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伝説の秘宝 第3話

Sゲームブッカー


 君が子犬の方に戻ると、尻尾を振って近づいてくる。君が無事に戻ってきて喜んでいるようだ。

 道はやがて右に折れる。君は道を曲がり、西へ続く道を進む。

 左へ曲がる、つまり南へ続く道がなかなか現れず、西へ進み続けていることに君が焦りを感じ始めていたとき、一軒の小さな家の前で手招きをしている女性がいることに気づく。何か用だろうか。

 そう思って近づいていくと、それは頭が白蛇、体が白い着物を着た白い肌の女だった! 妖怪白ヘビ女だ! しかも、その家の周りには草木がうっそうと生い茂っており、実に気味が悪い。ふと子犬を見ると、怖がるような様子もなく、ただ君の顔を見返している。

 用があるのならとさらに近づいていくと、白ヘビ女の蛇の顔が喜びの表情に変わったように見えた。

「あなたはもしかしたら救世主様ではないですか?」

 君は白髪頭の老婆にそう言われたと答える。

「やはりそうでしたか! それでは、私が知っていることをお伝えします」

 白ヘビ女はそう言うと話し始める。

「私の知っていること、それは、南方の神様の一人は救世主の前に子犬の姿で現れ、旅の安全を見守りながら共に歩むと伝説にある、ということです」

 そう言うと、白ヘビ女は家の周囲にうっそうと生い茂る草木の間へと姿を消していく。

 妖怪の言うことだ。そう簡単に信じてもよいものだろうか。だが、あの白ヘビ女は悪い妖怪には見えなかった。君は子犬の前に座り込む。

「もしかしたら、君は神様なのかい?」

 君がそう言った瞬間、子犬の体が突然煙のようなものに包まれる! 立ち上がり、何が起ころうとしているのだろうと見つめる君の前で煙が晴れ、優しげな笑みをたたえた天女のような姿の美しい女性が姿を現す! 

「私は南方の神の一人、クーリパトラ。あなたは小さな生き物に親身で慈悲深く、献身的に尽くす優しさがあります。それは秘宝を扱うために一番必要な要素。私の守っているこの秘宝、黄金鳩の小像を授けるに相応しい唯一の人です」

 君は子犬の正体が美しい女性で、神様の一人だったことに酷く驚きつつも差し出された黄金に輝く小像の秘宝を有難く受け取り、お礼を言う。そしてうつむき、思わず涙をこぼしてしまう。それは、神様から言われたこと、秘宝を授けられたことの嬉しさからではなかった。密かに家で飼い、これからの人生をともに楽しく生きていこうと決めていた子犬との永遠の別れを悲しんでだった。

 ふと顔を上げ、クーリパトラの顔を見て君はハッとする。もらい泣きなのか、クーリパトラも涙をこぼしていたからだった!
「短い間でしたが、あなたと旅ができて本当に楽しかった。あのとき食べさせてもらったウインナーと玉子焼き、あれは私が今まで食べた物の中で一番美味しかった」

 君はそれを聞いて、さらに涙をこぼすのだった。クーリパトラは涙を拭き、明るい顔で話し出す。君もつられて涙を拭く。

「これで勇気、強さ、優しさを兼ね備えた救世主によってすべての秘宝が揃いました。それでは、三大秘宝を天にかざしてください。これはあなたにしかできません」

 君はうなずき、両手で3つの秘宝を持ち、言われた通りに天にかざす。するとどうだろう。

 3つの秘宝それぞれが光を放ちながらすごい勢いで東、西、北へと飛んでいく! 君は飛び去って行く秘宝たちを見送る間、南は3人の神様に守られているから大丈夫なのだろうと、そんなことをふと思った。

「人類はあなたのお陰で滅亡の危機から救われました。3つの秘宝から放たれる光線がそれぞれ別の光線とつながり、地球に三角形の強大なバリアを張って脅威を跳ね返してくれます」

 そこまで言うと、また悲しそうな顔に変わる。

「それでは、お別れです。あなたのことは、他の南方の神様2人とともに、いつまでも見守っていますよ」

 微笑むクーリパトラは君に手を振りながら少しずつきらめく光の塊へと変わり、長い筋を残して天に向かって上昇していき、やがて雲の中へと消えていった。君も手を振りながら、長い筋が完全に消えた後もしばらく佇んでいた。

 数日後、子犬だったときのクーリパトラと野宿をした公園にまた行ってみたくなった君は、自転車に乗って家を出た。クーリパトラと別れた後は、妖怪やゾンビを見かけたという話は聞かないし、テレビなどでも報道されておらず、あの老婆に出会う前の平和な日常に戻っている。

 20分ほどで公園に着き、入り口付近に自転車を停めると、大木の方へと向かう。寝床にした下に積もっていた落ち葉はなくなっていた。君は子犬と一緒に寝た辺りに座り込み、あのときのことを思い浮かべる。ふと、背後に気配を感じた気がして振り向く。そこには、あの仙人のような服をまとった老婆が腰に手を当てて立っていた!

「やはりわしが見込んだお人じゃったな。あの日、あんたを一目見たときにわかったんじゃ。三大秘宝を揃えられるのはこの若者しかおらんとね。わしは仙人じゃからな。しかし、見つけるのがもう少し遅かったら……」

 驚きを隠せられない君の前で老婆は話を続ける。

「半年ほど前、わしに神のお告げがあってな。人類滅亡の危機が迫っている。三大秘宝を揃えられる救世主を見つけよ、と。あんたはその危機が去った後もさまざまな困難に遭うに違いない。だが、本物の救世主のあんたなら大丈夫じゃ。それでは、達者で暮らすのじゃ~~」

 腰に当てていた方とは逆の手を君に向かって高々と上げると、老婆はまた煙のように消えた!

 君は老婆が最後に言った言葉を胸に、人類滅亡の危機を救ったのは自分と老婆だけの秘密にして生きていこうと思う君だった。そんな君を、天に輝く3つの星が温かく見守っていた。

END

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