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【なぜ荒れる?】Mリーグと麻雀業界の今後を本気で考えてみた

1. 麻雀界の現在地

① 業界過去最高の盛り上がりを見せる「Mリーグ」

Mリーグ2021シーズンが閉幕した。優勝したサクラナイツの皆様、本当におめでとうございます。クライマックス時には300万人近くが視聴したとのことで、今麻雀界の盛り上がりは過去最高にきているだろう。

② 一方、批判的意見も目に付く

ただ、今の業界の象徴とも言えるMリーグに、SNS上では一部に批判的意見を目にする。中には炎上に近い状況もおき、応援する選手が悲しむ姿に心を痛めたファンの方も少なくないだろう。代表的な批判意見は「弱い」、「真剣勝負ではない」という種のものが多数を占め、中には派生して人格批判に至るものもあった。

Mリーグのおかげで麻雀に興味を持ってくれた新規ファン層が、こういった荒れ具合に嫌気がさして離れてしまっては悲しい。なんか麻雀ってやっぱり怖いね…という印象を持たれてしまっては、業界に明るい未来は無いように思う。

私自身純粋に麻雀を楽しみたい身として、この風潮の背景と構造、そして今後進むべき方向性を考察してみたくなった。そして、健全でさらに魅力ある麻雀業界になることを強く願い、ほんの少しでも役に立てればと今回筆をとってみることにした。

なお、インターネットやSNSの世界はそもそもどの分野でも荒れやすいものではあるが、今回はその中でも特に麻雀業界特有の論点に特化して書いていきたい。

2. 麻雀業界が荒れやすい3つの構造

① 力量の可視性 「ネット雀士 vs プロ雀士」

そもそも麻雀は「プレイの優劣がわかりにくい」という特徴がある。
大谷翔平のメジャーリーグでのMVP獲得や、佐々木朗希の完全試合は誰が聞いても凄い。しかし、麻雀でそのような最高峰のプレイを一般視聴者が認知することは難しい。役満をアガろうが10万点トップをとろうが、強いことの証明に直結しないのが麻雀だ。ましてや、本当に強い人の究極の一打の凄さを理解できるのは、一部の近い雀力を持つ人だけだろう。

よって、麻雀プロは強いのか弱いのか、その答えは「わからない」。結果で測ろうにもプロの公式試合はあまりに少ない。強弱判断にはどうしても主観が入らざるを得ず、客観的根拠を持って明確に示せない難所がある。

一方、膨大な打数をこなせるネット雀士は、大量の結果による客観的な指標で測ることができる。ネット雀士の高段者は、間違いなく「強い」のである。

こうしてプロ以外の方が実力を示しやすいという特徴は、麻雀という競技ならではのものだろう。

② 加速するネット強者の影響力

証明された強さを持つネット強者は、発言の影響力を伴いやすい。麻雀選択の優劣に関する強気な発言ができ、プロを凌駕する影響力を持つ時すらある。

多くの強者は節度ある優劣判断を是々非々で述べており、悪意は感じない。よって本投稿もそういった方々を批判する意図はないことは強調しておきたい。むしろ、実績に裏打ちされた勇気ある発言はリスペクトに値するとすら思う。

しかし、問題は同調する人が次々と生まれる点だ。

顕著な例が、魚谷選手の九蓮事件だ。簡単に経緯を説明すると、魚谷選手は以下の手から7mを切って九蓮宝灯の含みを残した。しかし、何人かの強者がこれは大差で西切リーチが優秀と発言したことを皮切りに、魚谷選手への批判が相次ぎ一時炎上騒ぎとなった。
※同時に擁護する意見も多数あったことは触れておきたい

魚谷選手の牌姿

私の知る強者は全員西切りリーチ優秀と述べているため、ここでは選択の優劣議論はおいておく。ただ、この魚谷選手の選択を批判していた人の一体何割くらいが本当に自信をもって発言していたか疑問に思った。

筆者の雀力は雀魂で雀聖3だ。残念ながら強者とまでは言えないが、中級以上ではあると思う。しかしこの魚谷選手の席に自分が座って選択を迫られるとしたら、正直手が震えてしまうくらい自信がない。そのくらい、強者以外にはそこまで簡単な選択ではなかったように思う。恐らく、心の底から西切リーチが優秀だと確信している人は結構少数ではないかと推測している。

いや、こんなの自信があるぞという方もいるかもしれない。そういう方は、自身の牌譜を強者に見せて同等の選択ミスを指摘されない自信があるだろうか。筆者はとてもじゃないが無い。無いどころかとても見せられないミスを連発している。以下は絶対に見ないで頂きたい。

これが雀聖3の妙手だ!

