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<エンタメ批評家★阪 清和>ミュージカル劇評数珠つなぎ

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阪清和が発表したミュージカルに関する劇評をまとめました。ジャニーズ関連のミュージカルはここには収容しません。音楽劇を入れるかどうかは作品ごとに判断します。
いま大きな注目を集める日本のミュージカル。臨場感あふれる数々の劇評をお読みいただき、その魅力を直に… もっと詳しく
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#ソニン

城田優の圧倒的な表現力、小池徹平の深みを増した演技、ソニンのしなやかな躍動感。「キンキ―ブーツ」を続けていく意味…★劇評★【ミュージカル=キンキーブーツ(2022)】

 一昨年2020年7月に急逝した俳優の三浦春馬(享年30歳)が小池徹平と共に2016年、2019年と主演してきたブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」の日本人キャスト版。ドラァグクイーンのローラ役にはオリジナルスタッフによるオーディションを経て、新たに城田優を起用した日本での3回目の上演が連日続いている。新型コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻と不安定さを増した世界に勇気と笑顔を取り戻すことが出来そうなほどの熱気が劇場を包む中、哀しみが癒えないままこの2年間を過ごした春

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子どもたちの小気味の良いダンスや歌の躍動感と、実力派の役者たちの演技が表現する物語軸の確かさが組み合わさり、観る者を圧倒する作品に…★劇評★【ミュージカル=オリバー!(武田真治・ソニン・原慎一郎・小浦一優・鈴木壮麻・浦嶋りんこ・北村岳子・目黒祐樹・越永健太郎・大矢臣出演回)(2021)】

 一人の少年の波乱万丈の日々を通して、英国の階級社会を上から下まで串刺しにしたようなチャールズ・ディケンズの出世作「オリバー・ツイスト」の1960年初演のミュージカル化作品を「レ・ミゼラブル」や「オペラ座の怪人」で知られるキャメロン・マッキントッシュが1977年に生まれ変わらせてリバイバルヒットしたミュージカル「オリバー!」の最新演出版の世界初演がいま日本で上演されていることをご存じだろうか。複雑に入り組んだディケンズの物語の要素をマッキントッシュが得意とする繊細なタッチとい

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この作品には過去と現在がタッグを組んだ未来がある。この経験は竹内涼真の表現者としてのキャリアに大きな収穫となる予感を漂わせている…★劇評★【ミュージカル=17 AGAIN(2021)】

 人生を振り返ってみると、必ず分かれ道があったことに気付く。たとえ信念を持ってその道を選んだのだとしても、あの時、もう一つの道に歩き出していれば、どんな人生を経験していたのだろうと思わず考えてしまうものだ。特に今の自分があまりキラキラしていないと感じていると、余計にそんなことを思ってしまう。タイムトラベルやタイムリープの主人公であれば、ここでその分かれ道の少し前に時空を飛び越え、過去の選択の失敗を正しにいくのがお約束の展開だが、竹内涼真が初舞台に挑んでいるミュージカル「17

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マリーや彼女を取り巻く人物たちの様々な感情の交響曲となって観客のもとに降り注ぐ一大ミュージカルに成長。見どころが多く秀逸な出来上がり…★劇評★【ミュージカル=マリー・アントワネット(花總まり・ソニン・甲斐翔真・小野田龍之介・上山竜治出演回)(2021)】

 波乱万丈な人生だからといって、ミュージカルにすれば必ず面白いという保証はない。しかもこのマリー・アントワネットという女性の人生の場合、なにしろギロチンによる処刑でその人生を終えるのだ。つまりはハッピーエンドの180度逆の幕切れ。それでも観客の心に血なまぐさい思い出ではなく、愛も悲しみも含めた人生の残り香を感じさせなくてはミュージカルとしては成立しない。そこに果敢にも挑んだのが、12年前の東宝と、既に「エリザベート」などで強力タッグを組んでいたミヒャエル・クンツェとシルヴェス

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水樹奈々のポップな感性あふれる歌唱の数々は一音一音を大切にしてきた彼女らしいレベルの高い出来上がりになっていた…★劇評★【ミュージカル=ビューティフル(水樹奈々出演回)(2020)】

 作詞家の夫と共に職業作曲家として数多くのヒットナンバーを生み出した半生の前半分と、独り立ちした後にシンガー・ソングライターとして自らの心情を歌いつづった半生の後ろ半分。そのどちらもがキャロル・キングという存在を作っているのだが彼女の歌はとにかく他のアーティストにカバーされることで知られている。それは曲の上質さや歌いやすさもあるだろうが、なにより彼女の歌う届かぬ思いや幸せへの疑い、心が引きちぎられるような痛み、無償の愛など音楽に散りばめられた様々な感情が普遍的なテーマとしてそ

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初演より深くなった情緒感で多彩な感情がより観客に伝わりやすくなった…★劇評★【ミュージカル=ビューティフル(平原綾香出演回)(2020)】

 キャロル・キングの歌は切ない。アーティストに歌わせるために作った曲も、シンガー・ソングライターとして歌う曲も、届かぬ思いや幸せへの疑い、心が引きちぎられるような痛み、無償の愛など様々な感情が音楽に散りばめられており、私たちの心を複雑な色合いに染めていく。彼女自身の人生もまた、華やかな成功の陰で家族関係では大きな挫折も体験し、ずっと朗らかでいたわけじゃなかった。もちろん楽曲を生み出す過程では喜びと共に苦しみも引き受けることになる。こうした要素があるからだろうか、彼女自身の人生

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華麗で壮絶な人生への痛切なレクイエム…★劇評★【ミュージカル=マリー・アントワネット(花總まり・田代万里生・昆夏美・佐藤隆紀出演回)(2018)】

 どれだけ悪評が残っている人物でも、それが真実のすべてとは限らない。さまざまな観点から彼ら、彼女らを見ていくことは歴史的な人物を理解するためにはとても大切なことだろう。悪魔的な所業をしたわけではないのに、ぜいたくという一点において市民や庶民の怒りを買ってしまったマリー・アントワネットもまたさまざまな誤解の上で私たちが理解していることもあるだろう。今で言う世論操作やフェイクニュースの存在があったと考えてもおかしくない。「エリザベート」「モーツァルト!」などのミュージカルを東宝と

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繊細な歌や演技の表現力はこの作品を単なる歴史絵巻に終わらせず、さらに高い哲学性を秘めたものに昇華させている…★劇評★【ミュージカル=マリー・アントワネット(笹本玲奈・古川雄大・ソニン・佐藤隆紀出演回)(2018)】

 歴史の登場人物の中には、善と悪、どちらか一方からの視点のみで描くことが決してできない人物がいる。本来ならどちらか一方から描けば物語の輪郭がはっきりするし、なんといっても人物像が分かりやすい。現代の人々が認識している方で描けば満足度も高いだろう。しかし現代の人々は人間というものがそんなに簡単な二元論で描き出せるなどとは思わなくなってきているし、どんな人の中にも天使と悪魔が棲んでいることにはみんな気付いている。フランスの王妃マリー・アントワネットの場合、やさしく慈愛に満ちた性格

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