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たとえ家族が崩壊しても子どもをやる気にさせる大切なこと              チャプター5 ステップファミリーの掟:友達でも前妻でも、教育方針に口出ししてはいけない

 前回、子どもを育てるにあたって、褒めることをお勧めした。

 いくつかその理由を挙げたが、英国ならリチャード・ブランソンやジェイミー・オリバー、日本なら孫正義さんのように、大物になっている人物は、親から人格を否定されず、褒められて育った人が少なくないということがある。

 親から批判されて育った人は、たとえ頭が良くても、一生、自信が持てずに、格闘し続ける(親から否定されて育った人で大成した人がいたら、ぜひ教えてほしい)。

 適切に褒めることと甘やかすこととは違う。私の元夫は息子たちをよく褒めていたが、甘やかしたことはない。

 元夫の家はカントリーサイドにあり、文明の観点から見て実に不便な場所だった。コンピュータゲームもなく、テレビもちゃんと機能していなかった。家にあったのはラジオ。外には歓楽街もなく、自然だけはたっぷりあった。

 これは子どもたちにとっては寧ろ良かった。父親との時間はキャンプ生活に似ていた。一緒に(料理も含めて)体を動かして何かするか、話をするか、本を読むぐらいしかやることがなかったからである。

 甘やかすとは心や頭を使わず、お金だけを使うこと。これをやると、子どもは確実に無能になる。

 どんな些細なことでも「達成」できたら褒めてあげる。そうすると、子どもは親を喜ばせたいと思い、もっと頑張る気になる。

 子どもとはそういうものである(犬も然り)。

 この「適切に褒める」ことを実行していない友達に、相談も受けていないのに、いきなり「あなたの教育は間違っている」とか「もっとこうしろ」とか言い張る気はさらさらない。

 それは「あなた、その服、似合ってないわよ」と言うのと同じだからである。

 自分のスタイルを真正面からダメ出しされたら、誰でも普通は嫌がる。友達関係が壊れるかもしれない。

 これと同じことがステップファミリーにも当てはまる。

 もう20年前になるが、元夫の友人らと皆で一緒にディナーをした。この時、初めて会った友人MのパートナーのDから「ステップファミリーの黄金律を教えてあげるわよ」と言われた。

 このMというのは、彼のオックスフォード時代の学友で、テレビのドキュメンタリー作家だった。

 Mは若い頃、フォトグラファーとしてキャリアをスタートし、南米に憧れ、そこで写真を撮るようになった。彼は知り合った現地の女性と結婚し、何人か子どもをもうけた。

 その後、Mはニューヨークのフォトエージェンシーで働いていた、現在のパートナーDと出会った。

 Dは最初、Mからのアプローチを本気にしていなかったが、数年後、その熱意に押されて英国に移り住んだ。

 Mは南アフリカ出身の白人だった。彼も含めて彼の兄弟は皆、ロンドン北部の高級住宅街に家を持っていた。Mもフラットだけでなく、カントリーサイドに著名な音楽家の邸宅だった家を別荘として購入していた。「Mの一族は、きっと南アでダイヤモンドか金脈でも掘り当てたんだと思う」と元夫は言っていた。

 さて、このDが私に最初に教えたルールとは「(その母親が教育に絡んでいる限り)ステップチルドレンの教育方針に絶対、口出ししちゃダメよ」というものだった。

「たとえどんなことを目撃しても?」と私は問い返した。

「そう、たとえどんなことがあっても」とDは答えた。

 これは実際、なかなか難しいことだった。

 例えば、私の元夫は一番下の息子がまだ小さいうちから、1日3本、アイスクリームを与えていた。

 その子の体の大きさ(小ささ)を思うと、私はあげすぎではないかとハラハラした。

 それでも何も言わなかった。彼の母親がそのことを問題視していなかったからである。

 ステップチルドレンたちの生活の基盤は母親らの家にあった。

 彼女たちが子どもたちにやらせていることに対してクレームをつけようものなら、すぐに元夫のところに苦情が来ただろう。

 元夫の最初の妻Rは、日本でも知られる靴のブランド「クラークス」一族の人だった。元夫は大学を出て間もない頃、ロンドンのアルメイダ劇場の創設者のひとりとなった。元夫の学友が銀行を所有しており、この友人が出資して建てた。英国ではかつて演劇はエリートの文化だった。演劇好きなRが劇場のバーで働くようになって(劇作家や俳優と出会える楽しい仕事だ)、彼女と知り合ったのだ。

 ふたりの子どもをもうけた後、元夫とRは離婚した。

 イングランドとウエールズでは、婚姻の42%が離婚に終わるという数年前の統計がある。英国のカップルの3組に1組は、連れ子と共に生活しているという何年か前の情報もある。

 日本でも3組に1件かそれ未満は離婚し、子連れ再婚も珍しくなくなりつつある(日本のステップファミリー比率についてはコチラを)。

 結婚する人や人口が減っているから、日本で今後、劇的にステップファミリー が増えることはないかもしれない。その一方で、ステップファミリーをやっていく上で、有益な情報はますます必要になってくるだろう。


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