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不自由と守護 ~STU48『制服の重さ』~

この曲は、STU48の2ndシングル「風を待つ」のカップリング曲になります。

主人公は、おそらく高校生なのでしょう。
やりたいこともできない不自由な学生生活に息苦しさと不満を抱えている。
その不平不満がこうじて、この主人公は学校をドロップアウト、つまり中途退学してしまったのではないでしょうか。

頭サビ

やりたいことできず不貞腐れてくまで
どんな風に僕は壊れて行くのだろう?

サビ始まりの曲ですね。
のっけから雲行きの怪しい文言が綴られていますけれども……。
学生生活は何かと制約が多くて不自由なもの。
そのため、やりたいことも思うようにできず、不平不満が募ってくる。
ただ、この主人公は、感情に流されて暴発寸前と言うよりも、どこか冷めた目で自分自身を客観視しているところがありますよね。

1番Aメロ

教室の空気は澱(よど)んで
いつかこんな息苦しさ 逃げ出したいって思ってた
ガラス窓 割り続けるより
模範的に立ち振る舞い 恩赦の日を待った

鬱積した不平不満が主人公に教室の空気を重苦しく感じさせているのか、あるいは、主人公だけでなく他の多くのクラスメートも同じような気持ちを抱いていて、そのために息苦しい雰囲気になってしまっているのか……。
いずれにせよ、そんな場所からは逃げ出したくもなりますよね。

反抗心も露わに直接行動に出れば、憂さは晴れるかもしれません。
けれども、この主人公は、表向きは従順に振舞いつつ、ただひたすらガマンして「恩赦の日」すなわち卒業するその日まで待とうとするわけです。
その分、心の内側に不平不満をマグマのようにため込んでしまうことになる。
反抗心からガラス窓を割るなどの行為は、いかにも幼稚に過ぎるけれども、ある意味、素直だと言えるのかもしれませんね。
事の良し悪しはともかくとして。

1番Bメロ

紙っきれの卒業証書なんか
これから先の人生で役に立つものか!

普通に学業を終えて卒業証書を貰ったところで、それがその後の人生においてどれほどの役に立つのかと言われれば、まあ役に立つかどうかはともかくとして、社会的には就職の際などに学歴の差がどうしても影響してきますから、そういったことに頓着とんちゃくしなくても済むような立場を確保できるのであれば、卒業証書など無用と見なしても構わないのかもしれません。
けれども現実的には、社会の中で生きていくうえで、学歴の差によって何かと不利な目に遭う可能性はあるわけです。

この主人公は、そういった先々のことを深く考えるよりも、今いる息苦しい場所からすぐにでも逃げ出したいという気持ちの方が強かったのでしょう。
「卒業証書なんか貰っても何の役にも立ちやしないだろ!」とうそぶくことで、学校からドロップアウトしようとしている自分を正当化しようとしているのではありませんかね。

1サビ

制服がこんなに重たいものだなんて
脱いだ瞬間 今 初めてわかったんだ
羽が生えたように 心 軽くなって 
僕はもうどこへもきっと飛んで行けるよ
それは幸せなようで不幸かもしれない

「制服」というのは、大きくは既存の秩序を表していて、社会的には学生であるということの制約であったり、あるいは学校そのものだったり校則であったりといったような、自由を縛るもののことを指しているわけです。

学生ということで、今まで規則だとか制限だとかに縛られて、やりたいこともできずに不自由をかこってきた身としては、そういった息苦しいものから解放されれば、それはもうそれこそ背中に羽根が生えたかのように気持ちが軽やかになるのではありませんかね。

これからは、行きたいところにも自由に行けるし、やりたいことも存分にやれる。
さぞかし希望に胸を膨らませているかと思いきや、「それは幸せなようで不幸かもしれない」と、この主人公は言っているわけです。
晴れて自由の身になったけれども、それと背中合わせに、とてつもない不安に襲われてしまったのでしょうね。

