埋葬

世界の縁に触れたと思った手で
僕らは時の砂に埋もれてゆく
突然砂浜に空いた穴に落ちたみたいに
一瞬で生き埋めになって
そうして二度と這い上がれなくなる

世界の淵に触れたら
溢れ出して全てがこぼれ始める
入れすぎた珈琲みたいに
飲みすぎたアルコールみたいに
僕らを汚してゆく

恋はいつも僕らを
世界の果てまで連れて行ってくれるけど
その後僕らは
世界にどんどん吸い込まれ
引き寄せられ
埋もれて
溺れてゆく
逃れる術は一つもない

予め決められていたように
答えが後ろから降ってくる
脚は勝手に前へと進まされる
長靴の中にまで雨水が入ってくる

恋の終わりを死に設定したかった
彼の気持ちが僕にはわかる
そんな気にさせられている
犯された記憶から逃げることはできない
どんな美しいものも
どんな甘いものも
欠落を埋め合わせることはない

一人でもがくことが怖くて
誰かをいつも道連れにしようとして
しかしなるべく罪を避けようとする
その滑稽さを自分で嗤いながら
僕は今日もそぞろ歩く
そうさ全ては僕の
僕一人の体の中で踊るだけのこころ

頭を打って忘れてしまえば
世界から永久に消え去ってしまう
それっぽっちの苦悩を
石板にでも刻み付けようというのか
ああそうだ

夜明け
カラスがセミを
横断歩道の真ん中で食べていた
僕は誰に
誰に食べられて死んだのだろう

絆というのは
中が空洞になっていて
そこから毒が
毒が流れ込む仕組みになっている
あるいはそれは
首を絞めるために使われる
轡を繋いでおくために使われる

僕は紐で縛られ
ぶら下がったみのむしのようなものさ
朝陽と夕陽だけを愛し
日中は業火に焼かれながら
羽ばたけぬ羽根で飛び
支えられぬ脚で立ち
伸ばせぬ腕で抱きしめることを
夢見ながら

手を繋いで死んだとて
ぐちゃぐちゃに混ざり合うのは肉までで
骨は交わらずに朽ちる
いずれ全ての紐は切られ
僕らはそれぞれてんでバラバラに
宇宙へと打ち上げられる
そうさ新しい夢の島
ゴミ捨て場は無限の宇宙

満たされるのと
埋め尽くされるのと
どちらが速いか
僕の命は決して
見届けることはない

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