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ひとりでいることが孤独なのではない ~STU48・池田裕楽『気にならない孤独』~

この曲が48グループの楽曲であると言っても、知らない人にはにわかには信じてもらえないかもしれませんね。
そのくらい、48グループの楽曲らしからぬ曲。

第3回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦で優勝して獲得した池田裕楽のオリジナルソロ曲であり、どこか郷愁を誘うミディアムバラードの曲。

古い図書館の窓辺
レース揺れる日差し
ここで本を開いていれば
気にならない孤独

という歌い出しのシーンは、池田裕楽が小学生の頃、図書室でひとり本ばかり読んでいたというエピソードをモチーフにしている。
秋元Pは、彼女のこのエピソードをヒントに、この曲のストーリーを展開していったのでしょう。

歌詞のラストは

今まで気づかなかった

というフレーズで締めくくられているのですけれども、いったいこの曲の主人公は、何に気づかなかったのでしょうか?

歌詞の内容としては、「孤独」をテーマにしてはいるのだけれども、受け取りようによっては「愛」がテーマにもなるし、ある種の「友情」をテーマにしているようにも解釈できる。
図書館でひとりで本を読んでいる「僕」と、その隣の席に来て同じようにひとりで本を読んでいる「君」との間で展開される、ほとんど会話のない静かなストーリー。
しかもそのストーリーは、図書館の片隅だけで完結している。

この「僕」は、他人とのコミュニケーションが相当に苦手だったのでしょうね。
1番のBメロには

誰とも話したくなかった
だって僕はつまらない人間
退屈だって言われるよりも
友達はいらないって思ってた

とありますし、2番のBメロにも

あんなに他人が面倒で
どんな風に接すればいいか
いつも悩んでぎこちなかった
硬い殻 壊してくれたんだ

とありますから。
なるべく他人とは関わらないようにして、自分の殻の中に閉じこもっていたということなのでしょう。

けれども、「僕」のそんな硬い殻を破ってくれたのが、「君」だったわけです。
「僕」のことを避けるでもなく、気づいたらいつの間にか隣の席に座っている。
そして、交わす会話は、
君「ここにいちゃ迷惑?」
僕「別に」
という……。

おそらく、2人ともお互いに似たもの同士だということを感じ取っていたのでしょう。
特に会話を弾ませるでもなく、お互いに余計な干渉をするでもなく、ただ隣の席に座って、それぞれが勝手に本を読んでいる。
その状況が、この2人にとっては、とても居心地が良かったのでしょう。
サビの歌詞には、次のようにありますから。

特別な空気感のような
ここに流れる時間が
好きなのって言われた
なんだか気が楽になった

そして、Cメロの歌詞

一人きりだって思い込んでたけど
まわりをよく見れば みんな“ぼっち”ばかり
君から教えられたこと

ここからわかることは、実は「僕」は決してひとりぼっちの孤独などではなかったということ。
「僕」と「君」とは、一言二言しか言葉を交わさなくても、お互いに気持ちが通い合っている。
今まで気づかなかったことというのは、そういうことなのではありませんかね。

引用:秋元康 作詞, STU48・池田裕楽 「気にならない孤独」 (2021年)


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