2番Aメロ

整列を疑わぬ者よ
この世界の理不尽さに なぜ怒りの声上げないのか?
教師から監視されながら
Xデー計画した若さは甘すぎた

主人公の苛立いらだちの矛先が、社会の理不尽な現状に対して何ら疑問を持たずにおとなしく従っている人たち、例えば、この主人公のクラスメートたちに向けられているといったところでしょうか。
ただ、おとなしく従っていると言っても、それは表向きそう振舞っているだけで、心の内側では不平不満が渦巻いている人が多いのではありませんかね。
この主人公と同じように。

「Xデー」というのは、この主人公が学校をドロップアウトする日のことを指しているのでしょう。
ここの部分だけを見ると、計画はしたけれども実行はできなかったともとれるのですけれども、後に続く歌詞を見てみると、どうも実行に移したのではないかと受け取れるのですよね。
つまり、ここで言っているのは、いざ実行はしてみたものの、考えていたほど世の中は甘くはなかったということなのではありませんかね。
実は、少々後悔しているとか……。

2番Bメロ

何もできず 夜明けの空を見上げ
自分の今の能天気さ 思い知ったのさ

自由の身になって何でもできると思っていたけれども、実際には何もできない。
何かをやろうとしても、その力がないということに気づかされたのではありませんかね。
それが現実社会の厳しさというものなのでしょう。
この主人公は、今さらながら、そんなことを思い知らされたわけです。

2サビ

制服に僕らは守られてたなんて
壁のハンガー ふと眺めて気づいたんだ
どんな絶望にも傷つくことのない
多分 夢でできてる鎧を着てたんだろう

「制服」に象徴されているのは、ある特定の集団のルールや秩序。
そして、その集団に所属している限り、そのルールや秩序に従わなければならない。
この主人公には、それが息苦しくてたまらなかったのでしょうけれども、一方で、その集団に所属しているということが、ある種の防護壁にもなっていたのですよね。
周囲も、その集団に所属している人として認識し、それ相応の対応もするでしょうし、所属している当人も、息苦しいと思いながらも、ある特定のコミュニティ(この主人公の場合、学校)の中にいるということの恩恵(同じような仲間がいるとか、大人たちに庇護されているとか)や安心感(アイデンティティーを確認できるとか帰属意識を持てるとか)を得ていたはずです。
解放されてみて、初めてそのことに気づいたのでしょう。

どんなに絶望しようとも夢があれば傷つくことはない。
「制服」とは、もしかしたら、そんな「夢」でできた鎧なのかもしれないと、この主人公は思ったわけです。
たしかに、ある意味、強固に自分を守護してくれていたわけですから。

Cメロ

これから 何が起きるのか?
誰も知らない
想像もできない未来には
そんないいことばかりじゃない
確かなことはそれだけだ

不自由で息苦しかったけれども、自分を守ってもくれていたその場所から離れた今、自分は一体どうなってしまうのだろうか?
予想もつかないけれども、おそらく悪いこともたくさん起こるのだろう。
そんなふうに、この主人公は不安に駆られているのではありませんかね。

落ちサビ

制服に自由を縛られてたんじゃなく
飛べるわけがないと勝手に諦めてた

今になってこの主人公は思うわけです。
自由を縛っていたのは「制服」ではなくて、どうせできるわけがないと諦めていた自分の気持ちなのではないかと。
いざ自由の身になってみても、では一体何ができたというのか。
何もできやしないではないか。
そんな自分の無力さを実感して、できないことの言い訳を外部(「制服」)に求めてしまっていたことを反省するわけです。

ラスサビは1サビと同じ歌詞ですね。
「制服」の重さとは、まさに鎧の重さだったわけです。
鎧を身にまとえば、身体の動きの自由は妨げられますけれども、自分の身は強固に護られる。
「制服」で象徴されるものの持つ二面性と合致しているではありませんか。
この主人公は、そんな「制服」を脱ぎ捨てたわけです。
それで自由にはなったけれども、守られることもなくなった。
鎧を脱いで身軽にはなったけれども、その身は危険にさらされることになってしまったということです。
「それは幸せなようで不幸かもしれない」と言っているのは、そういうことなのではありませんかね。
そざかしこの主人公は、「制服」の重さを身に染みて感じていることでしょう。

引用:秋元康 作詞, STU48 「制服の重さ」(2019年)


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