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フジロック2019備忘録:5

フジロックは終わってしまったが、フジロックはまだ終わってない。

俺はゲートをくぐり、来年の開催日を確認して三国屋までの道を歩いていた。歩きながらマツオカ師匠とU子さんにケミカル・ブラザーズがなぜ心を打つかを一所懸命プレゼンしていた。ハイになるとお喋りになる癖がある。俺は未だに絶好調だった。

腹が減っていたので、途中の土産屋で搾りたてのマンゴージュースやパクチー山盛りのピザなどを仕入れた。こんなものを買ってしまうのはまだハイである証拠だ。前日の雨に打たれてシワシワになった千円札2枚を「濡れちゃっててすみません」と差し出し、俺の苗場での買い物は終わった。後ろに並んだハガちゃんも同じくパクチーピザを買い、店のお姉さんから「もう店をしまうから」とパクチーの束を貰っていた。俺にはくれなかったのに何故!と思ったが、やはり濡れた千円札がダメだったのか。まあいい、どうせハガちゃんが貰ったんだし。ハガちゃんが手に持っているパクチーをむしって食べながら三国屋までの道を歩いた。

明日は7時出発の予定だが、そんな事は関係ない。これからミクニーズのベストアクト会議である。しかし、その前に風呂だ。俺たちは各自めいめい、風呂に向かった。まずは俺とハガちゃん、YELLOWさんだったと思う。三国屋の洗い場にはシャワーが6つあり、1つは壊れていて使えない。YELLOWさんが「そこのが使えないんだよ」と教えてくれた。へえ、ロシアン・ルーレットだな、と思った。幸い洗い場はそれほど混んではいなかった。俺は熱すぎる湯船にプカプカと漬かり、1分と持たずに風呂場を脱出した。入れ替わりでマツオカ師匠がやってきた。洗い場は無人だったが、師匠は見事にハズレのシャワーを引き当てていた。ロシアン・ルーレットなら死んでた。

しかし、悲劇はまだ終わらない。

部屋に戻るとハガちゃんが「タオル間違えちゃったかも」と言い出したのだ。どうやら間違えてマツオカ師匠のタオルを使ってしまったらしい。

「なんかフカフカだった」
「俺のはボロボロのカピカピのやつだったはずだ」
「なんなら今回使ってもう捨てよっかな、ぐらいのタオルだった」

事実なら、大惨事だ。

実はフジロック開催の前週、倉敷の焼鳥屋にて開催されたミクニーズ決起集会でみんなに相談した事がある。「荷物がかさばらないようにスポーツタオルを買ったんすけど、確かに水は吸うけど、全然使った感がないんすよね!」これに一番大きく共感してくれたのがマツオカ師匠、その人だった。俺は師匠の「うなずき」を得て3,000円ぐらいするフッカフカの、だけど超かさばる今治タオルを買ったのだった。スポーツタオルは置いていった。最後に痛い出費ではあったが俺の選択に間違いはなく、風呂上りのフカフカのタオルは一日の疲れを吹き飛ばす、これぞフジロック必携のアイテムであった。

そしてマツオカ師匠も、俺の相談を受けてから熟慮を重ね「ここ一番のタオル」を用意してきたらしい事を聞いていた。その渾身のタオル、最終日を締めくくる大一番のタオルを、なんとハガちゃんに使われてしまったのだ。期待を胸に膨らませて手に取ったフカフカであるはずのタオルが、ボロボロのカピカピだった……!その心境はいかばかりか。これは大事件だ。同じバンドメンバーとは言え、大先輩に対するあまりの仕打ちに、俺とYELLOWさんは笑いを堪えることが出来なかった。ハガちゃんも笑っていた。それは師匠が憮然とした顔で「なんか違うと思った」と言いながら部屋に戻ってくるまで続いた。

その後ミクニーズでベストアクト会議が3時過ぎまで行われたが、タオル・クライシスのインパクトが強すぎて実はよく覚えていない。この4時間後、苗場を出発し13時間の旅が始まるのだった。そこでも数々のドラマが繰り広げられたのだが、次回、涙と感動の最終回。

フジロック2019備忘録:6

#Fujirockfestival2019
#フジロック

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