真・三國無双の劉禅を語る【追悼】

声優の松野太紀さんがお亡くなりになったニュースが流れた。金田一、フレッシュプリキュア!、犬夜叉、赤ずきんチャチャ、遊戯王・・知ってる作品は数あれど自分が最も思い入れがあるのは自分が中学生から大学生にかけて最も遊んだゲーム、真・三國無双で故人が演じられていた呉の武将・凌統、そして蜀の2代皇帝・劉禅である。
三國無双の新作にて劉禅が登場するかはまだ判明しておらず、もしかしたら故人の演じる劉禅の声を聞ける機会はまだあるのかもしれない。けれども、今回は三國無双における劉禅を振り返ることで、キャラクターに声という命を吹き込んでくれたことへの感謝と追悼を送りたい。

1.劉禅とは

古代中国、漫画キングダムで描かれている戦国時代の二つくらい後の時代、魏呉蜀があった三国時代の人物で、その時代を元にした三国志演義という小説では前半の主人公である劉備の息子である。223年に父親が亡くなったことで帝位を継ぎ、後半の主人公である諸葛孔明に支えられるも、263年に蜀が魏に滅ぼされると魏に移送されて過ごした。長坂の戦いで蜀の人気武将・趙雲が取り残された赤子の劉禅を抱いて敵中を単騎突破した場面、「蜀が恋しくないですか」と言われ「ここは楽しい、ちっとも寂しくはない」と答えたエピソードが有名である。

主役である劉備が建て、諸葛孔明が仕えた国を滅ぼしたということで、ボンクラ扱いされており、今の中華人民共和国の建国者である毛沢東(三国志好き)が「人民は阿斗になってはならない」と話したなどいわれている。
当然中国の人にも人気はなく、なんでも銅像が作られては壊されているらしい。有名な三国志のif同人小説、反三国志でもなぜか暗殺されていた。

一方、国を17歳で受け継いでから40年保たせていたり、そもそもの歴史書で史家の陳寿は周りの人間に左右される白糸のような王と呼ばれるなど、特段暴君や暗愚扱いはされていなかったりする。(陳寿は蜀生まれなので、昔の君主を贔屓してる可能性はある。)

今回話す三國無双を製作しているコーエーも、シミュレーションゲーム三国志での劉禅の能力値を低く設定しており、たいてい情けない顔で、能力値も統率3武力5知力9政治4で上から読むと3594(さんごくし)とダジャレに使われてるくらいだ。

2.三國無双での劉禅

三国志を題材にしたアクションゲーム、三國無双で劉禅が操作キャラクターとして登場したのは6からだが、存在としては武勲ポイントをもらえたり、長期間無双乱舞が使い放題になるアイテムとして真・三國無双1から、ステージのキャラクターとしての初登場は三國無双3の追加ディスク、3猛将伝からである。
劉禅は史実でも配下であった蜀の武将、姜維の個人ステージの味方ユニットとして登場するが、ボンクラ王はすぐ降伏しようとするので、敵を倒しながら銅鑼を叩いて扉を開け閉めして劉禅の行く手を阻もう、というなんともマヌケなギミックであった。(ステージをクリアしても結局蜀は滅ぶとアナウンスされる)
この頃は上にもある一般の劉禅=暗愚説をそのまま使っていたことが分かるが、旗向きが変わったのは三國無双4からである。

三國無双4の劉禅はまだプレイアブルキャラクターとしては存在しないが、4で星彩という張飛の娘、張皇后がモデルのオリジナル女性武将が操作キャラになったことで、劉禅も「星彩に守られる、情けないが優しい君主」というキャラ付けをされるのである。
張飛の娘は史実で姉妹2人とも劉禅に嫁いでいる。(正確には先に嫁いだ姉の敬哀皇后が亡くなったので、妹の張皇后も劉禅に嫁ぐ)
星彩の最終ステージでは劉禅が彼女を守るために前線に赴くイベントがあったり、エンディングでは強くなるために星彩に訓練をつけられる姿が見られる。星彩というキャラクターがこう作られたことから、劉禅のキャラクターも自ずとこの形になったのである。

その後一新を図って失敗した三國無双5を挟んで、三國無双6では三国志の終わりと最終勝利者である西晋が描かれ、蜀の終わりを描くために劉禅がプレイアブルキャラクターとして登場する。6では暗愚を装う賢王として描かれ、三国の争いをすでに亡くなった英雄たちの思いだけで続けることに嫌気が差している。最後は6の主役ともいえる司馬昭とは意気投合し、最終的に彼に協力し新しい時代へと中華が動く、というストーリーである。(まぁそのあと史実の西晋は八王の乱とか五胡十六国とかとんでもないことになるのだが)

英雄たちが生きている頃には保っていた国も、戦乱が続くなかで腐敗し乱れていく。ならば民を安らがせるためにも力あるものが統一すべき。
キャラクターたちからは(諸葛孔明や上記の星彩を除いて)暗愚であると思われており、特に部下である姜維とは理解されない悲しい主従関係となっている。6猛将伝では、蜀の滅亡後に敵と組み再起をはかるため反乱を起こした彼に自ら止めをさしている。その際の台詞は賛否や好き嫌いはあるかもしれないがインパクトの大きいストーリーであった。

 6でフィーチャーされ過ぎたためか、次の7では存在はするものの出番は少なめ。7は6と異なりifルートが存在し、英雄たちが生き残り蜀が最終勝利するルートもあるためであろう。劉禅は6の彼とは異なる、ポワポワ2代目くんとして存在する。
6ですれ違い、最後は対立した姜維との仲は大改善。なんと劉禅が敵の彼を説得して蜀に招き入れたことになっている。
分かりやすいのが戦場での台詞の変更で、6の姜維から劉禅への称賛台詞が「劉禅様が!?・・いや、私もやらねば!」という感じのものから「さすがは劉禅様です!私も頑張ります!!」というものへ変更となっている。

無双シリーズは実はこうした見た目や声は変わっていないが、キャラクターやストーリーが変わっていたことは何度かあり、声優さんたちも戸惑ったかもしれないがしっかり演じてくださっていた。

現時点でシリーズ最終作となった8では、年代順で描かれるため、やはり蜀の滅亡までが描かれ、今度は勝てない争いに向かう国で星彩に見守られながらも1人苦悩する王としての姿が描かれた。
特に国の滅亡時に希望を失くす自国の民衆にわざとおどけて振る舞い、石を投げつけられるなど一身に憎しみを集めることで彼らを前に進ませようとするエンディングムービーは必見である。
なお8での姜維との仲は、お互いに信頼や敬愛はしているのだが、根の部分で分かりあえていない主従である。

まとめ


三國無双シリーズで描かれる劉禅は、作品によりストーリーに違いがあるため、キャラクターが変化されてきた。
ぶれないのは史実で妻である星彩への思い。暗愚を演じる6も彼女への台詞は彼の本音が漏れていた。一方でピュア君主の7はそんな変わらず、8では唯一自分の本心を見せられる相手としての信頼がある。
それらの違いを含めて劉禅を演じきった松野太紀氏への賛辞と感謝をもって締め括りたい。ご冥福をお祈りします。

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