遺書

ワタナベ君は
直子の遺書を受け取ってしまった
そして彼女は死んだ

私は昨晩たぶん
あなたに遺書を託そうとした
私の代わりにこれを
ある人に渡して欲しいと

あなたはそれを
受け取らなかったけど
叩き落としもしなかったし
見ない振りもしなかった
ただそれを持った私の白い手に
そっと心で触れた

死にたいだけの私の
もう書くものが遺書以外なかった私の
冷たく凍った指先
この冬に勝てない私を
桜を見る気が無い私を
あなたは見つけた

そこに生き延びたあなたがいた
しんしんと痛む孤独を抱いて
それでも生きてきたあなたが
静かに確かにそこにいた

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