入学初日激渋点呼

昨年の自粛期間中、疲れが溜まっていないからか、なかなか眠れない日があった。

あまりにも眠れないので寝るのを諦め、横になりながら、なぜか自分のこれまでの人生を小学生ぐらいから振り返っていた。
小学校高学年の記憶はあっても、小学校低学年のことはほとんど覚えていなかった。

その中でも小学校1年生の頃の記憶はほとんどなく、2つの思い出しか覚えていなかった。

これはその中の1つの思い出で、入学式後の話である。


入学式が終わり、教室にクラスメイト全員が集められ、出席番号順に座る。
その後、担任の先生の挨拶があった。
担任の先生は40代後半ぐらいの女性の先生で、すごく感じの良い先生だった。

怖そうではなかったので、なんとなく安心したことを覚えている。

先生の自己紹介の後、出席番号順に生徒の名前を呼び、点呼をとっていく。

先生が初めて生徒たちの名前を呼ぶということもあり、独特の緊張感があった。

先生「相川さん!」

相川さん「は、はい...」

先生「川村くん!」

川村くん「ハイ!!!」

恥ずかしそうに返事をする女子、元気いっぱいに返事をする男子、様々だった。

僕は米村という名前なので、出席番号が一番最後だった。

先生「山川くん!」

山川くん「はい!」

先生「吉田くん!」

吉田くん「ハ、ハイっ!」

出席番号が一つ前の吉田くんが呼ばれる。

「遂に次は自分の番だ……」と緊張して自分の名前を呼ばれるのを待っていた。


そして先生は「吉村くん!!!」と点呼をとった。






お気付きだろうか。



そう、僕の名字は米村である。


先生は名前を間違えたのだ。

僕はどうしていいか分からず、返事ができなかった。

なぜなら僕の名前は吉村ではなく、米村だからだ。

すると先生は立て続けに「吉村くん!吉村くん!?」と何度も点呼をとった。

確かに先生側に立つと、先生が思う吉村の席にはスポーツ刈りの少年が座っている。


「おい、吉村!なんで返事せえへんねん!」お前みたいなスポーツ刈りが恥ずかしがるな!はよ返事せえ!」と先生は頭の中で思っていただろう。

ただ残念なことに、僕は"ヨネムラ"なのである。

当時 6歳のガキンチョ男子の僕は、知らない人ばかりの教室で「先生すいません、僕の名前は吉村ではなく、米村です!」と言える勇気は持ち合わせていなかった。

今の、卍今年25歳の代卍 の僕なら「いや、先生!吉村じゃなくてヨ・ネ・ム・ラッ!!!いきなり名前間違えとるやないかーい!ほんま勘弁してクレオパトラ☆」とポップにツッコミを入れ、教室中を爆笑の渦に巻き込んでいたことだろう。

どうしていいか分からず戸惑う僕に、遂に手を差し伸べ、助けてくれる人が現れた。



......そう、オカンである。



教室の一番後ろには保護者一同が並んでおり、僕たちを見守っていたのである。

すると僕のオカンが「先生、すいません。吉村ではなく、米村です…!」と言ってくれたのである。

すると先生は申し訳なさそうに、「あ、ごめんなさい!昔受け持ってた生徒で吉村っていう名前の子がいてね!その子がすごい良い子で間違ってしまいました、ほんとごめんなさい!」と言った。

ただシンプルに呼び間違えたのではなく、思っていたよりも先生の私情が挟まっていたので、より何とも言えない気持ちになった。

入学初日で昔先生が受け持っていた“すごく良い子"の吉村君という高いハードルを与えられてしまったのである。

そして先生は改めて「米村くん!」と点呼をとった。

僕は何とも言えない引きつった表情で、元気でも恥ずかしそうでもない絶妙な声量で「はい。」と言った。

大した話でもないのだが、小学1年生の時の僕にとってはとても重大な出来事で、今でも鮮明に覚えているのである。


ところで、ここまでなんとか書いてきたのだが、ひとつだけ読んでくれた方々に対して謝らないといけないことがある。

僕は普段、母親のことをオカンではなく、"お母さん"と呼んでいる。そこだけがフィクションである。ごめんチャイ。どうか許してクレオパトラ⭐︎


読んでくださってありがとうございました!
次も是非読んでください。
オネゲーします。

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