五つの過去作(15 years ago)

「青からみどりへ、映る。」

伸びる緑のおとをきいた。
ひだりからみぎへ、
ひっかき傷の。
もしそうならば、
それでもそれは、
ちっとも不思議じゃない。
これできみがすっかりわかる。
和音を逢引きに、
リズムの裾で。
ひだりからみぎへ、
だらしなく数を覚えておこう。
すっかり夢中になって、
夜半がおそろしくても、
それは悪じゃない。
ぼくは悪で、
きみもまた、
悪なのだ(そうさせるもの、空中の雲居路で逢おう)。


「七月。(1」

その人は
みずのようなものに写っている
七月をみていた。
来世にのこる後悔を
かいつまんで
ならべかえた
しろいひる。
自転にふさぎこんで
がたん、と
額がはずれたとたん
死よりゆっくりと
静止を上回るはやさで
轟々と
シーンと
尾をひきずるようすで
それはせかいを離脱した。


「死んで目覚めた人」

死んで目覚めた人
ふざけてないで
その踊りをおしえてください。
あなたはもう
棒のようになってしまっているけど
その延焼のいろで
正しいのは一体どこですか。
眠りのたびに
目覚めを思って
起きているのは
いつですか。
あなたは死んで
花びらでいっぱいの棺桶のなかで
ほんの一瞬だけれども
顔をニタつかせて
何かを言いました。
散り色で
ぱあっと明るい
舗装されていない道を
懐かしいと思うのか
ぼくは未来なんてものを信じない。
ぼくは時間を信用しない。
内在する
脱線した時間だけを
不確かな手ごたえと共に
愛する。
死んで目覚めた人
ぼくはどこで踊るべきなのか。


「凝視する紙」

定位、位置がずれて、朗らかに回転するきのう、三枚目で溺れたはずで、橙や赤、濃紺なんかをうすめずに、厚く塗りたくった回覧板、カンバスの匂い、ここで止めてしまった回覧板、玄関前で立ちつくし――ずれた。するどい鋭さで絶壁するページ、内の様子ははかり知れないので、羊を紛れ込まし、ます ます風叫のようだ羊、見分けのつかぬほど厚く塗られた、カンバスのザラザラで匂った、肉、体、の定位、一瞬ばらばらになったのかという具合のずれ、真っ赤なかおが、回覧板に描かれていた。こどもに乗られているブランコ、の上のこども、彼は、または彼女が、頭上のふきだしには一体なんと書いてあるのか、ずれていて、読めないようだ、公園には、たどり着く機会が多くて、テニスやランニング、水泳を、鳥の糞に塗れながらも、慎ましく実しやかにこなせている、人々かおが厚く、真っ赤で読めない、背中に背負ったゴツゴツの壁、漆喰で白いので、回覧板は床に落ちた。


「静物視」

絡まった糸のようなものを丁寧に解いて
――空間は 夏だった
自分ひとりのおそろしさ
夏は くろい影だった

南国の道もまた
ここまで来ていて
その裏側で
家のベランダが
しっとりと悲しみ

静物を追いかけて
それでも髪はのびた
今の時間が洗われ
一切が後退するとき
逆光のなかの
静物

そのとき 手は黒く。

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