二等船室の毛布

失望という言葉が
今私の心に突き刺さっているのが見える
誰が刺したのか
無数のナイフや杭や針には
持ち主の名札が付いている

母さんが刺したマチ針の一群は
中枢に集中し
父さんが刺した五本の焼き串は
その周りを囲むように配置されてる
兄さんが投げた玩具の手裏剣と
割れたフラスコの破片は
一番太い血管を切断したまま根を生やし
まだ誇らしげに輝いている

一番最近耳から入ってきたそれは
夢を見るための部位に刺さった
痛みで現実に戻ったら
正しさの剣が首筋に当てられていた

解離の壁を越えて中に入ったら
そこは屠殺場
光を知らぬ幾千のブロイラーの瞳
無数の私の死体とも呼べぬ肉塊が
天井からぶら下がる冷凍庫
私はそこから肉を持ち出し
料理してテーブルに出していた

失望の向こうに
希望を期待していた
身勝手なその願いに私が応えるなら
そこに光があるのではと
無邪気に夢見た

こんな寒い無機質な扉の内側で


「それは罠だよ」彼は言う
勝てないゲームに
イカサマのリングに
上がることはないのだと
私を闘技場から連れ出した
手を引かれ
振り返った私の涙は
すぐに凍ってカランと音を立てた

でもあの向こうに
歓声の向こうに
勝利の暁に
愛が
ねぇ愛が
あるのではないの?

「違う愛はここにある」
私の手をぎゅっと握り彼が言う
「ここにしかない」
私の拳を両手で包んで
繰り返し言い聞かせる
「生きていける」
そんなの無理だって言葉は
熱い涙に変わって雨が降り始めた

「シェルターへ行こう」彼は言う
小鳥がいる
畑がある
空と海がある
泳いで飛んで踊って
君は君になるのだと

「手を離さないで」私は言う
「命に懸けて」彼は言う
二等船室の隅で私はようやく
浅い眠りについた

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