手遅れ

欲しかったのは
抱擁だったと思う
然るべき時に
然るべき温度の
普遍の言葉とセットで
一生変わることのない
絶対的な安心の記憶
受容の獲得

しかし今となっては
もうどんな抱擁も
どんな言葉も
僕の喪失を埋め合わせることは出来ない
鍵穴はドアごと吹っ飛び
瓦は飴のように溶けて消えた

手遅れの大地にたたずむ
人は果てしなく愚かだ
殺しの能力を殺しで証明した後で
人道だの和平だの嘯いて

破壊が不可逆なら
不可逆の再生が欲しい
決して侵犯されない聖域を
決して剥奪されない聖域を
この命に与えてくれ

誰か
誰か

神よ

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