バーにて⑦

「何で文豪って皆不倫するのかなあ」
「皆じゃないと思うけど…リアリティのあるネタ作りのため?不倫モノってウケが良いからね。人は禁忌を求めるものだよ」
「なるほど…」
「で、何で急にそんなこと聞くの?」
「吉本ばななの読み過ぎで」
「ああ。白河夜船とかね」
「そうそう。でもさあ、あんな礼儀正しい男なんているのかな?」
「それこそリアリティの問題じゃない?文字に起こして活字で印刷されてると礼儀正しく感じるけど、実際ああいうことする奴がいたら、結構えげつないものがありそうだけどなあ」
「あー、そうなのかもね」
「ばななの映画、いくつか見ようとしたことあるけど、間が悪すぎてギブした。あれは活字だから良いんだよな~」
「なるほどそうかもね~。私も映画はダメだった」
「ね」
「そうすると吉本ばななは本当に作家なんだな~。映像化できない良さがあるわけだもんね」
「そうだなー。監督がダメって可能性もあるけど…。んー。アレンジしても新しい魅力を生むような作品ってのも、強い作家性があるんでない?たとえば、漫画だけど進撃とか」
「ああ、確かに。あれはストーリー性がスルメ」
「な。ばなな作品は骨組みは凡庸と言えば凡庸だからな。そこを文字でしか出ない繊細さで魅せているところは確かにすごい」
「ふむふむ、なるほどなー」

「ねぇ、『太宰』ってカクテルがあるとしたらどんな味かなあ」
「うーん、甘くはないかもな」
「でもしかしあれだけ美人と心中して…心中未遂繰り返して、きっと甘い言葉がすごいんだよ。きっと『人間失格』を遙かに超えるレベルの甘い言葉なんだよ」
「意味わかんないけど、太宰が一体どうやって婦人達の心を射止めていたのかは気になるな」
「だよね~私も知りたい」
「女性でモテる人って作家にならなさそうだよな」
「ああ…そうだね。まず作家になる必要ないし、女流って敬遠されそう…。でも綿矢りさはかわいい~」
「かわいいけどさ、太宰みたいにゃモテないよ」
「モテの基準太宰にすんのやめてよ」

「女って、数が勝負じゃないからな。モテてどうするってもんでしょ」
「それ言わないでよー、悲しくなる。それに昨今くくりは男女の二つだけではないぞ」
「何で悲しいの?」
「さあ…何でかなあ。きっと、太宰が心中成功しちゃって、スガシカオが結婚して、宇多田ヒカルが離婚したから」
「自分のコトで悩めよ」
「…顔だけでモテたい」
「どうした。自分の遺伝子に不満か」
「後輩にものっすごい美人がいる。本当に美人」
「まあそりゃいるだろうな」
「逆立ちしても一生敵わない。そういうの悔しい。『偏差値70』と呼ばれてる」
「美の基準は一定じゃないとは思うが、まあ俺も『コイツにゃ負ける』ってカオの男はいるな」
「そういう時どうするの?」
「そいつの彼女落とす…ってのは冗談で、んー、しょうがない。家に帰って太宰読んでパックして寝る」
「パックするの?!」
「たまにな。ふと試してみたら思いの外よかったもんで」
「君は意外性に満ちた男だなあ」
「冗談だよ。ホント騙されやすいね」
「…きらい。もう一杯奢って」
「いいよ。何にする?」
「…『太宰』」
「…マスター、ホワイトルシアンください」
「はいよー」

「それ何?」
「甘くて美味しいやつ」
「そう」
「帰りにコンビニでパック買ってあげるよ」
「いらないよう」
「じゃ、俺使ってみようっと」
「何、ホントに試してみたかったの?」
「実はそうなんだ」
「コレ美味しい」

⑥を上げる前に⑦を書いてしまって、なんとなくこちらを先に。
白河夜船好きなんです。

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