畔道にて②

「君ってさ」
「あ?」
「どうしていつも墓穴にはまってるの?」
「俺に聞く?」
「どうしていつもせっせと墓穴掘ってるの?」
「だから俺に聞く?」
「どうせ掘るなら、井戸でも掘れば?」
「今時井戸かよ」

「あのさ」
「何」
「君、悪くないよ」
「いきなり何」
「ヘタレでロクデナシなところ」
「けなしてんだろ」
「ううん」
「褒めてないだろ」
「褒めてはないけど。責めてもないよ」
「いや責めてるでしょ。どう考えても」
「ヘタレでロクデナシで、いいんじゃないの」
「典型的ダメ男の特徴を肯定してどーすんの」
「自己言及のパラドックス」
「それ厳密には当てはまらないんじゃないの?」
「そう?バカだからわかんない」
「君バカのフリ上手くないから」
「嘘よ、完璧だもん」
「相変わらずだね」

「好きよ」
「知ってるけどさ」
「言わないで欲しかった?」
「まあ、そうだな」
「言って欲しかった?」
「ちょっとな」
「返事はくれないの?」
「だから俺にロクデナシなことさせるなって」
「ロクデナシなんだからしょうがないんじゃない?」
「君だけは傷つけたくない」
「そうやって甘いフリして距離置かれるのが、傷つく」
「ダブルバインドで追い詰めるなって」
「距離を詰めることで傷ついたりしない」
「それ、本当にそうだって言い切れる?」
「…わかんない」
「無理すんなって」
「わかった。じゃ、距離置こう。でもって、今まで通り私一人で傷ついてのたうち回るわ。さよなら」
「ちょっと待てって」
「逃げれば追う」
「弄ぶなよ」
「遊びじゃない」
「俺も遊ぶ気なんかないよ」
「弥勒、欲望を肯定しろ」
「困ると漫画のセリフ出すよね」
「名言じゃん」
「まあ、印象に残ったなあ」

「あなたが」
「ん?」
「虚勢の裏でどうしようもないロクデナシでヘタレで臆病者で嘘つきだって知ってる」
「まあ付き合い長いもんなあ」
「だから何なの?」
「だから何だろうね」
「ずっとそのままでいるつもり?そのまま進むつもり?」
「人はそう簡単には変われないんだよ」
「変わって欲しいわけじゃな…」
「うん」
「もういい」
「気が済んだ?」
「済むわけないじゃん。バカ。意地悪。ロクデナシ。サイテー」
「反論しないよ」
「ずっとそのままでいて、ずっと私のこと傷つけながら、ずっと知らんぷり続けるつもりなら、私もうこれ以上…」
「君が必要なんだよ。大切で、好きなんだよ。どうしようもなく。だから、近づけないんだよ。でも、どこにも行かないで」
「それこそダブルバインド…」
「…本当だね、ごめん」
「どこにも行くつもりなんかないよ。でもこのままじゃ壊れそうなのよ」
「…そんなに、つらかった?」
「そうよ、ずっと。もう、ずっと」
「俺、本当にダメなんだな」
「そうよ、現状既に私に対してすっごく酷いよ」
「…ごめん」
「甘えたり、試したりするなら、正攻法使ってよ。甘えていいから、いくらでも試していいから」
「君が壊れるまで?」
「私の逃げ道はあなたが全部塞いじゃったんだもん」
「困ったな」
「自分で蒔いた種」
「そうだね」
「現実を見てよ。私を見てよ。ちゃんと。もう限界なの。このままでいるの」
「君はいつも、腹を切るよねぇ。だから、怖い」
「知ってるくせに。でもあなたにはそうしてこなかった」
「うん」
「怖くない人なんている?傷つけたり、傷つけられたり、痛いの当たり前で、それ避けて生きられない。私あなたが怖い。好きだから怖い、それで間違ってないよ…」
「俺は怖いのも痛いのも嫌なんだわ」
「…わかった。もう言わない。か、帰る」
「そっち駅じゃないだろ。もう終電ないだろ」
「わかってるよ。さっき帰ろうとした時が最終だよ。わかってたでしょ」
「まあ、そうだな」
「…歩いて、帰る、さよなら」
「君より、その辺の森にいる幽霊とか妖怪が怖いから、ちょっと歩くけど、俺の家おいで」
「言い訳ばっかり」

「寂しいのよ、あなたといると」
「うん」
「あなた、寂しそうなのに、二人でいても、一人でいるばかり。それで私が寂しいのもわかってるくせに、だから、お互い二人分寂しいだけ。不毛じゃない?」
「中島みゆきだなあ。俺、寂しそう?」
「そうよ、すごく」
「…君に会えないと、どうしようもなく、寂しい時がある」
「私も、そうよ」
「やっと気が合ったなあ」
「どうしようもないね、私達」
「ほんとそうだなあ」

「ねぇ、あったかい」
「うん」
「ずっと、寂しかったのよ」
「ごめん。俺も」
「…」
「ほら、やっぱり、泣かせちゃった。ごめん」
「悲しくて泣いてるんじゃなくて……ほっとしたの」
「……」
「あなたも泣いてる」
「言うなよ。黙ってろよ」
「うん…」

「本当はさ」
「何?」
「君が痺れを切らすのを待ってたんだ」
「嘘。ほんと?」
「ほんと」
「…まさか…」
「だって君こそ、追えば逃げるし、押し切るとパニクって自爆テロするし、どうしようもないじゃん。小鳥みたい」
「…こっ、こんな長い間、罠貼ってたの?」
「人聞きが悪いなあ」
「か、帰る!森に帰る!!」
「だから待てって」

「目玉焼きでいい?」
「…うん……」

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