バーにて⑫

「個人主義の国で生まれ育った人間はさ」
「おう」
「相手の背景にほぼ興味を持たないんじゃないか?」
「半端な個人主義だな」
「まあそうだな。ワンサイドだ」
「それで?」
「つまりお前が理解を要求することそのものがナンセンスかつ限りなく不毛なんじゃないか」
「そもそも相手に理解への動機がないから?」
「まあそういうことだな」
「孤独じゃね?」
「孤独じゃなくなれるとでも思ってたのか?」
「……あぁ、俺が夢を見すぎだと」
「そこまで言わないけどさ…無理そうなら一旦は無理と諦めるのもお互いのためじゃないのか」
「寂しいじゃないか」
「寂しくない関係なんかないさ。まあたまに俺と飲んでやり過ごしたりしながらさ」
「お前は俺に理解して欲しくないの」
「さあ…考えたこともないなぁ」

「トライアンドエラー…」
「そうそう、ほんとは躓いただけなのに、お前いつも派手に転ぶんだよ。新幹線みたいな奴だな」
「……悪いかよ」
「悪かないけどさ、人間の速さで走ることもたまにはいんじゃね?」
「一晩に二杯しか飲まないとか?」
「そう、俺みたいにな」
「酒弱いだけじゃねーか」
「遺伝子にはお手上げだよ」

「お前は何主義者なの」
「ん?うーん、合理主義者?」
「どの辺が?」
「俺は俺の好奇心を満たし続けるために最も合理的で最短距離だと思う選択をしている、つもりだ」
「なるほど…好奇心」
「そう、俺の欲求は好奇心に著しく偏っている」
「俺に興味あるの?」
「それはもちろん。恋人よりお前の方が面白いよ(笑)」
「それ彼女に言うなよ、絶対言うなよ」
「言って彼女がどう出るかにはいささか興味があるけどな」
「試すなよ、絶対試すなよ」
「お前良い奴だなあ。だから面白いんだよ」
「褒められた気がしねーな」

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