小松左京

日本SF界の中で、巨匠であり重鎮でもあった小松左京の作品群の中に、「アメリカの壁」という小品が有ります。SFマガジンに掲載された作品ですが、これが本当に「壁」なんだということを知らしめる内容になっていたのには驚きました。

アメリカの孤立を描いたこの作品は、46年も前の作品でありながら、トランプという得体の知れない人物に乗っ取られようとしている今のアメリカを予言していたかのような内容になっています。

舞台はアメリカ全土です。白い霧に覆われたアメリカは、国境線で物理的に完全に包囲されてしまい、そこから出ることができない壁が出現しています。通信までも下界とは途絶してしまうのです。

政治的に苦しい立場になるのは、どこの国で起きることではありますが、アメリカに限って言えば、国力が桁違いに大きので、世界のリーダーシップをとっていると豪語しても、誰も不思議に思いません。

そのアメリカを封じ込めるどんなものも突破できない壁が、轟然と太平洋上に立ち上がってしまい、アメリカは完全に世界から隔絶されてしまうというストーリーだったと記憶しています。

また、超ベストセラーになった「日本沈没」では、今となっては「東日本大震災」とあまりに酷似した地震発生メカニズムに触れている部分では、当時の世界中の地震学者があり得ないとした「複数断層地震の競合」を指摘するなど、その先を見通す目は、まさにSF作者ではなく未来予測学者と冠をいただかせてもよいほどの的確さを誇っています。

そして、のちに映画化されるときに彼が関与した部分に、防災センターのような部屋に映し出される様々な情報は、すべてNEC-9801シリーズの画面でしたが、今なら粗が目立つほどに解像力が低いものですが、それをそれらしく仕上げてしまった職人芸があったのです。

そうした博識のもとに書かれた作品群に、編集者が追い付いていなくて、日本沈没では下巻の最後の方になると、自衛隊のヘリコプターの型式表現がおかしくなっていて、大の小松左京ファンとしては黙っていられなくて、誤植の部分をはがきで3回ほど発行元に指摘したことが有ります。
この本は、当時猛烈に重版を重ねていましたが、それこそ大出版社はすぐに対応していたことについては、なかなかのもんだと感心した覚えが有ります。

小松左京の凄さにもっと触れたくて、某大学での特別講演会に行ったことが有ります。また、NHK教育テレビなどにも出演してる番組についても、見逃すことなくチャンネルを合わせていました。

博識ということは何と魅力のある事かと甚く感じ入ったものです。


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