこかと統合して違う形で残る可能性もあります。ただ、ぼくは今の大学で学科を残していかねばならないものだと思っています。

・・・

三島さん:大学は近代が生み出したものだと思います。なるべく早く訓練された学生を職場に送り出すということが、ある種の命題だったようにも思えます。でも今は造園など自然に関わる分野は特に、10年くらいゆっくりと学ぶというあり方も大事なのではと思います。緑化フェアは作って、壊しての繰り返しも多いです。常設のものをいかに作っていけるか、そういう積み重ね、仮設ではない実践演習も大事なのではないかとも思っています。

西川さん:仮設物が増えていく理由としては、遠くの地域など多くの皆さんに知ってもらうために必要となることがあります。メンテナンスが必要になるため、他の大事な学びができなくなるということもありますし、瑕疵担保も発生します。そういうわけで3年くらいで作ったものを壊すということが多くなっています。とにかくたくさんのものを作ると、お金がかかるので、壊さないと材料が出てこないんですね。だから壊すことで、やりたいことができるようにもなるんです。

あとは短期大学には長期履修制度もあって、6年学ぶこともできます。それが意外とうまくいってなくて、もうひとつ解決策としてあるのは、学び足したい人がいてもよくて、大学院ではなくて、実践に重きをおいた時に、大学にもう一度行く人がいても良いと思うんです。ランドスケープはいろんなことを知っていた方が良いですから。

・・・

石川さん:「いい採用とは」という話をすることは大事だなと思っていて、みどりの仕事は多様になってきていて、就職したら思っていた職場と違うということも多いのではと思っています。理想とのギャップで道がわからなくなる学生もいるんでしょうか?

西川さん:造園屋さんに入っていつも庭づくりをしていけると思っていたら、管理がメインだったという話もあります。入社してすぐは管理仕事が多いですね。でも全体像を知っていれば、そういうことは起こらなかったはずなんですね。幅広く業界を見るにはどこか勇気がいることなんです。

花屋でアルバイトをしていたら、造園屋に行くことになった学生がいて、花の成長を見ていられる楽しさを知ったようです。「花が好き」でも色々あって、それは選択肢があるからこその気づきだったと思います。

ゲストに対するQ&A

西川さん:長期教育という点では、小学校くらいから学べる場が少ないですよね。子ども向けの教育が定着すれば、みどりの教育が変わっていくかもしれません。

石川さん:そういえば小学6年生に「人間以外の街のデザイン」というテーマで教える機会があり、靖国神社の植栽をみんなで調べました。大事にしたのは「身体性」で、小学校は人工芝だし、普段土やみどりに触れる機会がない子どもだったんです。子どもの身体性を鍛える学びができたらと思いました。

西川さん:子どもは泥遊びをしますよね。そういう子に悪い子はいなくて、大人になっても土から離れないほうが素直に生きられるように思います。

西川さん:「ハードな庭師さん」としての部分だけが取り上げられていますね。他分野とコラボできる部分を知ってもらうなど、(全体的な視点で)それが「魅力的な仕事」であることを伝えられたらと思います。

三島さん:園芸の仕事は地道で、長期的なフィーが少ないという業界的な特徴があります。基本は年度毎での契約が多くて、5〜10年契約ということなどはなかなかないです。社会が地道にやる人にお金を出す仕組みが必要とも感じます。

西川さん:モノを作ることで、社会と社会に出ていく学生を繋いでいくということになります。その際にモチベーションを上げるということは大事ですね。学生に対して普段は鬼のような厳しいんですが、徹底的に詰めていって、成果が出て喜ぶ時は踊るように喜びます。そういう喜びとそこからの自信づけが大事ですね。だから達成感があることが大事だと考えています。

三島さん:日本の学生は立場が低くなりがちですが、子どもではなく対等な大人として、企業と対話していけるようにするというのも大事ですね。

【SGDトーク】今回のまとめ

本当にたくさんの参加者にご視聴いただき、参加者も200名を超える大盛況となりました。質問を寄せてくださった方々もありがとうございました。最後にゲストとモデレーターから一言づつ、まとめの言葉がありました。