…恥ずかしくて顔から火が出そうだ。。
サムネイルの森井監督と同じくらい恥ずかしい。
※わからない方はhttps://www.youtube.com/watch?v=m89r4hgAOg4を4:00~ご参照

雀聖3ってこの程度だ。これをMリーガーがやったら炎上どころじゃすまないだろう。実際、Mリーガーにこんなミスをする人はいない。当然選手の中にもレベル差はあるが、全員「やれば簡単に魂天になる」程度のレベルではあると思う。

そのMリーガーの技量を批判していた人達が、全員が同等以上の成績を残す強者かというと、そうは見えない。一部強者の発言を盾にして、そうでもないその他大勢の「自称ガチ勢」のうち悪意ある人が乗っかっているだけではないだろうか。真の強者達は心の中で「同調している人達、本当に分かって言ってる?」と思っているかもしれないが。

※多くのガチ勢は気持ちよく麻雀を楽しんでいて、荒らしに加担している人は一部である点は補足させていただく

➂ ビジネスターゲットとしての魅力度コンフリクト 「ガチ勢 vs エンジョイ勢」

さらに難しい問題は、そのガチ勢は「ビジネスターゲットとして魅力に欠ける」という点だ。

麻雀自体はゲームであるが、麻雀「業界」はビジネスである。よって、収益の見込めるコンテンツから順に市場に投入されるのは当然である。Mリーグがこれだけ大々的なものになったのは、サイバーエージェントと各チームスポンサーがついたからに他ならない。

企業にとってスポンサー費用は当然「広告宣伝費」の位置づけであり、自社ビジネスとのシナジーを狙える運営を行う。広告塔としてふさわしい選手を選考し、効果の最大化できる運営を一番に考えることになるのである。例えばKADOKAWAの書籍購入や、U-NEXT会員加入につなげることが最優先ミッションなのだろう。

その観点で見ると、当然狙うのは多数を占めるセグメントである、いわゆる「エンジョイ勢」になる。先述の「麻雀の可視性の低さ」という要因も相まって、他競技と比較して実力以外の要素を多少重視した方が広告効果が出やすい点は、否定できない事実だと思う。

一方ガチ勢はコンテンツへの要求水準が高い反面、人数規模は少数だ。満足させるコンテンツを作るのは工数が膨大になる割にリターンが小さく、狙うべきターゲットとして選ばれないのだ。

その結果Mリーグは、コンテンツとしてガチ勢の要求水準を満たせない面はあるのだろう。そうしてガチ勢のフラストレーションがまた溜まっていく。

まとめると、
 ・力量を証明しにくいプロに対しネット強者は影響力を持ち、
 ・コンテンツに満足できないガチ勢が、
 ・強者を盾にしてストレス発散している
という構造が、今の麻雀界のSNSの荒れ具合の一因になっているのではないだろうか。

3. ガチ勢も喜ぶ麻雀業界になるには

今麻雀業界はとても盛り上がっているが、ガチ勢が孤立してしまう状況になっているように見える。自分たちの要求水準を満たさないコンテンツに世間が大いに盛り上がっている様には、忸怩たる思いのあることだろう。離れることはできないが満足もできず、批判を述べ続けることになってしまうのも、心情は一定程度は理解できないことはない。

では、何とかガチ勢も喜べる業界にはできないのだろうか。

① ガチ勢人口の拡大

ガチ勢が満足するコンテンツを業界に出させるには、まずそのセグメントがビジネスターゲットとしての魅力を増さなければならない。その観点で、ガチ勢人口拡大の道は避けて通れないだろう。

しかし、私の答えは「それにMリーグが貢献している」ので、「もう少しだけ待ってほしい」だ。

下図をご覧いただきたい。

Mリーグ前後の麻雀人口イメージ図
※略図のため細部異論はご容赦ください

Mリーグに代表される新しい麻雀コンテンツが、麻雀人口の裾野を広げているのは間違いない。「麻雀わからないけど、Mリーグは見てる」という人が現れるほどだ。そしてMリーグから麻雀にのめりこみ、プロの検討配信等にたどりつき、徐々にガチ勢になる人も増えているように感じる。今はまだまだかもしれないが、ガチ勢が拡大してビジネスの魅力が増せば、今後ガチ勢向けコンテンツの増加が期待できるはずだ。

つまり、Mリーグはガチ勢の敵ではなく、将来的にガチ勢仲間を増やす味方だと思って、あと少しだけ批判をこらえてもらうわけにはいかないだろうか。

② 高価格コンテンツの一般化

しかし、構造上ガチ勢がエンジョイ勢を上回る規模になることはない。その点において、必要なのは「高価格コンテンツ」だと考える。ビジネス視点でのターゲットの魅力は「規模×収益性」に分解できる。規模で劣るならば、収益性で魅力的になる必要がある。

多くの業界において構造は同じであり、ガチ勢向けコンテンツは高額になる傾向がある。格闘技業界に例えると、朝倉未来のYou Tubeは無料で見られるが、那須川天心 vs 武尊の最前列チケットは少数だが300万円にものぼるわけだ。これは極端な例として、麻雀業界においても高価格コンテンツが一般的に受入可能な雰囲気を醸成する必要があると考える。そうして「ガチ勢向けコンテンツも儲かる!」という構造が出来上がれば、自然とそこを狙うビジネスは加速する。

