重荷を背負う覚悟 ~STU48『愛の重さ』~
この曲は、STU48の1stアルバム「懐かしい明日」のリード曲となっている曲です。
STUは、これまでセンターを務めることの多かった滝野由美子をはじめ、グループを牽引してきたメンバーたちが次々に卒業してしまったことによって、大きな転換期を迎えることになりました。
この楽曲の選抜の顔ぶれを見ても、前作シングルまでの選抜の顔ぶれとはかなり様変わりしています。
つまり、今まで先輩たちの背中を追う立場てあったメンバーが、これからは自分たちでこのグループを引っ張っていかなければならなくなったということになるわけです。
この曲を普通に聴くと、やや重めのラブソングといったところなのですけれども、歌詞を裏読みしてみますと、この先STUを牽引していくべきメンバーたちへの秋元Pからのメッセージが込められているようにも受け取れます。
モチーフやコンセプトは異なりますけれども、グループの今後を担っていくメンバーたちに覚悟を求めているという意味では、NGT48の8thシングル「渡り鳥たちに空は見えない」と似通った印象を受けました。
1番Aメロ
風に舞い落ちる葉っぱを比喩に用いていますけれども、これは自分自身のことを指しているのでしょう。
その存在の軽さと不安定さ。
自分の存在意義に疑問を投げかけているのではありませんかね。
[裏読み解釈]
頑張っているのに報われない、選抜にもなかなか入れない。
そんな状況に置かれていると、自分はこのグループに必要とされているのだろうかとか、このグループにいる意味はあるのだろうかとか、いろいろとネガティブなことを考えてしまうメンバーも現れてきますよね。
そうしたメンバーたちの不安と焦燥の様子を喩えているのかもしれません。
1番A'メロ
地球に引力がなければ、葉っぱは舞い落ちることはなく、ただ漂い続けるだけになってしまう。
葉っぱは木の枝に付いているときには日差しを浴びているけれども、枝から離れて地面に落ちると日陰に隠れてしまうこともありますよね。
つまり日差しも日陰も経験できるのは地球に引力があればこそということになります。
「日差しの眩(まぶ)しさ」は喜びを、「日陰の切なさ」は悲しみを表す比喩であるとするならば、この「僕」がそうした感情の機微を知ることができるのは、「君」への愛があったればこそということになるのでしょうか。
つまりここで言っている地球の引力というのは、「君」への愛のことを指しているのではありませんかね。
[裏読み解釈]
メンバーたちは、自分の青春を、はたまた自分の人生を懸けるつもりでグループに加入してきているわけです。
それだけに、なかなか思うようにいかないときにはひどく落ち込んだりもするでしょうし、逆に自分の頑張りが報われれば大いに喜びもする。
それは思いの強さの表れでもあるわけです。
その思いとは、アイドルとして生きていくという覚悟でもあり、グループに貢献したいというグループへの愛であったり、応援してくれているファンの人たちに報いたいというファンへの愛であったりもするわけです。
1番Bメロ
独りよがりに自分の理想像を相手に投影してしまう。
そしてその理想と目の前にいる相手との間にズレを感じると、その相手に自分の理想を押し付けようとする。
こうなってくると、それはもう愛でもなんでもなくて、相手の独立した人格を認めず、自分の支配下に置きたいだけということになってしまう。
ドルオタの中にも、そういった類の人たちが少なからずいますよね、
自分の勝手な理想を押し付けて、それに従わせようとする人たち……。
自分の理想を押し付けるのではなく、あるがままの相手をそのまま受け入れるのが愛というものなのではありませんかね。
どうしても受け入れられないと言うのであれば、黙って離れていけば良いのです。
さて、ここの歌詞では、今まで「君」に対して自分の勝手な理想像を思い描いていて、「君」のことを深く知ろうともしていなかったということに対して、「僕」が自省の念にかられているということを表しているのでしょう。
[裏読み解釈]
理想と現実とのギャップということで言えば、メンバー達もそのことに苦悩することが多いのではありませんかね。
思い描いていた理想と目の前にある現実との間にある隔たりの大きさに、愕然としてしまうという……。
1サビ
相手への愛が深まるにつれて、相手の気持ちも理解できるようになってくる。
そして、その相手の気持ちを背負うということが、どれほど大変なことなのか、身に染みて感じるようになるわけです。
「まるで 世界 担(かつ)ぐような重さ」というのは、これまでは愛を軽く考えていたこの「僕」にしてみれば、想像を絶する重さだったということなのでしょう。
[裏読み解釈]
STUの次代を担うメンバーたちは、今までは先輩たちの背中を追うだけで、自分自身のことを精一杯やっていれば良かった。
けれども、グループを引っ張ってきたそうした先輩たちが次々と卒業してしまい、気が付いたら自分たちがグループを引っ張っていかなければならない立場になっていた。
そのときになって初めて気づくわけです。
先輩たちがこれまで背負ってきたものの重さに。
2番Aメロ
本気で人を愛したら、その相手のために全力を尽くして何でもしてあげたいという強い衝動に駆られるものです。
ここでは、「君」を愛するがゆえに「僕」は何でもできる、そう「僕」自身は思っているということを言っているのでしょう。
