あとがき イギリスは民主主義の実験場


 イギリスのEU離脱が決定した後、フランス人弁護士の友達は「経済的にイギリスは絶対にダメになることが分かっているのに」と呟いた。
 それは国民投票の前のキャンペーンで、残留派が散々言い続けたことだった。それでも結果は離脱への票が上回った。
 コロナ禍で生活が一変し、悲観的になる人たちがいるなか、今までの自分が働き過ぎだったことや無駄が多かったことなどに気づき、逆に喜んでいる人たちもいる。
 イギリスがEUを離脱したいのはこれと同じなのだろう。たとえ一時的に落ちぶれても、彼らは自分の国を、自分自身を取り戻したいのだ。 
 絶望している人たちがいる一方で、新しいイギリスの未来にワクワクしている人たちがいる。彼らが無知というわけではない。多くの経営者や先見の明に長けた人たちが、離脱を支持している。彼らは一見、不利に見える状況下でも可能性を見出し、生き延びてきた経験から、幾らでも道があることを知っている。
 2020年、コロナウィルスの感染拡大を受け、当初、ジョンソン首相は集団免疫政策を発表した。著者は斬新だと思うと同時に、あまり驚かなかった。イギリスは他の国と違うことをやりたがる。ああ、この国らしいなと感じた。イギリスは何でもやってみないと済まない国なのだ。
 イギリスは伝統を維持しながら、そうやって新しいアプローチを選び、痛い目に遭いながらも繁栄し、発展してきた国である。 
 二大政党制についても同様である。政権交代の度に混乱をもたらす。これを国民は必ずしも歓迎しているわけではないが、政権の長期化が良いとは考えない。変化がないことイコール「デモクラシー(民主主義)が機能していない」と考えるのである。
 イギリスが一見、他の国が決して選択しない選択をしているように見えたら、それは彼らが、偉大なるデモクラシーのエクササイズをしていると考えて欲しい。
 サッチャーはまさにこうした政治的・文化的土壌から出現した政治家だ。彼女はデンマークのラース・フォン・トリアー監督の映画のように、いつも賛否両論を巻き起こし、だからこそ様々なことを考えさせてくれた。インスピレーションを与え続けてくれた。
 イギリスという国がこれからどうなっていくのか、希望的観測とともに見つめ続けていきたい。

 2020年5月 

©️2020 Rica Shinobu
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