まどろみ

まだ少し足りないのです
一体どれだけ眠るのかと問い詰められても
眠れるだけ眠っていたいのです

私を追い掛ける全てを振り切るまで
あの人の命の炎が消えてしまうまで
私はじっと息を潜めて
その日を心待ちにしているのです

黒い服に袖を通しておきましょう
色を間違えてはいけないわ
純粋なあなたには白がいいでしょう
自分はシロだと言い張ったことですし

正しさを言い訳にする人ほど
手が血まみれなことに幼い頃気付きました
あなたは「悪いことなどしてない」と言い
その手には私の血肉が絡み付いていました

私が見た現実は悪夢より残酷で
なのにパステルカラーで彩られて
甘い匂いがしました
あなたの言葉はいつでも泥まみれで
私は耳が汚れるのが嫌でした

母さん、母さんとしか聞こえないのです
あなたの前にいるのは別の女です
人はなんて愚かなんでしょう
他人が何の目論見もなく母親の代わりを
してくれるわけがありません
当の母親でさえ借金取りみたいな有様なのに

絶望しなければなりません
夢は夢のまま終わります
傷は消えたりしません
手当しなければやがて死にます

聖書で殴打されて陥没した頭の穴に
何を詰めたら記憶を戻せるでしょうか
般若心経だけはやめてください
線香の臭いは人を狂わせます

誰かが真っ直ぐに祈ってくれるなら
心の傷は癒えるでしょうか
「祈る以外に何も出来ない」
その絶望の上に儚く咲いて
そよ風に消えてしまう露ほどの祈りが
極わずかな隙間から心に届いたら
もう取り返しなどつかないと思ったことが
ふと洗い流されて涙も出るでしょうか

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?