現状はむしろガチ勢よりもエンジョイ勢の方が良いものにしっかりお金を払う習慣がついているように見える。Vtuber麻雀配信への止まらないスパチャが良い例だ。これでは、エンジョイ勢向けコンテンツが先に盛り上がるのも無理はない。

つまり、ガチ勢の皆様には、自分たちが満足するコンテンツはどうしても一定のお金がかかることを理解頂くわけにはいかないだろうか。無料で見られるMリーグに対し、皆様が満足できる高度なものを要求するのは少し厳しいように思う。また、少し前の話にはなるが、鈴木たろうプロが元々無料公開していた検討配信のアーカイブを有料メンバーシップ限定に変更した際、コメント欄には批判の言葉が並んだ。しかし、あのレベルのコンテンツはもう少し高額で受け入れられてほしいと思っている。他にも例えば、「新科学する麻雀」クラスのコンテンツは10,000円くらいの価格設定でも良いと思う。実際、今の価格では著者の工数に見合う対価は手に入っていないはずだ。

➂ 技術の可視化

そうしてガチ勢の人口が拡大し、高価格コンテンツが受入可能となったと仮定して、次に必要なのは当然高価格に見合う「さらなるコンテンツのクオリティ向上」だろう。そこで、私の考えるクオリティの方向性は「技術の可視化」である。

麻雀は対人性があり一期一会のゲームであるため、100%の可視化は難しい。ただ、最近登場したNAGAのように、AIが人間の評価を超える日は遠くない。

それを、今季Mリーグで個人的に最も驚嘆した以下の堀慎吾選手の一打を例に考えていきたい。

11月22日 本田のリーチを受けた中、147m待ちでテンパイ
58s待ちを見透かすかのように、安全牌が無い中無筋の2mを切っていく堀選手
堀選手の思考はこちら(https://www.youtube.com/watch?v=RLDGMX5VD6I&t=5950s)をご参考頂きたい。


そこで、放送中に以下のような図が出てきたらいかがだろうか。

AIによる優劣評価例

観戦しながら2m切の選択肢が頭にあった人はほとんどいなかったことだろう。そんな中、もしAIによるシミュレーション結果で2m切が微差優位と示すことができたとしたら、間違いなくガチ勢も唸るほど大いに盛り上がっていただろう。

そして、そういう選択ができる選手がMリーグ並に儲かる対局に出られるようになれば、もっともっと技術特化のガチ勢向けコンテンツが盛り上がっていくように思う。さらに、麻雀AIのビジネスも夢のある分野になれば、精度革新も加速するはずだ。

4. 放送対局の本質

① 本当に技術だけを求めているのか

前章でガチ勢に満足してもらうための方向性について考え、実際そうなればよいと願う。しかし、ガチ勢の皆様にも問い直したいこともある。それは放送対局の本質だ。

Mリーグを初めとする放送対局に何を求めるかは、当然ながら個人差がある。そして、代表的なガチ勢からの批判コメントの例は、「エンタメに寄ってないで技術・実力に特化しろ」という類のものだ。それは真理であると認めつつ、本当にそれだけなのだろうか。

真に技術・実力だけを求めているのであれば、牌譜だけを見れば充足するはずだが、それで満足できるだろうか。そうではなく、生中継で先の結果にハラハラしながら、選手の緊張感のある表情に見入りながら観戦することに、価値を感じてはいないだろうか。つまり、技術以外の人間ドラマや背景ストーリーこそが、放送対局をより魅力的なものにしているのではないだろうか。

② Mリーグは真剣勝負をしていないのか

最後に、たびたび議論になる「Mリーグはエンタメか?真剣勝負か?」という点についても述べておきたい。

肯定派は「真剣勝負だ」と言うし、否定派は「エンタメでしょ」と言う。しかし、この点に関する私のスタンスは「100-0でどちらかに決めようとすること自体ナンセンスだ」である。

事実として、Mリーグは100%真剣勝負集中ではないことを否定はできないだろう。勝敗だけに集中するのであれば、恐らく選ばれていない選手がいるだろうし、選手起用も変わってくるだろう。

しかし、だからと言って真剣勝負をしていないと断ずる批判意見に対しては、私ははっきり反対しておきたい。

先述の通り、麻雀業界はビジネスであり、勝負以外にも求められる要素を満たすために一定制約はあるのだろうと思う。しかし、選手はその制約の中でベストを尽くしているだけだ。

個々人が何にどう感じようが、基本的には自由だ。

しかし、

こういうシーンや

こういうシーンを見て

どうして真剣ではないと言えようか。
そこには制約なんか遥かに凌ぐ、大切なものがある。私はそう思う。


いろんな意見はあると思うが、まだまだ狭い業界において麻雀というコンテンツを愛する気持ちはみな同じ。少しでも平和で楽しい業界であってほしいと強く願うとともに、最高の楽しみを提供してくれているすべての関係者の皆様へ改めて感謝して、締めたいと思う。

長文最後までお読みいただきありがとうございました。




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