石川さん:今回のトークを通じて、時間軸をどう捉え治すのかが重要だと思いました。ゆっくり学ぶというのも良いし、学び足すということも良いなあと。軽やかに学び続ける環境が大事だと思います。レールに沿っていかないといけない学びや、息継ぎ無しという隙間のなさにも疑問を感じます。そういうところが、みどりの教育業界に生かされていくと良いなと思います。

三島さん:今「種をまく人」(1998年, ポール・フライシュマン 著)という本を読んでいるのですが、(種を蒔くように)ひとつひとつのアクション、積み重ねをしていくことが、教育の現場でもできているなあと。西川さんが作る人と人との繋がりづくりによって、教育現場が生まれ続けていることを感じました。

小松さん:私自身E &Gアカデミーで教育事業に携わってきて、本当にいろんな苦労や喜びがあるんですよね。今日の西川先生のお話から、何十倍もそういうものがあるんだろうなと思いました。これから公共工事が縮小していく日本で、園芸・エクステリアの人手は減っていく中で、本当の豊かさとは?幸せとは?を考えると、やっていないことだらけです。これからはE&Gアカデミーもエクステリアから、みどりを作る育てる学校として、学生の受け入れをしていけたらと感じています。西川さんともぜひ一緒にコラボレーションしていけたらと感じています。

西川さん:当初のテーマにあるような愚痴というよりは、前向きな話をする会になりました。周りの人と一緒に業界を盛り上げていくことが大事で、時には自分に足りないものを「他力本願」で他人に頼るということも大事です。福岡と東京のつながりもここで生まれましたので、また呼んでいただけたら嬉しいです。

【SGDトーク】 プロフィール

ゲストスピーカー

西川 真水(にしかわ まさみ)
西日本短期大学 緑地環境学科 教授
福岡県太宰府市出身
1994年東京農業大学農学部造園学科卒業
1996年同大学修士課程造園学専攻修了
1996年同大学環
境緑地学科副手として勤務。
京都・福岡の民間造園会社を経て,福岡国土建設専門学校専任講師,2009年より西日本短期大学緑地環境学科専任講師。
准教授を経て2016年より同学科教授,2020年から現在まで学科長,二丈キャンパス所長
https://www.nishitan.ac.jp (西日本短期大学)

モデレーター

小松 正幸(こまつ・まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 代表理事
NPO法人ガーデンを考える会理事、NPO法人渋谷・青山景観整備機構理事。
「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデンにおける課題解決を目指している。
https://www.rikcorp.jp/

三島 由樹(みしま・よしき)
株式会社フォルク 代表取締役
一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会 理事
一般社団法人シモキタ園藝部共同代表理事
ランドスケープデザイナー ハーバード大学大学院デザインスクール、マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院都市工学専攻助教の職を経て、2015年株式会社フォルクを設立。 ランドスケープデザイナーとして全国の様々な地域における文化と環境の資源をベースにした場やコモンズのリサーチ・デザイン・運営を行う。季刊「庭NIWA」にて「庭と園藝-社会とコモンズのデザイン論-」を連載中。
https://www.f-o-l-k.jp/

石川由佳子(いしかわ・ゆかこ)
一般社団法人 for Cities 共同代表理事
アーバン・エクスペリエンス・デザイナー
「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、様々な人生背景を持った人たちと共に、市民参加型の都市介入活動を行う。(株)ベネッセコーポレーション、(株)ロフトワークを経て独立、一般社団法人for Citiesを立ち上げ。「都市体験の編集」をテーマに、場のデザインプロジェクトを、渋谷、池袋、アムステルダムなど複数都市で手がける。学びの場づくりをテーマに、アーバニストのための学びの場「Urbanist School」、子供たちを対象にした都市探求のワークショップ「City Exploration」を実施。最近では、渋谷区のササハタハツプロジェクトにて街路樹のオンラインデータマップ化を目指す「Dear Tree Project」を立ち上げ、都市のみどりづくりにも携わる。
https://linktr.ee/YukakoIshikawa

(執筆:稲村 行真)

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