[裏読み解釈]
グループに所属して活動を続けていくうちに、そのグループに対する愛着も湧いてくるでしょうし、帰属意識も強くなってくる。
さらには、グループ内で何かしら認められたと思えれば、自分のアイデンティティをそこに見出すこともできる。
そうなってくると、自分自身のためにというだけでなく、グループのために何かしたい、何か貢献をしたいという気持ちも強まってきますよね。
2番Bメロ
「君」を守りたいという気持ちが強くなってきたけれども、そのことの責任の重大さに「僕」はたじろいでしまったのでしょう。
何かを守るということは、言うほど容易いことではないのですよね。
守り通せるだけの強さも必要ですし、場合によっては何らかの犠牲を伴うことにもなるかもしれない。
それでも守り抜くという覚悟があるのかということです。
[裏読み解釈]
グループの創立メンバーが、なぜ特別な存在でありうるのかと言うと、何もないところからグループを作り上げていかなければならないという重責を担っているからなのですよね。
グループの方向性といったようなものはプロデュースする側が決めるのでしょう。
けれども、それを体現するのは他ならぬメンバーたちなのです。
メンバーたちがどんなふうに体現するのかによって、グループのイメージや個性は決まってくる。
おそらく、創立メンバーたちはいろいろと試行錯誤したのではないでしょうか。
そして、周りからその存在を認めてもらえるように、ゼロからひとつひとつ実績を積み上げていかなければならない。
そういったことの大変さは、すでに出来上がっているグループに後から加入するのとでは天と地ほどにも差があるわけです。
そんな創立メンバーたちが去り、残されたメンバーたちで、ここまで築き上げられてきたグループを守っていかなければならないとなったとき、その責任の重さに思わずたじろいでしまったとしても不思議ではありませんよね。
2サビ
愛の重さだとか思いの強さだとかいったものは、目に見えるわけでも計測できるわけでもありませんから、確かにどれほどのものであるのかは客観的には判断のしようがありません。
それぞれが心で感じ取るしかない。
それゆえに、「シーソーで言ったら 自分の方に いつも傾いてるはずだって思い込んでいた」とありますように、この主人公は、相手が自分を思っている以上に自分のほうが相手のことを思っていると、独りよがりに思ってしまうということにもなるわけです。
[裏読み解釈]
メンバーたちがアイドルとして存在していられるのは、一義的には、応援し支えてくれるファンがいるからだというのは言うまでもないことでしょう。
もちろんそれ以外にも、裏方で支えてくれるスタッフや、自分たちを起用してくれる地元の企業や地元のメディア、さまざまな形で協力してくれる家族もそう。
そうした多くの関係者たちによって支えられることによって自分たちが活動できているというのは、当人たちも当然理解しているわけです。
ただ当初は、その理解もあくまでも頭で理解しているだけなのですよね。
活動していく中でいろいろな経験を積み、さまざまな人たちと関わることを通じて、実感として理解できるようになるのではないでしょうか。
Cメロ
最初は軽かった「君」への愛が、次第に重いものになっていく。
つまり、「君」への愛が深まっていったということです。
それによって、愛する「君」を守りたい、失いたくないと思うようになり、自分自身が人として成長し、変わっていこうと決意することになったわけです。
この主人公は、相手への愛が深化するにつれて、人を愛するということの責任の重さを痛感するようになり、その責任を背負う覚悟を決めのでしょう。
[裏読み解釈]
引っ張って行ってくれる人たちの背中を追えば良かったときには、それほど責任感というものは感じずに済んだかもしれません。
けれども、いざ自分たちが先頭に立ってグループを引っ張っていかなければならなくなったときに、その責任の重さに戦慄したのではないでしょうか。
今作で初めて単独センターを務める中村舞にしてもしかり、初めて選抜に加わることになったメンバーたちにしてもしかり。
今まで、グループを牽引してきてくれていたメンバーたちが背負ってきたものを、これからは彼女らが背負っていかなければならないのですよね。
守りたいもの、守らなければならないものとは、言うまでもなく先輩たちが築いてきたSTU48というグループになるわけです。
自分たちがアイドルとして拠って立つところでもありますし、多くのファンの人たちのさまざまな夢が託されてもいるわけですから、このグループを失うわけにはいかない。
その重い責任を背負う覚悟が求められているのでしょう。
ラスサビ
1サビの繰り返しになっていますね。
最初は軽く考えていた愛も、相手への理解を深めるにつれて、次第に重く責任のあるものへと変わっていったわけです。
愛の重さを知り、それを受け入れることで、人はより深く相手を愛するようになり、自分自身を成長させることができるようになるということなのでしょう。
[裏読み解釈]
あくまでも勝手な推測に過ぎませんけれども、この曲を通じて、次代を担うメンバーたちに、STU48の未来を背負うという、その覚悟を秋元Pは求めているのではないでしょうか。
引用:秋元康 作詞, STU48 「愛の重さ」(2024年)